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大学・研究所にある論文を検索できる 「SGLT2阻害薬服用下における、HOMA-IRと正常血糖高インスリンクランプ法によるインスリン感受性指標との関係」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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SGLT2阻害薬服用下における、HOMA-IRと正常血糖高インスリンクランプ法によるインスリン感受性指標との関係

So, Anna 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
HOMA-IR(homeostasis model assessment-insulin resistance)は、空腹時の血糖値とインスリン濃度から簡便に算出可能なインスリン抵抗性l感受性指標であり、正常血糖高インスリンクランプ法より算出されるゴールドスタンダードであるインスリン抵抗性l感受性指標とよく相関することが報告されている。

一方、糖尿病治療薬であるSodium-glucosecotransporter2(SGLT2)阻害剤は、主に尿糖排泄を促進することにより血糖降下作用を発揮するが、ホルモンや代謝に対するさまざまな二次的効果を引き起こすと考えられている。そのような変化による影響がある中で、SGLT2阻害薬服用下においてもHOMA-IRがインスリン抵抗性l感受性を正確に反映するかどうかは不明である。

そこで、SGLT2阻害薬服用下におけるHOMA-IRが正常血糖高インスリンクランプ法より算出されるインスリン感受性を反映するかどうかを検討した。

【方法】
SGLT2阻害薬服用群は、20~75歳の2型糖尿病患者で空腹時血糖が140mg/dl以下にコントロールされており、主治医によりSGLT2阻害薬の一つであるダパグリフロジンの投与が必要と判断された22名であった。除外基準は、(1)ダパグリフロジンまたは他のSGLT2阻害薬による治療歴がある者、(2)1型糖尿病(緩徐進行性1型糖尿病を含む)または他の種類の糖尿病と診断されている者、(3)妊娠または授乳中の者、(4)血糖変動に影響を与える可能性のあるインスリン抗体が存在している者、(5)他の臨床研究へ参加中である者、(6)重度の肝機能障害(ASTまたはALTが基準値上限の2倍以上)、(7)腎機能障害(推定糸球体濾過1l.73m・2)、(8)重度の心機能障害(NYI払し>II)、(9)ピオグリタゾン、持効型インスリン、長時間作用型GLP・l受容体アゴニスト、週1回のDPP-4阻害剤を使用している者、(10)インスリンアレルギーを有する者、(11)頻回の低血糖や重度の低血糖、糖尿病性ケトアシドーシスによる入院歴がある者、(12)精神障害を有する者、(13)ダパグリフロジンが禁忌である者、(14)糖代謝に影響を与える他の薬物(fl遮断薬、ステロイドなど)による治療を受けている者、(15)その他の理由で研究者が参加するのに適切ではないと判断をした者とした。Control群は、2008年10月~2018年4月末までの間に当院で正常血糖高インスリンクランプを実施した2型糖尿病患者症例の中から、SGLT2阻害薬を使用しておらず、SGLT2阻害薬服用群と同程度の血糖コントロールであり、かつ除外基準に抵触しない44名とした。

SGLT2阻害薬服用群の対象者にはダ゜ハグリフロジン(5mg/日)服用開始後、6日以内に正常血糖高インスリンクランプ法を実施した。ダパグリフロジン以外の糖尿病治療薬は、検査当日朝は休薬した。クランプ法は人工膵臓(STG-22もしくは55:Nikkiso、Shizuoka、Japan)を用い、血漿インスリン濃度が100μU/mlになるように速効型インスリンを40mU/m2min•1で静脈内に持続的に注入し、目標血糖値9糖濃度の注入速度(Glucose Infusion Rate: GIR)を自動的に変えるように設定した。検査開始0、90、120分後に採血を行い、血糖値、血清インスリン濃度を測定した。また、SGLT2阻害薬による尿糖排泄の影響を考慮するため、SGLT2阻害薬群はクランプ実施前と終了後に排尿をさせ、2度目の尿サンプルの尿量と尿糖濃度から総尿糖排泄量を計算し、検査時間である120分で除して尿糖排泄速度を算出した。HOMA-IRは、クランプ法を施行した日の空腹時血糖値(mg/d])X空腹時インスリン値(μU/ml)/405で算出した。SGLT2阻害薬服用群における組織グルコース取り込み率(tissue glucose uptake rate: TGUR)は、クランプ最終30分間の平均GIRから尿糖排泄速度を差し引いて算出した。コントロール群では尿糖排泄量を考慮する必要がないため、TGURはGIRと等しいとみなした。高インスリン正常血糖クランプ法から得られるインスリン感受性指標であるInsulin Sensitivity Index (ISi)は、TGURをクランプ終了時の血糖値(mg/dL)と血清インスリン濃度(μU/mL)で除して算出した。

