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医療依存度の高い小児におけるレスパイトケアが健康関連QOLに与える影響

鈴木, 征吾 東京大学 DOI:10.15083/0002002497

2021.10.15

概要

序文
 近年の新生児医療、小児救急医療の発展に伴って、小児の救命率が改善した一方で、救命蘇生後に重い後遺症を残す例や、重度の先天性障害を持った状態で長期的に生存する例が増加しており、日常的に何らかの医療デバイスや医療処置を必要としながら地域で暮らす小児が急増している。在宅で暮らす医療依存度の高い小児は、身体的な不自由さだけでなく、日常的に医療的ケアを必要とするために、親から継続的な見守りを受けることによる心理的な負担や、社会面の影響として友人との交流や学習の機会に制限が生じる。医療依存度の高い小児は、小児慢性疾患患者の中でも身体的、精神的、社会的健康度が悪化するリスクが高く、医療面および福祉面で支援が必要な集団である。
 家族介護者に一時的な休息を提供するレスパイトケアは、医療依存度の高い小児の親にとって欠かせないサービスとして認識されている。一方で、ケアの視点から捉えると、レスパイトケアによって親子が物理的に離れることで、親の健康状態だけでなく、小児の健康状態にも影響を及ぼすと考えられる。基本的に常時見守りが必要な医療依存度の高い小児にとって、レスパイトケアは親の負担軽減だけでなく親子分離の機会となり、小児本人にとっても生活上の制約を軽減する支援となり得る。在宅療養の長期化や成長発達などを考慮すると、医療依存度の高い小児への今後の医療および看護介入を改善していく上では、小児の視点に立った評価が今後さらに重要になると考えられ、医療依存度の高い小児の健康関連Quality of Life(HRQOL)の実態とHRQOLに影響を与えている要因を明らかにする必要がある。しかし、医療福祉および教育に関する公的サービスにおいて、看護師等が医療処置を行うことで提供されるレスパイトケアと医療依存度の高い小児のHRQOLとの関連は明らかになっていない。

目的
 本研究は、医療依存度の高い小児のHRQOLの実態と、レスパイトケアが小児のHRQOLに及ぼす影響を明らかにするために、第一に、レスパイトケアが小児のHRQOLの各側面に影響を与えている実態を明らかにすること、第二に、明らかになったレスパイトケアと小児のHRQOLとの関連を媒介する要因として、親のHRQOLが媒介効果を持つことを明らかにすることを目的とした。

方法
1.研究デザイン:ウェブ上での質問紙調査による横断的観察研究
2.研究期間:2018年2月~3月
3.調査施設:全国の都道府県立特別支援学校のうち、肢体不自由児教育部門または病弱教育部門を設置する237校
4.研究対象者:在宅で暮らす医療依存度の高い8~18歳の小児の主介護者である親。医療依存度の高い小児とは、重症児の判定基準をもとに、人工呼吸器の使用、気管切開、エアウェイ、酸素吸入、薬液吸入、吸引、経管栄養、腹膜透析、導尿、人工肛門管理のいずれかを必要とする小児とした。
5.調査実施方法:
 1) 学校長が研究協力に同意した学校において、包含基準を満たす親は、子が在籍する特別支援学校の教職員から研究内容を記載した説明文書を受け取った。
 2) 回答者はそれぞれパソコンやスマートフォンを使って専用サイトにアクセスし、受け取った説明文書に記載された個別の調査用ID番号を入力したうえで無記名の調査票に回答した。
6.調査項目:
 1) 医療依存度の高い小児のHRQOL:KIDSCREEN-27代理評価版。Physical well-being、Psychological well-being、Autonomy & Parent relation、Peers & Social support、School environmentの5つの下位尺度得点と全般的HRQOL得点を用いた。
 2) 親のHRQOL:A12-ItemShort-Form Health Survey version 2(SF-12)。身体的、精神的、社会的健康度を表す3つの下位概念に基づくサマリースコア(PCS、MCS、RCS)を用いた。
 3) レスパイトケア:過去1か月間に小児が利用した医療福祉サービスの種類と学校教育に関して尋ねた。居宅、通所、宿泊サービスにおける各合計利用時間、および合計利用時間のうち親子が実際にレスパイトケアとして利用できた時間を尋ねた。学校教育については在校時間とそのうち親が付き添わずに過ごせた時間を尋ねた。
 4) 医療依存度の高い小児の属性:年齢、性別、診断名、必要な医療的ケア、運動機能、言語反応
 5) 親の属性:年齢、続柄、婚姻状況、教育歴、雇用形態、経済的暮らし向き、親の介護負担感(Zarit Burden Interview)
7.統計解析方法
 1) KIDSCREENおよびSF-12に欠損のある回答を除外した後に、小児と親の属性、および親子それぞれのHRQOLについて記述統計量を算出した。有効回答者と無効・無回答者との間で小児の属性に関する変数を比較した。
 2) KIDSCREENを結果変数、レスパイトケア時間を説明変数、KIDSCREENと有意な相関があった小児の属性に関する変数を共変量としてパス解析を行った。レスパイトケア時間をサービスの種類で4つに分けたパス図、さらにKIDSCREENを5つの下位尺度に分けたパス図を順に作成し、それぞれパス解析を行った。
 3) 2)で作成したパス図に、媒介変数としてSF-12を追加したモデルを作成してパス解析を行った。KIDSCREENに対して有意な直接効果がみられた説明変数ごとに媒介分析を行った。
8.倫理的配慮:東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を得て実施した。学校を通じて親に研究協力依頼を行ったが、個別の参加状況や回答内容を学校関係者に伝えないことを事前に説明した。

