リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「体幹部定位放射線治療用のミクロサイズの輝尽性蛍光体を用いた光ファイバー型リアルタイムインビボ線量測定システムの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

体幹部定位放射線治療用のミクロサイズの輝尽性蛍光体を用いた光ファイバー型リアルタイムインビボ線量測定システムの開発

Yada, Ryuichi 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
近年、体幹部定位放射線治療(以下、SBRT)の需要は高まり、様々な部位にその適応は拡がっている。SBRT は、従来の治療法よりも 1 回あたり高線量を照射するため、計画された線量分布と実際に照射された線量分布の違いによる影響ははるかに大きい。そのような照射エラーは、ターゲットの線量カバレッジを低下させるだけでなく、危険臓器に重篤な副作用を引き起こす。したがって、特にターゲットと危険臓器が近接している場合には、非常に高い照射精度が求められる。SBRT における質と安全を担保するために多くのガイドラインが発表されており、4D イメージングやゲート照射などの先進的な技術が用いられているが、それでもなお、患者の動きや呼吸などの要因により、予期できないエラーが発生する可能性がある。

SBRT 照射におけるエラーを完全に防ぐことは出来ないため、これらのエラーの影響が許容可能であるかを定量的にリアルタイムで評価するシステムが必要不可欠である。そのようなエラーを検出するための最善の方法は、インビボ線量測定(以下、IVD)である。IVD は、既存の多くの品質管理手法では見逃してしまうようなエラーを検出できるため、非常に有用であると報告されている。さらに、様々な団体が IVD システムの使用を推奨している。しかし、SBRT においては、リアルタイムで正確かつ高精度に線量を測定できるインビボ線量計はまだ実用化されていない。

【目的】
本研究では、マイクロサイズの輝尽性蛍光体(BaFBr:Eu2+)を用いて、リアルタイムで正確かつ高精度な測定が可能なSBRT に適したインビボ線量計システムを開発することを目的とした。

【材料および方法】
開発した線量計の輝尽性蛍光体の有感体積は、1.26×10-5 cm3 であった。線量計システムは、時間分離技術を用いてノイズ信号を完全に除去するために、線形加速器(以下、LINAC)の光子ビームパルスと同期して、ノイズ信号の減衰後に輝尽性蛍光体に光刺激を与えるように設計した。ノイズ信号には、ステム信号と輝尽性蛍光体で生成された放射線ルミネセンス信号を含んでいる。さらに、線量計システムは、あらかじめ設定した任意の数の光子ビームパルスが入射された後に信号を読み出すことが可能な蓄積型の線量計に構築した。

すべての測定は、TrueBeam STx(Varian Medical Systems)で行った。エネルギーは、SBRTにおいて使用される頻度が高い、10 MV のフラットニングフィルタフリー(以下、FFF)の光子ビームを使用した。一部の測定項目を除いて、線量計のプローブは、アクリル製のフォルダを使用して、MP3-M 水ファントム(PTW Freiburg)内に固定した。そして、水ファントム内の水温は、臨床のIVD の応用のために、ヒーティングユニットを利用して 37℃に維持した。

まず、ノイズ信号と輝尽性蛍光信号の減衰時間を測定した。時間分離技術を使ったノイズ信号の除去は、すべての輝尽性蛍光信号がノイズ信号の減衰後から次の光子ビームパルスの入射までの間隔内で読み出せる場合のみ可能である。したがって、ノイズ信号と輝尽性蛍光信号の減衰時間を正確に特定することは非常に重要である。さらに、我々の線量計システムは、信号を読み出すまでの蓄積パルス数を任意に設定できる。したがって、設定パルス数による信号応答と各パルス数における測定精度を評価した。

次に、SBRT 条件下での線量測定システムの基礎特性を調べた。項目は、再現性、線量直線性、線量率依存性、温度依存性、および角度依存性を評価した。その後、臨床応用の可能性について検討した。実現可能性は、様々な線量勾配(0.38, 0.86, 1.38, 2.21 Gy/mm)での測定精度と転移性肝腫瘍に対する代表的な治療計画を用いた測定精度において評価した。一般的に、SBRT は、小照射野で線量勾配が非常に急峻な線量分布を有する。したがって、臨床において想定される線量勾配での測定精度を把握することは重要である。治療計画は、10 MV-FFF 光子ビームを用いて、2回転の強度変調回転放射線治療(以下、VMAT)で作成した。そして、水ファントムでの測定用に、ガントリ角度を 0°に固定した計画に編集した。

最後に、SBRT 照射中のエネルギー依存性を評価するために、深部量百分率(以下、PDD)を測定し、モンテカルロ(以下、MC)シミュレーションによる計算値と比較した。我々が用いた BaFBr:Eu2+は水に比べて高い実効原子番号を有しており、低エネルギーの放射線に対して感度が高いため、エネルギー依存性に注意する必要がある。そして、MC を用いて各測定点での光子フルエンスを算出することにより、BaFBr:Eu2+と水の応答の違いの要因を明らかにした。

