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大学・研究所にある論文を検索できる 「社会経済要因が森林面積に与えた影響に関する計量経済学的研究:中国を事例として」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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社会経済要因が森林面積に与えた影響に関する計量経済学的研究:中国を事例として

TAN, JIAZE 筑波大学

2023.01.17

概要

世界の森林面積は減少を続け、森林面積の回復が課題となる中で、中国では森林面積の増加が続いている。その増加を社会経済要因と関連付けて分析することにより、森林面積を減少から増加へ転換させるための知見を得ることができると考えられる。

第Ⅰ章では、国内外の関連する研究成果をレビューした上で、本論文の研究目的と新規性を述べた。本研究では計量経済学的手法を用いた精緻な定量分析を行うことで、中国の森林面積が増加するメカニズムを社会経済要因の観点で明らかにすると共に、その関係性を考察することを目的として述べた。レビューに基づき関連研究の多くが森林資源と社会経済要因の間には U 字型の関係が描けるという「森林資源のU 字型仮説」に基づく分析を行っていることを指摘した。本研究の新規性に 3 点を挙げた。1点目は「見せかけの回帰」に対応した定常性や共和分の概念を導入することでモデルの精緻化を図り、 ARDL モデルを用いて分析することで長期的・短期的関係の双方を解明することである。2 点目は、森林面積と社会経済要因との関係について 2 次曲線に加えて 3 次曲線の可能性を新たに分析することである。3 点目は、中国の経済格差や森林資源の地理的偏在という地域性を考慮して地方別パネルデータを作成し、1 点目の手法を援用してパネル ARDL モデルで分析することである。

第Ⅱ章では、中国の森林資源と社会経済について歴史的変遷とともに把握し、次章以降のモデルの定式化に参考とした。中国では改革開放以来、経済水準の急速な高まりと脱工業化が進行していること、森林資源は東北・西南地方に偏在していること、政府の造林政策によって森林率は上昇していること、 2001 年の WTO 加盟以後は林産物輸入が急増していることを確認した。

第Ⅲ章では、1978 年~2018 年の年次データを用いて、中国の森林面積変化率と社会経済要因の変化 率の関係に関する定式化と全国レベルの分析を行った。ARDL モデルの分析からは、経済水準の変化率 の上昇は短期的に森林面積変化率に対して正に作用するが、長期的には負に作用するという結果を得た。この結果から、既に中国は U 字型の回復局面に入っており、さらに経済成長が進むと森林面積変化率が 低下する可能性が示唆された。原因としては、新規に造林するよりも既存の造林地の維持管理を重視し てその成林を確実にしようとすることや、経済水準の高まりと貿易自由化の中で安価な木材を輸入でき るようになったことなどが考えられる。

第Ⅳ章では、1993 年~2013 年の年次データを用いて、中国の森林面積と社会経済要因の関係について省レベルの分析を行った。省別の非線形モデルによる回帰分析からは、多くの省で経済水準が増加すると森林面積が増加する傾向が見られたが、増加速度には省による違いが確認された。また、経済水準の高まりに伴って森林面積は増加するが、増加速度は低下する傾向も見られた。その他の変数では、先行研究で重要性が指摘された植林政策の代理変数である生態公益林造林面積が、森林面積に対してほとんど影響を与えない結果となった。原因としては中国の造林は運用面に課題があり、成果に結びついていないことが考えられる。

第Ⅴ章では、1993 年~2018 年の年次データを用いて、中国の森林面積と社会経済要因の関係について地方レベルの分析を行った。中国を 4 つの地方に分けたパネル ARDL モデル分析の結果から、森林面積と社会経済要因の間には地方ごとに違いが見られた。社会経済要因の係数は、短期モデルでほとんど有意にならず長期モデルでは有意となった。長期的関係は地方による差異が確認され、東北・中部地方では経済水準の増加に伴って森林面積が単調増加し、東部・西部地方ではその関係が逆 U 字型となった。本分析期間において東北・中部地方が森林の U 字型仮説の後半部分に位置し、東部・西部地方は今後に森林面積の増加が停滞局面になる可能性が考えられた。

第Ⅵ章では、本研究の森林資源経済学分野に対する貢献をまとめた。第 1 に定常性を踏まえた分析により、改めて経済水準が先行研究と同様に中国の森林面積に対して正の影響を与えることを確認した。第 2 に中国における森林面積と社会経済要因は長期均衡関係にあり、経済水準が最も重要な影響を与えることを解明した。第 3 に、こうした傾向は地域によって差異があることを明らかにした。中国の事例からは、経済水準の高まりは森林面積に対して正の影響を与えるが、その寄与度は徐々に鈍化していく可能性が示唆され、他国における経済水準が森林面積に与える影響を展望するのに有用な知見を得た。