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放線菌が生産するヌクレオシド系化合物の生合成研究

白石, 太郎 東京大学 DOI:10.15083/0002004201

2022.06.22

概要

序論
天然物は、前駆体となる一次代謝産物が生合成酵素による様々な触媒作用を受けることで生合成される。核酸塩基と結合した糖からなるヌクレオンドは DNA やRNAとして全ての生物に普遍的に存在する、遺伝情報を司る重要な生体成分である。それに加えてATPのようなエネルギー源、あるいはCAMPやppGppなどのようなングナル分子、NDP-sugarに見られるような糖の運搬体や、NAD,S-ademosyl-L-methionine SAM)などのようないくつかの補酵素など、重要な役割を担う化合物の構成成分としても知られている。このようにヌクレオンドは生体内で様々な役割を担うことから、そのアナログであるヌクレオンド系二次代謝産物は多様な活性を有することが報告されており、実際にそのいくつかは農薬や抗生物質として実用化されている。この様にスクレオンド系二次代謝産物は非常に有用な化合物群である一方で、ポリケチド化合物やペプチド系化合物と比較してその生合成に関する知見は乏しい。しかしながら、近年余々に明らかにされてきたヌクレオンド系抗生物質の生合成研究の結果から、この化合物群の生合成ロジックはポリケチドやテルペノイド、ペプチド系化合物といった他の天然化合物群と比較して多様性に富んでいることが明らかになった。ヌクレオンド系抗生物質のゲノムマイニングによる探索をより効率的なものとするためには、骨格形成に関与する酵素に関する知見のさらなる拡充が必要とされている。一方で、ヌクレオンド系抗生物質の生合成は、他の化合物郡と比較して遅れていることと、その生合成機構が多様性に富んでいることから、新たな知見の発見が期待できる。すなわちメクレオンド系抗生物質は生合成研究の対象化合物として大変魅力的な化合物郡であるとも言えるだろう。このような背景から、私はヌクレオンド系抗生物質の生合成に関するさらなる知見を得るとともに新奇な生体触媒反応を発見するため、四種類のヌクレオンド系抗生物質を対象にその生合成研究に着手した。

第1章 リポヌクレオンド系抗生物質 A-94964の生合成
A-94964は放線菌 Streptomyces sp.SANK 60404株の培養抽出液から細菌のペプチドグリ完成合成阻害活性スクリーニングにより単離されたリポヌクレオンド系抗生物質である。A-94964にはこれまで報告のあるヌクレオンド系抗生物質とは異なる3位にヘテロ原子が存在しない8炭素ウロン酸の構造を有することから、新奇な CS伸長反応の存在が示唆された。また天然物では報告例の少ないリン酸ジエステル構造についてもその形成機構に興味が持たれた。そこで新奇酵素の発見や、マクレオンド系抗生物質のゲノムマイニングに資する新たな知見を得ることを目指しA-94964の生合成研究に着手した。

A-94964 生産菌のゲノムシーケンスを行い、得られた配列データを解析することで生合成遺伝子クラスター候補の探索を行なった。次いで生合成遺伝子クラスター候補領域を含むコスミドクローンを SANK 60404のコスミドライブラリーからスクリーニングし、得られたクローンを異種放線菌へ導入した。得られた形質転換体においてA-94964の生産能が検出されたことからこのクローンにA-94964生合成遺伝子クラスターが含まれることが示された。さらに遺伝子クラスター中の各遺伝子を破壊し、生産される化合物を精査することでA-94964生合成遺伝子クラスターの最小単位anbl~anblSを同定した。加えてこの遺伝子破壊実験によりAnbl5が糖修飾反応に、Anb14がアミノ糖部分のメチル化修飾反応にそれぞれ関与することが示された。また不自然な1型PKSをコードするanb6-9及び機能未知酵素をコードするanb3がアシル化反応に関与することが示唆された。加えて機能未知酵素 Anb10 がヌクレオンド構造の修飾反応に関与する可能性が強く示唆された。そこで次にAnb10の詳細な機能解析を試みた。まず恒常発現プロモーターの下流にanb10を組み込んだベクターを異種放線菌に導入し、その代謝産物を解析した結果、新たにピルビン酸とウリジンが結合した化合物と一致するmを示す化合物を検出した。さ以上の結果からA-94964生合成における初発反応はAnb10によるウラシルの修飾反応であることが強く示唆された。このことをより詳細に解析するため、Anb10の組換え酵素を調整し、この初発反応のin vitro 反応を試みた。得られた組換え Anbl0を各種ウリジン関連化合物、ピルビン酸と共に反応に供した結果、UDP及びUIPをウリジンドナーとした際に化合物1の形成を検出した。このことから Anb10はピルビン酸とUDP間でのC-C結合形成反応を触媒する酵素であることが示唆された。さらにanb10強発現株にanb2を導入し、代謝産物を解析したところ1が水酸化されたような化合物の生産を検出した。これらの結果からA-9494 推定生合成経路を図1のように提示することができた。