【結果および考察】
ノイズ信号の減衰時間は、光子ビームパルス信号の入力から 15 μs 以内であった。一方、輝尽性蛍光信号の減衰時間は、刺激光レーザーの照射後から 2 ms 以内であった。したがって、LINACの最小パルス間隔である 2.78 ms 以内でノイズ信号を除去しながら、すべての輝尽性蛍光信号を読み出すことができた。また、読み出しのために設定したパルス数と線量計システムの信号応答は、良好な線形性を示した。設定パルス数が 20(すなわち、時間分解能=56 ms)以上では、測定値の変動係数が 0.5%を下回った。リアルタイム測定の時間分解能は、SBRT において使用される頻度の高い、高線量率のFFF 光子ビームでは重要な要素である。

再現性に関しては、1 s のリアルタイム測定にて10 回測定における変動係数が 0.26%であった。線量直線性は、0.01~100 Gy までの範囲内で良好な直線性(R2=0.9992)を示した。この結果は、 SBRT において必要とされる、リアルタイム測定における 0.01 Gy から積算線量における 100 Gyまでの精度を証明した。特にリアルタイム測定においては、低線量での精度が重要であり、0.05 Gy にて 0.7%の誤差であった。線量率が 40~2400 cGy/min の範囲では、測定値は 1%以内の変動であった。マルチリーフコリメータによって遮蔽される割合が大きい危険臓器周辺での線量率は低下することが予想されるため、低線量率での安定性は重要である。我々の線量計システムでは、 40 cGy/min で 0.7%の誤差であった。さらに、我々の線量計システムは設定パルス数毎に測定を行うため、線量率に依存して測定の時間分解能が変化する。つまり、高線量率の場合は測定の時間分解能も向上する。これは、IVD において、しきい値線量に対するアラート機能を持たせる場合には重要な要素である。22~45℃の範囲内での温度係数は、0.32%/℃であった。したがって、線量計の校正時の温度に注意する必要がある。誤差を最小化するためには、体温(例えば、37℃)で線量計を校正し、測定までその温度を維持することが推奨される。プローブへの光子の入射角度の依存性は、4%以内であった。しかしながら、プローブの形状を工夫することにより更なる改善が期待できる。例えば、プローブ形状を半球状にして角度依存性を改善している研究もある。臨床応用の可能性に関して、様々な線量勾配領域における測定値は、プローブの位置の不確かさ以内で治療計画装置(以下、TPS)の値と一致した。したがって、我々の線量計システムは、急峻な線量勾配領域での測定にも適している。これは、プローブの体積(1.26×10-5 cm3)が非常に小さく、体積平均効果の影響を受けないことが要因である。代表的な治療計画を用いての測定は、ビーム中心軸の点において 0.5%以内で TPS の計算値と一致した。我々の線量計システムを用いて得た結果は、リアルタイム測定が可能なインビボ線量計として代表的なプラスチックシンチレータ線量計(以下、PSD)を用いた先行研究の結果と同等であった。一方、線量勾配が急峻な 2 つの点では、測定した線量とTPS の計算線量との差は、各々0.20 Gy と 0.09 Gy であった。これらの値は、TPS を用いて計算したプローブ体積内の最大線量と最小線量の差よりも小さい。また、PSDを用いて線量勾配が急峻な点での測定を行った先行研究では、測定値と TPS の計算値に 10.1%の差が生じたと報告している。このことから、我々の線量計システムは急峻な線量勾配領域においても良好な性能を有していると考えられる。また、この結果は、VMAT のような非常に小さい線束を重ね合わせる照射の場合、小さなプローブ体積が非常に有利であることを示している。

PDD は、照射野サイズが 5×5 cm2 未満の場合、測定値は MC の計算値と 1%以内で一致したが、10×10 cm2 ではMC の計算値と大きく乖離した。5×5 cm2 より大きい照射野サイズで我々の線量計システムを使用する場合には、線量計システムの校正する深さに注意する必要がある。MCシミュレーションにより、照射野サイズが 10×10 cm2 の場合、400 keV 以下のエネルギー領域における光子フルエンスが増加すること、および、そのエネルギー領域では水に対する BaFBr:Eu2+のカーマ係数が高くなることが分かった。そして、光子フルエンスとカーマ係数の積でシミュレーションしたBaFBr:Eu2+の応答は、測定値と良く一致した。このことから、400 keV 以下のエネルギー領域での光子フルエンスの増加とカーマ係数の違いが、10×10 cm2 の照射野サイズでの BaFBr:Eu2+と水の応答の違いに寄与していると考えられる。しかし、実際の SBRT では、VMATの利用が増えてきているため、10×10 cm2 以上のオープン照射野サイズが使われることはほとんどない。さらに、VMAT のビーム照射では、5×5 cm2 以上の照射野サイズにおいても、非常に小さな線束を重ね合わせるため、過応答の影響は少なくなると推定される。

【結論】
我々は、BaFBr:Eu2+を用いた線量計システムを開発し、SBRT 条件下において、リアルタイム測定で正確かつ高精度な測定が可能であることを実証した。マイクロサイズ(1.26×10-5 cm3)のプローブを使用しているにもかかわらず、時間分離によりノイズ信号を完全に除去し、56 ms の時間分解能で安定したリアルタイム測定が可能である。従来の線量計よりも小さいサイズのプローブは、空間分解能に優れ、小照射野で急峻な線量分布を有する SBRT において有用である。開発した線量計システムは、SBRT のIVD に適していると考えられる。