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大学・研究所にある論文を検索できる 「イベリアトゲイモリ中胚葉関連遺伝子の発現解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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イベリアトゲイモリ中胚葉関連遺伝子の発現解析

山崎 芽衣 中央大学

2022.09.22

概要

【背景】
発生生物学でモデル生物として用いられている無尾両生類のアフリカツメガエル (Xenopus laevis)と有尾両生類のアカハライモリ (Cynops pyrrhogaster)では,後期胞胚期における予定運命図が異なる.アフリカツメガエルの胚は表層と内層からなるが,中胚葉領域は内層にある.予定体節領域は帯域でリング状になっており,中内胚葉は予定体節領域の内側を裏打ちするような形で存在している.これに対しアカハライモリでは,中胚葉領域はすべて胚の表面に存在している.帯域の背側は予定体節領域で,腹側は側板領域である.アカハライモリの側板はアフリカツメガエルの中内胚葉に対応する領域であると考えられる.この予定運命図の違いが無尾両生類と有尾両生類の一般的な違いなのか,もしくは種による違いなのかは不明であった.

また,原腸形成は大規模な細胞位置の再編成を行う動物の最初の形態形成運動であり,この時 期に体軸が形成される重要な過程である.一般的に後期胞胚期に背側でボトル細胞が形成され,その後原腸形成を開始し,予定中胚葉細胞が陥入し胞胚腔蓋に沿って動物極側に移動していく.アフリカツメガエルでは,背側での巻き込みが始まった時点で予定中内胚葉では goosecoid (gsc)が発現しており,また同時期に中軸中胚葉で brachyury (bra)の発現が見られる.これに対し,この時期にアカハライモリでは bra の発現はほぼ見られず,gsc はアフリカツメガエルと比較してより限定した領域で発現している.

上述した bra と gsc はそれぞれ fibroblast growth factor 8 (fgf8),nodal という分泌性タンパク質によって発現が促進される.bra は T-box ドメインを持つ転写制御因子であり,gsc 発現領域の後方の領域で発現する.また,bra はアフリカツメガエルにおいては中胚葉マーカであることが知られている.gsc はホメオドメインを持つ転写制御因子であり,中胚葉の先端領域で発現する.また,オーガナイザー形成に関与している.原腸胚期に fgf8 が帯域で発現することで bra の発現を促進し,nodal が背側で強く発現することで背側中胚葉で gsc が発現する.

アカハライモリはこれまで発生や再生の研究材料として用いられたが,産卵数が少量で世代交代に時間がかかるため,遺伝学的な実験が難しいという欠点があった.これに対しイベリアトゲイモリは同一個体から二週間ごとに採卵が可能で世代交代が早いという利点があり,現在モデル生物化が進んでいる.本研究では,有尾両生類であるイベリアトゲイモリの遺伝子発現を調査し,原腸形成の共通性と多様性について研究を行った.

【方法】
イベリアトゲイモリ原腸胚を目的のステージで固定し,保存した.作製したプローブを用いてイベリアトゲイモリ原腸胚における WISH (Whole-mount in situ hybridization)を行い,nodal,gsc, fgf8,及び bra の 4 種類の遺伝子に関して発現領域を決定した.また,胚の内部の染色を確認するため,胚を正中断面で切断し断面を観察した.WISH は mRNA を検出する方法であり,胚のどの領域に目的の mRNA が存在しているかを可視化することが出来る.

【結果】
WISH の結果,用いたすべてのプローブにおいて原腸胚での発色が見られた.nodal は初期原腸胚で植物極側の細胞で発現が見られた.中期原腸胚では原口を囲む円周状の発現が見られ,後期原腸胚では背側後方の左右二か所で斑点状の発現が見られた.gsc は初期原腸胚から中期原腸胚まで原口上唇部での発現が見られ,後期原腸胚では脊索前板に発現が限定された.fgf8 は初期原腸胚では背側の原口上唇部で発現が見られ,中期原腸胚では原口を囲む円周状の発現が見られた.後期原腸胚では原口の腹側で発現が見られた.bra は初期原腸胚において背側の原口上唇部で発現が見られ,中期原腸胚では原口周囲で強く発現し,中期原腸胚後期では左右二か所から前方に伸長する領域で発現がみられた.後期原腸胚では予定脊索領域と原口周辺で発現が見られた.

bra の中期原腸胚の発現パターンはアフリカツメガエルと異なっており,発現パターンを確認するため WISH を行った.イベリアトゲイモリでは中期原腸胚期に前方に向かって左右二か所からの伸長が見られたが,アフリカツメガエルではほぼ同時期に前方に向かって一か所から伸長していた.さらに,胚の内部の染色を確認するため,中期原腸胚期のイベリアトゲイモリの胚を正中断面で切断し,観察した.原口付近の陥入した細胞で明瞭な染色が確認されるとともに,前方へ伸長する中胚葉領域でも発現が同様に観察された.

【考察】
gsc と nodal はアフリカツメガエルと同じ発現パターンを示した.このことは,前方中胚葉の分化は種を超えて共通であることを表していると考えられる.また,nodal の左右二か所の斑点状の発現は左右軸の決定に関与している可能性が考えられる.

fgf8 はシグナルが弱く見られたが,先行研究の RNA-seq の結果では fgf の中で原腸形成期に最も発現量が多いことが報告されている.そのため,mRNA の転写量に比較して bra を促進する作用が高いか,もしくは Wnt など他の因子と相乗的に作用している可能性が考えられる.

bra の発現パターンに関してアフリカツメガエル,イベリアトゲイモリ,アカハライモリで比較すると,アフリカツメガエルは初期原腸胚期から発現が見られるが,アカハライモリは中期原腸胚期から発現する.イベリアトゲイモリはその中間であった.このことは,種間で中軸中胚葉の特異化に違いがあることを示していると考えられる.また,アフリカツメガエルとイベリアトゲイモリの中期原腸胚期で前方に伸長する領域での発現パターンの違いは,体節から脊索へと発現がシフトするタイミングの違いや,体節形成様式の違いによるものではないかと考えられる.

これらの結果から,イベリアトゲイモリはアフリカツメガエルとアカハライモリの中間型であり,bra の発現パターンは有尾両生類と無尾両生類の違いではなく,中軸中胚葉の特異化過程に依存することが示唆された.今後は,他の遺伝子に関しても網羅的に調査することで,両生類における原腸形成様式の共通性と多様性がさらに明らかになっていくだろう.

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