【結果】
SGLT2阻害薬服用群22名とControl群44名を対象に年齢、性別、BMI、TGURで傾向スコアマッチングを行い、17組を選んだ。

2群間において、糖尿病罹病期間、空腹時血糖値および血清インスリン濃度、HbAlcに有意差はなかった。定常状態のGIR、TGUR、および血清インスリン濃度は両群で有意差を認めなかったが、定常状態の血糖値はSGLT2阻害薬服用群よりもコントロール群で低かった。糖尿病治療の併用薬については、スルホニル尿素薬の服用率はControl群のほうがSGLT2阻害薬服用群よりも有意に多く(p=0.044)その他の併用薬の服用率は、2群間で有意差を認めなかった。

HOMA-IRは非正規分布のため対数変換を行い検討を行った。両群において、log[HOMAIR]とISiは有意な相関関係を認めた(SGLT2阻害薬群:r=-0.527、p=0.030,Control群:r=-0.534、p=0.027)。また、単回帰分析を行いlog[HOMA-IR]とISiの回帰式は、SGLT2阻害薬服用群:y=(-l.52X10-4)x+(4.50Xl0-4)、(p=0.030、R2=0.277)、およびコントロール群:y=(-l.92X10-4)x+(6.15X10-4)、(p=0.027、R2=0.286)であった(y:ISi、x:log[HOMA・IR])。両群の回帰直線の傾きに有意差はなかった(p=0.716)が、切片は有意に異なり(p=0.002)、同じISiに対応するHOMA-IR値は両群で異なっていた。そこで、SGLT2阻害薬服用群とControl群の両方でHOMA-IRからISiを予測する回帰式を算出した。SGLT2阻害薬服用の有無とlog[HOMA-IR]を独立変数として重回帰分析を行い、y=(6.lOX10-4)-(1.78X10-4)x-(1.59X10―4)z(y:ISi、x:log[HOMA-IR]、z:SGLT2阻害服用群では1、Control群では0、p=0.018、R2=0.327)であった。さらに、この式より2群のHOMA-IRを換算する式:HOMA-IR.on叫=HOMA・IRsoLT-2iX2.45を算出した。

【考察】
HOMA-IRとクランプ法によリ得られたISiの相関関係は、Control群と比較してSGLT2阻害薬服用群でも同程度に維持されており、HOMA-IRがSGLT2阻害薬服用下においてもインスリン抵抗性l感受性の適切な指標であることを示された。しかし、同じISiに対応するHOMA-IRの絶対値は、Control群よりもSGLT2阻害薬群の方が低値であった。2群間のHOMA-IRの関係は、HOMA廿kontrol=HOMA・IRsaLT2iX2.45の式であらわさた。我々の研究は、SGLT2阻害薬服用下におけるHOMA-IRとクランプ法によるISiの関係を特徴付ける最初の報告である。

既報でスルホニル尿素薬服用中の患者と食事療法のみの患者において、log[HOMA-IR]とインスリン感受性指標が良好に相関することが示されている。この報告では、2群の回帰直線の'傾きと切片が類似しており、同じISiに対応するHOMA-IRはスルホニル尿素薬服用の有無に関わらず同じであることを示していた。

我々の検討では、SGLT2阻害薬服用群とControl群の両群におけるlog[HOMA-IR]とISiの回帰直線の傾きは類似していたが、切片はSGLT2阻害薬服用群の方がControl群よりも低値となるため、同じISiに対応するHOMA-IRがSGLT2阻害薬服用下では非内服時と比べて低値を示すことを明らかにした。SGLT2阻害薬が尿糖排泄を促進することを考えると、同程度のインスリン感受性が存在している場合では、SGLT2阻害薬服用時の方が非内服時よりも血糖値を一定レベルに維持するために必要な循環インスリンの量は少なくなる。その結果、HOMA-IRは服用時の方が低値になると考えられた。高インスリン血症はさまざまな状態のリスク増加と関連しているため、血糖値の維持に必要なインスリン量が少ないことは、SGLT2阻害薬の有益な臨床的特徴に関連している可能性がある。

この研究ではSGLT2阻害薬服用群とControl群でスルホニル尿素薬の服用率に有意差を認めたが、スルホニル尿素薬は既述のようにHOMA-IRとISiの関係に影響を与えないことが報告されており、今回の結果にも影響を与えなかったと考えられた。この研究の限界は同一症例でのSGLT2阻害薬服用前後におけるHOMA-IRとISiを評価していないことである。しかし、Control群として異なるコホートを用いて検討を行い、2群間の背景因子の差を最小限にするために傾向スコアマッチングを行った。少人数の検討であるため、さらに症例数を増やした研究が必要である。

【結論】
SGLT2阻害薬服用下におけるHOMA-IRはISiと良好な相関関係を認めたが、同じISiに対応するHOMA•IRの絶対値は、非服用時よりも低値となることが明らかとなった。したがって、医療従事者や臨床研究に携わる者は、SGLT2阻害薬服用中の患者でHOMA-IRを評価する際にはこの違いに留意する必要がある。

SGLT2阻害薬服用時のHOMA-IRから非服用時のHOMA-IRを予測する変換式:HOMA・I&x.n叫=HOMA・IRsoLT2iX2.45は、SGLT2阻害薬服用下におけるHOMA-IRの解釈に有用であると考えられる。