第2章 リポヌクレオンド系抗生物質 caprazamycin 生合成におけるジアゼパノン環形成機構の解明
caprazarnycin 類(CPZs)は2003 年に放線菌 Strentomyces sp.MK730-62F2 より単離されたヌクレオンド系抗生物質である。近年、その誘導体であるCPZEN-45は優れた選択的抗結核菌活性を有すること、さらにその作用機序に関しても報告され、新たな抗結核菌薬として期待されている。一方でその生合成遺伝子クラスターは同定されてはいるものの、生合成経路に関する知見は少なく、特にカプラザマイシンの特徴的なジアゼパノン環の形成機構については未解明のままである。そこで、本研究ではカプラザマイシンの生合成経路を明らかにすることで、新奇酵素の発見やカプラザマイシンの効率的な生産につながる知見を得ることを目的とした。

そこでまずカプラザマイシンの生合成遺伝子クラスター中の各遺伝子の彼壊株を作製し、その培養抽出液を解析することで生合成中間体と推測される化合物の単離・構造決定を試みた。次に同定した生合成中間体候補化合物と、破壊した遺伝子産物の組換え酵素を用いて inviro活性試験を行うことで各種酵素の同定と生合成経路の同定を試みた。二回交文法によりcpz10, cpzll, cpzl3, cpz26の各破壊株を作製し、その培養抽出液をLC-MS解析に供した。その結果、それぞれ野生株では検出されない新たな化合物の蓄積を検出した。各化合物の推定構造と各遺伝子の推定機能から、カプラザマイシンの生合成経路を推測した。この推定生合成経路を検証するためにcpz/3および cpz/1 破壊株が蓄積する中間体候補化合物それぞれ2 および4の単離・構造決定を行った。次に、こうして得られた化合物を、調製した各組換え酵素とのinvit反応に供した。その結果、化合物2はCpz13とCpz10によって化合物4へと変換されることが明らかになった。さらなる解析の結果、Cpzl3はSAM 由来の3-amino-3-carboxypropyl 基を転移する新規なPLP依存型の酵素であることが明らかになった.

また、化合物4はSAM依存的にCpzl1 によりジアゼパノン環を形成したと推測されるmzを示す化合物5へと変換された。このことからCpzl1はペプチド結合形成を触媒する新規酵素であることが示唆された。さらに各中間体を用いたCpz26組換え酵素による in vio アッセイの結果、ジアゼパノン環中の窒素原子の二箇所のメチル化反応は共にCpz26により触媒されることが明らかになった。すなわちCpz26はアミノ基のN-メチル化反応に加え、アミドのNメチル化をも触媒する二機能性の酵素であると言える。以上により caprazamycin生合成におけるNN-ジメチルジアゼパノン環形成機構の全容を図2のように明らかにした。

第3章 caprazamycin 生合成におけるアシル化機構の解明
天然物は主骨格の多様性のみに依らず、糖付加反応やアシル化反応、水酸化反応などのような、様々な修飾反応によりその構造多様性が拡張されている。加えてこのような修飾反応はしばしばその活性の多様性にも寄与することが報告されている。前出の caprazamycinの生合成においては、アシル化反応がその生理活性に重要であることが報告されている。しかしながらそのアシル側鎖形成機構についても未解明のままであった。そこで本章ではアンル化修飾機構を明らかにすることで、caprazarnycin の構造多様性の拡張に資する知見を得ることを目的とした。

各遺伝子破壊株の培養抽出液を解析した結果、cpz23とcpz24、そして両遺伝子間に新たに見出した204 bpのoffcpzx)の碳壊株においてカプラザマイシンにアシル側鎖が付加しておらず、アミノ糖にリン酸基が付加しcaprazol-3”-phosphate (C3p)が蓄積することが明らかになった。次にこの化合物とPalmitoyl-CoAをCpz23、Cpz24、Cpaxの組換え酵素と共に反応に供し反応産物を解析した。その結果、三つの酵素が揃った場合にのみ Palmitoyl基が付加した化合物と推測される化合物が検出された。さらに詳細な解析に基づき、この反応機構を次のように提唱する。まずCpz24の基質となるC3Pが、CpzxのC末端側のロイシンセリン間のペプチド結合を求核攻撃し、CpzxのC未端11アミノ酸の脱離を伴いCpzX-C3P 複合体が形成される。次に、この複合体を基質にCpz23によるアシル化反応が進行し、最後に再びCpz24の作用でもう一分子のC3Pがこの複合体に求核攻撃を行いアシル化体の放出とCpzx-1 複合体の再形成がおこるというものである(図2)。Cpaxは、C3Pのような親水性に富んだ中間体を、疎水性の高い中間体へと変換する反応を媒介する一種のキャリアタンパク質として作用していることが推測される。

