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大学・研究所にある論文を検索できる 「Activation of a Cytochrome P450-Based Whole-Cell Biocatalyst by Substrate Mimics」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Activation of a Cytochrome P450-Based Whole-Cell Biocatalyst by Substrate Mimics

唐澤, 昌之 名古屋大学

2022.06.03

概要

シトクロム P450 は酸化反応を触媒する酵素であり、代謝や生合成において重要な役割を果たしている。P450 は活性化されていない C–H 結合や C=C 結合を官能基化できるため、酸化触媒として化学合成へと応用する試みが数多くなされてきた。しかしながら、P450 は酸化活性種を生じる際に化学両論量の高価な NADPH を消費してしまい、実用化に向けた大きな障壁となっている。細胞そのものを触媒と見立て、P450 を発現させた細菌の内部で反応を行う菌体反応系は、この課題を解決する有効な手段である。細胞内には NADPH が存在し、かつ代謝によって NADPH は再生されるため、グルコースといった安価な糖を供給することで酵素反応を維持できる。巨大菌から単離された CYP102A1 (P450BM3) は、P450 の中でも極めて高い酸化活性を有するため、菌体反応系へと応用する有望な候補であると見なされてきた。P450BM3 は長鎖脂肪酸を水酸化する酵素であるが、酵素の基質特異性により、長鎖脂肪酸以外の化合物に対しては反応速度が著しく低下してしまう。所属研究室ではこれまで、長鎖脂肪酸の模倣物「デコイ分子」を用い、P450BM3の基質特異性を変換する技術を開発してきた。デコイ分子は P450BM3 の活性部位を部分的に占有することで酵素の反応空間を調整し、P450BM3 によるベンゼンやプロパンの水酸化を可能とする。本論文は、デコイ分子を用いた P450BM3 の基質特異性の変換法を菌体反応系へと展開し、高価な NADPH の消費なしに小分子を水酸化する新規菌体触媒に関する報告である。

第二章では、P450BM3 を過剰発現させた大腸菌を触媒とする、ベンゼンからフェノールへの直接変換を達成した。デコイ分子を大腸菌の懸濁液に添加するのみで菌体触媒はベンゼンを水酸化可能となり、フェノールの生成量はデコイ分子の構造に依存して大きく変化した。一方で、精製した P450BM3 に対しては高い活性を示すデコイ分子であっても、菌体反応系では有効でないものも見られ、両者の間に相関はなかった。数種類のデコイ分子について大腸菌への毒性を評価したが、いずれのデコイ分子も有意な毒性を示さなかった。また、菌体反応系に有効なデコイ分子は低濃度でもベンゼンの水酸化を促進した。以上の結果から、デコイ分子の活性の差はデコイ分子の細胞膜透過性に起因していると推測され、高活性なデコイ分子は P450BM3 の活性化に十分な濃度が菌体内に存在していると結論付けた。調査したデコイ分子の中で、N-heptyl-L-prolyl- L-phenylalanine (C7-Pro-Phe)は例外的に菌体反応系で優れた活性を示し、フェノールの GC 収率は 38%に達した。C7-Pro-Phe 存在下での一置換ベンゼンの水酸化も併せて報告する。

第三章では、菌体触媒へのデコイ分子の取り込みを促進する膜タンパク質変異体を開発した。菌体反応系では、細胞膜によって外部添加物の取り込みが制限され、物質の変換が十分に進行しないということがしばしば問題となる。実際に、第二章では C7-Pro-Phe のみが菌体反応系に適していた。OmpC や OmpF に代表されるポリンと呼ばれる大腸菌の外膜タンパク質は、ジペプチドや抗生物質といった低分子の取り込みに関与している。本章から、 C7-Pro-Phe が OmpC と OmpF を通過すること、また、双極性のデコイ分子が菌体反応系に有効であることが示唆された。一方で、既知の数百種類のデコイ分子のほとんどがモノアニオン性の分子であった。そこで、デコイ分子の取り込みを促進する OmpF 変異体の開発に取り組んだ。OmpF には L3 ループによって形成される狭窄部が存在しており、L3 ループには負電荷を有するグルタミン酸とアスパラギン酸が局在している。孔のサイズを大きくすると共に電荷を変更するため、L3 ループを欠損させた変異体 OmpFΔ108-130 を設計した。OmpF変異体と P450BM3 を大腸菌に共発現させると、様々なモノアニオン性デコイ分子の存在下で、ベンゼンの水酸化が有意に促進されるようになった。OmpF 変異体によって、C7-Pip-Phe存在下でのベンゼンの水酸化物は 12 倍増加し、GC 収率は 70%、フェノールの選択性は 80%に達した。さらに、この菌体反応系を用いた、芳香族ベンジル位の立体選択的な水酸化反応についても記述する。

第四章では、グラム陰性細菌が分泌するシグナル物質として知られるアシルホモセリンラクトン (AHL, Cn-HSL) とその分解物であるアシルホモセリン(AHS, Cn-HS) がデコイ分子として機能することを見出した。X 線結晶構造解析から、C16-HS はデコイ分子と同様の結合様式で結合していることが明らかとなった。一方、C12-HSL の結合様式は異なっており、ラクトン環は C16-HS のカルボキシ基よりも基質結合部位の奥に位置していた。精製した P450BM3 によるベンゼンの水酸化反応を行うと、AHL の中では C8-HSL が、AHS の中では C10-HS が最も酵素反応を促進した。この長依存性の違いは、結晶構造中での AHL と AHSの結合様式の差を反映していると推測している。しかし、AHL と AHS のデコイ分子としての活性は既知のデコイ分子に比べると著しく低かった。C10-HS は菌体反応系にも適用可能であり、OmpFΔ108-130 と P450BM3 を過剰発現させた大腸菌でベンゼンの酸化反応を行うと、フェノールの GC 収率は最大 30%に達した。既存のデコイ分子は化学合成が必須であり、デコイ分子を反応溶液に添加するというコストを要していた。天然物をデコイ分子として利用すれば、菌体自身がデコイ分子を生産する、より実用的な菌体反応系の開発につながり、第四章はその足掛かりとなることが期待される。

以上、申請者は、デコイ分子による P450BM3 の制御法を菌体反応系へと拡張し、高価な NADPH を消費することなく、P450BM3 を過剰発現させた大腸菌内で酸化反応を行う技術を開発した。本論文のように、外部添加した化学物質によって菌体内に発現した酵素の基質特異性や反応の立体選択性を制御する手法は類を見ない。また、本手法は変異導入法と併用でき、基質に応じて P450BM3 の反応空間をより厳密に設計可能になると考えている。菌体触媒はグリーンケミストリーの分野で有望視されており、本論文はその発展に貢献するものと期待している。