後退確率微分方程式と解に関する研究
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
後退確率微分方程式と解に関する研究
泉, 優行
https://doi.org/10.15017/4060006
出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(数理学), 課程博士
バージョン:
権利関係:
(様式3)
氏
名
論 文 名
:泉 優行
:Backward Stochastic Differential Equations and Solutions
(後退確率微分方程式と解に関する研究)
区
分
:甲
論
文
内
容
の
要
旨
本論文では, 後退確率微分方程式 (backward stochastic differential equation, 以下 BSDE) の
主に解について研究を行った. BSDE は, 初期条件が与えられた通常の確率微分方程式とは異なり,
ある最終時刻における条件が与えられた確率微分方程式であり, 解として 2 種類の確率過程の組
を持つことが特徴であり, 一般形は次のものである:
この BSDE に対し, 本研究では, (1) 非 Lipschitz ジェネレータを持つ 1 次元 BSDE の
解の
存在, (2) Malliavin 解析の意味での微分可能性, 特に高階の微分可能性, を示した.
(1) について説明する. El Karoui ら (1997) は, ジェネレータ
に,
解の存在と一意性を, 不動点定理によって示した.
が Lipschitz 条件を満たす場合
が Lipschitz 条件を緩めたものとして,
通常の確率微分方程式においては係数関数が線型増大度を持つ場合のよく知られた結果があること
から, BSDE の場合にも同様であろうことが期待される. 実際, Lepeltier-San Martin (1997) によ
解の存在が示され, また Chen (2010) に よ り
り, 線型増 大ジェネレ ータを持 つ BSDE の
の
解の存在が示された. さらに Fan-Jiang (2012) は,
の場合の
解の存在を
示した. Lepeltier ら, および Chen による研究では, ジェネレータ
を Lipschitz 関数で近似を行
い, Lipschitz ジェネレータの場合の結果を用いて,
解の近似列を構成した上で, その列が解の含
まれる Banach 空間における Cauchy 列となっていることを確認することで示されている. 彼らの
Cauchy 列を得る議論において, その不等式評価は
の場合には適用できない. この問題に対
し Fan らは, ある停止時刻の列を構成することで Lepeltier らの
在を示している. 本研究では,
で得られる
の場合において, ジェネレータ
解の結果を援用し,
解の存
の Lipschitz 関数による近似
解の列が Cauchy 列であることを示した. より詳しくは, 先行結果の議論をより整
理された形に再構成し,
の解の近似列のより精密な評価を行うことで示した.
次に (2) について説明する. BSDE と Malliavin 解析については, Pardoux-Peng (1992), El
Karoui-Peng-Quenez (1997) の研究がある. 彼らは適当な条件のもとで BSDE の解が Malliavin の
意味で微分可能であることを示し, さらに
と
との Malliavin 微分を介した興味深い関係を発
見した. また, Lin (2000) は 2 階の Malliavin 微分可能性を示した. 本研究ではこれらの結果の拡張
として, Malliavin の意味でのより高階の微分可能性について議論した.
Wiener 空間上の確率解析において, 確率変数の Malliavin の意味での微分は, Cameron-Martin
空間に値を取る確率変数である. 特に, BSDE の解の Malliavin 微分は Cameron-Martin 空間に値
を取る線型な BSDE の解となる. 高階の微分可能性を考える場合は Cameron-Martin 空間の多重テ
ンソル積空間に値を取る線型な BSDE を考える必要がある. そこで, 一般の Hilbert 空間に値を取
る線型な BSDE を導入し, その解の Malliavin の意味での微分可能性の考察を行った. これによっ
て, BSDE の解の微分に関して統一的な扱いが可能となった. そして, この結果を援用することで
解の 2 階の Malliavin 微分可能性について証明した.
さらに, Malliavin の意味での無限階微分可能性についても証明した. 2 階を超える高階の微分可
能性の場合も Hilbert 空間に値を取る線型な BSDE に関する結果を用いるが, 別の困難が生じる.
それは高階の場合は解の Malliavin 微分がその属する Banach 空間に含まれるかどうかは一般には
分からないことに起因する. なぜならば, 解をなす 2 種類の確率過程
sure の意味で
型の評価を必要とし, 3 階以上の微分操作を行うと
のうち,
は almost
の Malliavin 微分が 3 つ以
上のテンソル積の形で現れるからである. この場合について, 本研究では無限階微分が可能となる
ようなジェネレータ
のとき, また
および
に対する十分条件を考察した. ジェネレータ
については,
については, その 1 階の Malliavin 微分が有界であるとき, それぞれの場
合について Malliavin の意味で無限階微分可能であることを示した.