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大学・研究所にある論文を検索できる 「肺腫瘍に対する体幹部定位照射(SBRT)に関する治療戦略」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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肺腫瘍に対する体幹部定位照射(SBRT)に関する治療戦略

青木, 秀梨 東京大学 DOI:10.15083/0002002345

2021.10.13

概要

本研究の目的は、当院での肺腫瘍に対する体幹部定位放射線治療( stereotactic body radiotherapy ; SBRT)の新しい取り組みの現状と問題点について検証することである。

第一の研究として、当院で先駆的に開始したflattening-filter free(FFF)法での SBRT の安全性について検討した。

リニアックでは通常、X 線の線量プロファイルを平坦化するためにフラットニングフィルタ(flattening-filter;FF)を内蔵している。その FF を意図的に外して、線量効率を高めた非平坦化ビームで照射を行う技術を FFF 法と呼ぶ。FFF 法の利点を端的にいえば、「線量率の向上による治療時間の短縮」と「散乱線の減少による線質の向上」であるが、不均一な線量分布の誤差の影響 の受けやすさ、表面線量の増加、高線量率ビームでの生物学的影響の変化等が懸念されている。臨床的な効果、有害事象に関してはほとんど報告がないため、今回当院での初期経験を報告し た。

2013 年 11 月から 2017 年 10 月までに当院で肺腫瘍に対してvolumetric modulated arc therapy(VMAT)-SBRT を施行した 67 例を対象とし、対象期間前半の従来法(FF あり)と後半の FFF 法の臨床データを比較した。両群間で、腫瘍病理やサイズ、患者因子等の臨床的特徴や治療計画上の計算値に有意差は認めなかったが、照射時間に関しては FFF 群で有意に短縮しており (p < 0.01) 、FF 群の半分以下となっていた。全生存、無再発生存、局所制御はすべて FFの有無で有意差はなく(それぞれp = 0.164, 0.26, 0.847)、両群ともにgrade3 以上の有害事象を認めなかった。FFF 法による大幅な照射時間の短縮によって、治療の効率化、精度の向上、患者の苦痛軽減が得られ、中心に凸型のFFF ビームによる正常臓器への線量低下も期待される。今回臨床成績で FFF 法の非劣勢を示したことが、今後のさらなる臨床応用につながると考えている。

第二の研究の対象としたのは中枢側肺腫瘍に対するSBRT である。SBRT は末梢肺野に位置する早期肺癌を対象に手術の代替療法として確立しているが、中枢側病変については重篤な有害事象の発生リスクが高く、SBRT の適応や線量分割について未だ議論が多い。当院では中枢側肺腫瘍に対して、末梢 55Gy/4Fr(biologically effective dose; BED10 = 130.6Gy)から分割回数を増やして 56Gy/7Fr (BED 10 = 100.8Gy)処方に設定し、安全性に配慮しつつ積極的に SBRT を行っている。当院で施行している中枢側 SBRT の有効性と安全性について検討した。

2011 年 10 月から 2016 年 10 月に当院で中枢側胸部 SBRT を施行した 35 例 36 病変を対象とし、遡及的に臨床成績を調べた。対象全体の 1 年, 2 年全生存(overall survival; OS)は、59.0% 、 41.6%、1 年, 2 年局所制御率(local control rate; LCR)はともに 96%と良好で、腫瘍の制御については諸家の報告に劣らない成績であった。中でも NSCLC 原発への初回治療としての成績は良好であり(1,2 年 OS 66.7%, 50.0%)、観察期間中2例指摘された局所再発はともに再発病変への SBRTであった。安全性については、9 例(26%)で grade3、うち 2 例で grade5(放射線肺臓炎、喀血各 1例)の有害事象が出現しており、とくに重篤な放射線肺臓炎(grade3 以上 9 例中 7 例)が比較的 高い割合で生じていた。

放射線肺臓炎のリスク因子に関しては、文献的に、中枢気道への近接、浸潤や大きな腫瘍サイズ、胸部手術歴等の関連が報告されている。今回の研究で多変量解析を行った結果では、有意なリスク因子の特定には至らなかった。

当院での中枢側 SBRT の腫瘍制御は良好であった。安全性については改善の余地があり、今後症例数の増加やより詳細なデータ検討によって、重篤な有害事象の予測、対策やリスクの層別化が求められる。

最後に第三の研究として、肺癌術後再発病変に対する SBRT の臨床成績について検討した。肺癌根治術後再発に対する治療では、近年局所療法による腫瘍制御の可能性が示唆されており、Oligo-recurrence に対する再手術も積極的に行われている。一方で、再手術が難しい場合の救済 SBRT の適応、照射法はいまだ確立していない。肺癌胸腔内再発に対する救済 SBRT の有効性、安全性を検討するため、当院での成績をまとめた。

2010 年 9 月から 2016 年 11 月に東京大学医学部附属病院にて原発性肺癌に対する根治的手術後の胸腔内 SBRT 治療を受けた 52 例 59 病変について、遡及的なデータ収集を行った。先行手術から SBRT の期間は中央値 30.5 ヶ月、SBRT 後の観察期間は 25 ヶ月(生存症例では 35 ヶ月)であった。中枢側病変が 20 例 (38.5%)と、SBRT 全体より割合が高く、2 例を除く全例に BED10 100Gy 以上投与されていた。

SBRT 後の OS 中央値は 54 月、1 年, 3 年生存率はそれぞれ 84.4%, 67.8%であった。SBRT 後の再発進行は 18 例(34.6%)、うち局所再発は 4 例(7.7%)のみであり、LC 中央値は 71 月 (60 - not applicable; NA)、1 年, 3 年LCR はそれぞれ 97.9% , 94.9%ときわめて良好であった。OS に関するリスク因子を多変量解析で検討したところ、病変の存在部位(中枢側<末梢側, p = 0.0012)、 SBRT 時点での再手術の可否 (可能<不能, p = 0.00092)が OS と有意に関連する因子であった。 5 例(9.6%)で grade3、うち 2 例(3.8%)で grade5 の有害事象が発生した。grade5 の2例については前述の中枢側病変に関する報告と同一の症例であり、両症例ともに、OAR の線量は制約から逸脱してはおらず、肺葉切除術後の再発であること、中枢側(肺門部)病変の SBRT であることが共通していた。

腫瘍制御(OS, LCR)に関しては、過去の SBRT に関する報告だけでなく再手術の報告にも劣らない治療成績であった。安全性についても、症例背景を考慮すれば許容内と考える。ただし、有害事象による死亡例が 2 例発生しており、重篤な有害事象のリスク因子解明にために、より詳細な検討が必要である。

新しい照射技術である FFF 法、標準治療として未確立の中枢側病変や術後再発病変に対する SBRT の意義と安全性について、本論文では主に臨床的見地から検証し、現状と問題点について報告した。このような挑戦的な治療においては、その発展や臨床応用に大きく貢献が可能な反面、その安全性や精度管理については特に慎重さが求められる。今回の研究に引き続き、今後も継続してデータを蓄積し、安全で有効な SBRT の開発・普及の一助としたいと考える。

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