脳内グリア機能が左右する即時/事後学習の補償的調整機構の解明
概要
記憶の形成は、心の状態に左右される。記憶は、トレーニング中に急速に成立する即時学習(オンライン学習)と、トレーニング間の休息時に徐々に進行する事後学習(オフライン学習) 2種類の学習過程があることが知られている。
本研究では、マウスの小脳運動学習パラダイムを用いて、両学習過程は反比例の関係にあることを発見した。すなわち、オンライン学習を重視し、早期に短期記憶の形成が認められる「早熟型」は、その後のオフライン学習が停滞し、長期記憶の形成が抑制された。
一方、オンライン学習がふるわず、短期記憶の形成が認められない「晩成型」は、オフライン学習が促進されていることが示された。これらの学習戦略の切り替えは、グリア細胞のうち、アストロサイトが重要な役割を果たすことが示された。
アストロサイト特異的にアニオンチャネルサブユニット LRRC8A をノックアウトすると、オンライン学習が抑制される一方で、オフライン学習が促進され、対照群と同様の学習効果を発揮した。小脳アストロサイトのChannelrhodopsin2(ChR2)を光遺伝学的に活性化すると、細胞内が酸性化し、アニオンチャネルを介してグリアのグルタミン酸が放出される。
アストロサイトの ChR2 を光活性化すると、オンライン学習が促進された。一方、グリアの ArchaerhodopsinT(ArchT)を光活性化すると、 オンライン学習が抑制された。興味深いことに、トレーニングの合間にグリアのChR2を光活性化しても、オフラインの学習には影響がなかったが、ArchTを光活性化すると、オフラインの学習が亢進した。
これらの結果は、オンライン/オフライン学習の両方の効果がアストロサイトの活動に影響され、適応行動の様式がグリア細胞の状態に依存することを示唆している。