結果
 有効回答数は618名であった。
1.対象の概要
・小児の属性:平均年齢は11.8歳で、移動全般に介助が必要な小児は512名(82.8%)であった。脳炎脳症後遺症や脳性麻痺などの脳神経系の障害および疾患が407名(65.9%)であった。非侵襲的陽圧換気を含めた人工呼吸器の使用者は162名(26.2%)であった。有効回答者と無効・無回答者との間で小児の属性に関する有意差はなかった。
・主介護者である親の属性:平均年齢は43.7歳で、続柄は母親が597名(96.6%)であり、427名(69.1%)が未就労であった。
・レスパイトケア:サービスの種類別では、学校、通所、宿泊、居宅サービスの順にレスパイトケア時間が長かった。学校でのレスパイトケア時間(月平均70.2時間)は、医療福祉サービスにおける合計レスパイトケア時間(月平均36.6時間)よりも長かった。
・小児のHRQOL:全般的なHRQOL得点の平均は37.1点(SD=10.3)で、5つの下位尺度得点は普通学校に通う児童生徒を対象とした得点と比較していずれも有意に低かった。
2.レスパイトケアが小児のHRQOLに与える影響
 仮説に沿って作成したパス図はいずれも良い適合度を示した。結果は以下であった。
 1) 通所サービスでのレスパイトケアは、小児のPhysical well-being、Psychological well-being、Peers & Social supportの上昇と関連した
 2) 学校でのレスパイトケアは、小児のPhysical well-being、Psychological well-being、Peers & Social support、School environmentの上昇と関連した
 3) 学校でのレスパイトケアによる小児のPhysical well-beingおよびPsychological well-beingの上昇は、親のHRQOLによって部分的に媒介された。

考察
 本研究では、小児の年齢、発症時期、言語理解、運動機能、医療依存度を共変量として調整した上で、通所サービスと学校におけるレスパイトケアが医療依存度の高い小児のHRQOLを上昇させていることを明らかにした。また、学校におけるレスパイトケアが親のHRQOLを上昇させ、それに伴って小児の身体面と精神面のHRQOLの一部が上昇することを明らかにした。
 小児のHRQOLの向上に及ぼす効果は、学校でのレスパイトケアで最も高く、次いで通所サービスでのレスパイトケアであったことは、レスパイトケアの時間の長さと目的の違いが影響したと考えられる。通所サービスまたは学校におけるレスパイトケア時間は、居宅または宿泊サービスでのレスパイトケア時間よりもそれぞれ長く、小児にとって日常生活上の大きな要素になっていた。また、健常児と同様の経験ができるように、教育や福祉を目的とした通所サービスや学校教育の中で、医療福祉専門職がケアを行うことによって親子分離を実現することが小児のQOL向上に影響したと考えられる。

結論
 医療依存度の高い小児において、通所サービスと学校でのレスパイトケアはそれぞれ、小児のHRQOLの側面であるPhysical well-being、Psychological well-being、Peers & Social supportの上昇とそれぞれ有意に関連した。学校でのレスパイトケアは、School environmentの上昇にも影響した。公的なサービスにおけるレスパイトケアは、医療依存度の高い小児のHRQOLに対して直接的な効果があり、福祉や教育を目的としたサービスにおけるレスパイトケアを利用しやすい環境をさらに整備していくことが必要と考えられた。

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