第4章 ペプチジルヌクレオンド系抗生物質 amipurimycin の生合成
Amipurimycin (APM はニューギニア土壌サンプルから単離された Streptomyces novoguincensis株の培養液中から発見されたペプチジルメクレオンド系抗生物質である。APMはイモチ病の病原菌である Pyriculariaoryzae の生育を特異的に阻害するため、新規農薬のリード化合物として期待されている。またAPMは2-aminopurine、cispentacin、1,2-dihydroxyethy1基を側鎖に持つ糖など特徴的な構造を有しているが、生合成に関する報告はなかった。そこで本研究ではAPMの生合成経路の全容を解明することで、新規酵素の発見や創薬に繋がる知見を得ることを目的としている。我々がこれまでに同定した APM 生合成遺伝子クラスター(amcクラスター)中には、核酸と糖構造からなる APMの主骨格から推測される糖骨格の生合成に関与する酵素遺伝子は含まれていなかった一方で、ポリケチド合成酵素やNRPSをコードする遺伝子が含まれていた。これらの酵素がどのように生合成に関与するのかを明らかにするため、APM 高生産株に、各種C標識基質の取り込み実験を行った。次いでこれらの培養液から13C標識されたAPMを精製し13C-NMR および2D INADEQUATE 測定による解析を行った。その結果、APMの糖構造にはグルコースは直接取り込まれないこと、酢酸は取り込まれないこと、グリセロールは一部取り込まれることが明らかになった。また、生合成経路を予測するために遺伝子破壊株を作製し、代謝物の解析を行った。以上の結果をふまえ、PKS、NRPSが関与するAPM 生合成経路を提示した。

第5章 プリンヌクレオンド系抗生物質 angustmycin の生合成
Angustmycin A(A)およびC(C)は放線菌、Steptomyces angustmgyeeticusの培養液から単離されたスクレオンド系抗生物質である。それらの構造は、アデノシンのC1位にヒドロキンメチル基が付加したものとなっている。加えてAは特徴的なevo-glycal構造を有しているという点でCと異なる。AおよびCは、アデノシンアナログである構造を反映して、抗腫瘍活性や抗菌活性など、様々な生物活性を示す。特筆すべきことに両化合物は GMP合成酵素の阻害活性を有するため、生体内のGTP、GDP量を制限する目的で生化学試薬として広く用いられている。この様に有用な化合物であるにも関わらず、その生合成に関する知見はさしい。そこで私は、AおよびCの効率的な生産系の構築や、Aに見られる特徴的な五員環 exo-glycal 構造の形成機構を解明するため、angustrycin 類の生合成研究に着手した。

ゲノムシーケンスの比較解析の結果、Aの生合成遺伝子クラスター候補を一つ見出し、agmクラスターとした。6つのorからなるこの遺伝子クラスターを強発現プロモーターの下流になるようにクローニングし、異種放線菌へ導入した。得られた形質転換株を培養し、その抽出液を解析した結果、AおよびCの生産が新たに検出された。以上の結果から、agmクラスターがAとC生合成に関与することが示された。各酵素遺伝子の解析結果から、Agin6がCからAへの変換反応を触媒すると推測し、組換え酵素を用いた in vinoアッセイを行った。その結果、NAD*と酵素依存的なCからAへの変換反応が検出された。したがってAgm6がCからAへの変換反応を触媒し、Aに特徴的なero-glycal構造の形成を担うことが明らかになった。Agm6はこれまでに報告されているero-glycal構造形成を触媒する酵素とは全く相同性を有さず、加えて五員環exo-glycal構造を形成する酵素としては初めての報告例となる。

総合討論
本論文では有用な生理活性を示す4つのヌクレオンド系化合物の生合成研究を行なった。これにより、これまでに類を見ないユニークな酵素や生合成機構を多数明らかにすることができた。天然物の生合成機構には、本研究で明らかになったような未だ我々が手にしていない新奇な酵素や機構が多数あると言えるだろう。近年の生命科学の研究の進展は著しいものがあり、研究手法や研究目的も大きく変化していく。天然物の生合成研究においても、近年のゲノムシーケンシングの発展や構造解析技術の進展により様々な技術が開発されており、様々なアプローチが可能となっている。今後このような技術を駆使することで、未知の可能性を秘めた微生物という天然資源の可能性をさらに拡張することが可能であると言えるだろう。

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