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大学・研究所にある論文を検索できる 「組織閉鎖を伴う上皮形成におけるアポトーシス経路の機能」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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組織閉鎖を伴う上皮形成におけるアポトーシス経路の機能

藤澤, 侑也 東京大学 DOI:10.15083/0002005183

2022.06.22

概要

【序論】
発生において、離れた組織が移動し結合することで連続した一つの構造体となる現象は、“組織閉鎖”と呼ばれ、神経管、眼杯、口蓋や心臓を含む多くの器官形成時に起こる。これまでの研究では、主にげっ歯類の神経管と口蓋において、組織閉鎖のメカニズムがよく解析されてきた。これらの過程では、共通して閉鎖部分である正中線にて大量のアポトーシスが観察される。アポトーシスの実行遺伝子の変異体では閉鎖異常が起こり、この表現型はヒトの先天性異常と深く関連すると考えられている。ところが、組織閉鎖に対するアポトーシス経路の制御機能とその分子機序はほとんど明らかではない。

この疑問に迫るため、私は遺伝学的研究に優れたキイロショウジョウバエを用いた。ショウジョウバエの発生では、蛹期に胸部閉鎖(thorax closure)という現象が起こる。thorax closureを伴う胸部上皮の形成過程は、共焦点顕微鏡を用いて、正常発生を乱すことなく、細胞レベルで生体イメージングすることができる。また、体内に色素や阻害剤を注入することにより、染色や薬理実験ができる点でも解析に有用な系であると考えた。

本論文は2部(第1, 2章)から構成されている。第1章では、thorax closure期において、アポトーシス経路が細胞死とは独立して細胞の運動制御に関与することを明らかにした。続く第2章では、thorax closure後の発生期において、NADPHオキシダーゼの制御下で活性化したアポトーシス経路が細胞の脱落に関与することを明らかにし、その制御を介して細胞は生きたまま上皮から離脱することを見出したので報告する。

【第 1 章 結果】
ショウジョウバエthorax closureに果たすアポトーシス経路の機能に迫るため、まずcaspase3の活性を検出した。その結果、thoraxが融合する先端部分で高頻度にcaspase3活性化細胞を観察した。生体イメージングによりcaspase3活性化細胞を追跡した結果、そのほとんどが細胞死を起こさないことから、閉鎖時期のカスパーゼ活性はアポトーシスとは独立した機能に関わるのではないかと考えた。次にカスパーゼを遺伝学的に阻害する実験から、カスパーゼの活性化が thoraxの閉鎖速度を負に制御することを示した。このような非アポトーシス性の caspase3活性は、組織閉鎖と多くの共通点を持つwound closureを上皮の焼灼により誘導した場合にも確認された。解析の結果、wound closureにおけるカスパーゼの活性化はミオシンIIを制御する可能性を見出した。

【考察】
非アポトーシス性のカスパーゼ活性が細胞の運動を制御するという報告がこれまでにいくつかあるが、カスパーゼによってどのような因子が制御されるのかはほとんど不明だった。少なくとも 4 つの Rho GTPase 遺伝子ファミリーはカスパーゼによる切断箇所を有するため、これらの因子がカスパーゼのプロテアーゼ活性により切断されることが細胞の運動制御に関わるのかもしれない。また、カスパーゼの阻害個体では wound closure 後の損傷部分に細胞のデブリが残ったことから、カスパーゼによる細胞の運動制御を介した閉鎖速度の遅延は、残骸の処理を十分に行える治癒速度を保証する調整機構とも考えられた。

【第 2 章 結果】
thorax closure後の蛹期胸部の上皮形成に果たすアポトーシス経路の機能に迫る ため、まずカスパーゼを遺伝学的に阻害した。その結果、アポトーシス経路が thorax closureを起点として誘導される細胞の脱落に必要であることを確認した。次に、アポトーシス経路を介して細胞の脱落を制御するメカニズムを調べるた め、遺伝学的なスクリーニングを行うことで制御因子を探索した。その結果、 NADPHオキシダーゼの関与を同定し、このオキシダーゼはcaspase3の活性化を介して細胞の脱落に関わることを示した。解析の結果、NADPHオキシダーゼにより産生される活性酸素種(ROS)のsuperoxide(O2・—)が細胞の脱落を誘導することが分かった。その一方で、O ・—を介して産生されるhydrogen peroxide(H2O2 )は、caspase3の活性化により起こるアポトーシスに特徴的な形態変化を抑制することで、形態を保ったままの細胞の脱落を可能にすることを見出した。このような二方向性のROSによる制御を介して、脱落する細胞は確かにcaspase3を活性化するがアポトーシスを伴わずに生きたまま上皮から消失していくことを明らかにした。

【考察】
これまでの研究では、アポトーシス経路に依存した上皮細胞の脱落がどのような制御分子により誘導されるのか理解が十分ではなかった。本論文では、thorax closure 後の胸部上皮で起こる細胞の脱落が、一部は NADPH オキシダーゼを介するアポトーシス経路の活性化により制御されていることを報告した。組織閉鎖はわれわれの様々な臓器形成に関わるため、本論文で明らかとなったアポトーシス経路に関わる制御機構が、将来的には、ヒト上皮組織の閉鎖異常や上皮細胞の脱落を伴う疾患を理解する一助になることを期待している。

参考文献

(1) Fujisawa, Y., Kosakamoto, H., Chihara, T and Miura, M. Non-apoptotic function of Drosophila caspase activation in epithelial thorax closure and wound healing. Development, 146, dev169037 (2019). doi:10.1242/dev.169037. 113(7):1835-40.

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