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大学・研究所にある論文を検索できる 「乳癌のRNAシークエンスデータを用いたネオ抗原予測手法の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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乳癌のRNAシークエンスデータを用いたネオ抗原予測手法の検討

橋本, 幸枝 筑波大学

2021.08.03

概要

目的:ネオ抗原は免疫原性の高い抗原として抗腫瘍免疫応答の中心的役割を担うと考えられており、免疫療法の治療ターゲットやバイオマーカーとして注目を集めている。近年の次世代シークエンス(Next generation sequencing: NGS)技術、バイオインフォマティクスの進歩によりネオ抗原予測手法の精度は向上しているものの、偽陽性率が依然として高いことや、複数のシークエンスデータを必要とすることからコスト面でも課題が残る。そこで今回私は遺伝子発現情報のみならず塩基配列情報も有する RNA-sequencing(RNA-seq)の特性に着目し、Whole-exome sequencing(WES)データの代わりに RNA-seq データを用いて体細胞変異解析を行うことによりネオ抗原を予測することが可能かについて検討を行った。

対象と方法:筑波大学附属病院で治療を行なった乳癌患者 6 人の乳癌組織と正常検体の NGS データを用いて、以下の 3 つ手法で解析を行なった。
(1) 腫瘍と正常共に WES データを用いる従来の手法(DNA method: Dm)
(2) 腫瘍と正常共に RNA-seq データを用いる手法(RNA method: Rm)
(3) 腫瘍部の RNA-seq データと正常部の WES データを組み合わせる手法(Combination method: Cm)

各手法で特異的/共通の体細胞変異およびネオ抗原候補について、NGS データにおけるカバレッジや変異アレル頻度(variant allele frequency: VAF)、遺伝子発現量、塩基置換の種類などの特徴を比較検討した。また、本解析の過程で DNA と RNA の VAF が大きく乖離した体細胞変異を認めたため、サンガーシークエンス・パイロシークエンスを用いて NGS データの整合性を確認するとともに、この変異について遺伝子発現解析、免疫組織化学染色(タンパクレベルでの発現の確認)、in silico での機能解析を行った。

結果:Rm の結果は正常組織における転写産物の発現状況に大きく依存し、偽陽性率・偽陰性率ともに高かった。Dm と Cm の結果を比較すると、Dm で検出されたネオ抗原候補のうち 86%(154/180)は Cm で検出されなかったが、これらのネオ抗原候補の大部分は腫瘍RNA のカバレッジがないか変異アレルリードを認めないものであった。一方、発現量が高く(TPM>10)、変異転写産物が十分である(RNA の変異アレルリード>5)ネオ抗原候補に関しては、68%(13/19)を Cm で同定することができた。また Cm 固有のネオ抗原候補 26 個の中には新規 RNA editing site や真の体細胞変異である可能性が高いものも含まれていた。本解析の中で、MLPH 遺伝子に DNA の VAF が 17%、RNA の VAF が 99%とアレル頻度が大きく乖離したミスセンス変異(c.644C>T)を認めた。サンガーシークエンスとパイロシークエンスを用いた確認では NGS の結果が追認された。 MLPH 遺伝子の発現量(transcripts per million:TPM)は正常部・腫瘍部ともに高く(238.6TPM vs 454.2TPM)、抗 MLPH 抗体による免疫組織化学染色の結果は正常乳管上皮細胞・腫瘍細胞ともに弱陽性で同程度であった。機能解析の結果は予測ツールによって異なり、病的変異か否かは確定には至らなかった。

考察:ネオ抗原候補の条件として、遺伝子発現があることに加え、変異アレルが転写されることが挙げられる。よって変異転写産物がない体細胞変異を見落とすことはネオ抗原探索という点においては許容されると考える。発現量・変異転写産物が十分あるネオ抗原候補に関しては Cm でも同定することができ、かつ従来法では検出できなかった新規 RNA editing site などによるネオ抗原候補も検出できる可能性が示唆された。腫瘍部の WES を省略することでコストを抑えることもできるため、Cm は従来法に代わる効率的かつ cost-effective なネオ抗原予測手法であると考える。

本研究の解析過程で観察された DNA とRNA の VAF が乖離した MLPH 遺伝子のミスセンス変異については、腫瘍組織と正常組織の遺伝子・タンパク発現に大きな差は認められず、発現量の違いによるアレル頻度の乖離では説明がつかなかった。機能予測の結果はツールによって異なったが、変異アレル頻度の乖離は腫瘍の生存・増殖に関わる遺伝子で生じやすいと報告されており、今回の変異が病的変異である可能性が示唆された。豊富な変異転写産物を有する変異は、機能に関わる情報を与えうるだけでなく、免疫療法の理想的な治療ターゲットとなりうる可能性も高まるため、transcriptome レベルでも変異アレルの存在を確認することは重要なステップであり、Cm はそれも可能にする手法である。

結論:腫瘍の RNA-seq データと正常の WES データを組み合わせて体細胞変異解析を行う手法(Cm)は、ネオ抗原予測において従来法に代わる効率的かつ費用対効果の高い手法である。