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大学・研究所にある論文を検索できる 「常緑性ツツジにおける見染性形質の育種利用に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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常緑性ツツジにおける見染性形質の育種利用に関する研究

郷原 優 鳥取大学

2022.09.16

概要

日本の伝統的な常緑性ツツジ園芸品種には,花冠が花色の変移を伴い長期間持続する「見染性」と呼ばれる花器形質が存在する.本研究では,これまで育種素材として未利用であった見染性形質に着目した.見染性形質の育種利用における基礎情報を得る目的で,見染性品種の花器形態形質ならびに雑種後代における見染性形質の遺伝性を調査した.また,見染性品種に大輪や二重咲きなどの各種形質を導入した新品種の作出を目的として,交配系統における見染性形質選抜DNAマーカーの実用性評価と各種形質評価を行った.その結果,見染性形質の育種利用における以下のような知見が得られた.

1. 見染性形質の花器形態と遺伝性
見染性品種のヤマツツジ‘日光見染’,サツキ‘長寿宝’,モチツツジ‘胡蝶揃’およびハンノウツツジ‘天城紅長寿’の花器形態およびそれらを交配親に用いて育成された交配系統における花器の表現型から,見染性形質の遺伝性を調査した.見染性品種はいずれも正常花と比べ小型の花冠を有しており,さらに花冠背軸面の表皮細胞が小さかった.さらに,花冠背軸面に多くの気孔と毛じが観察されたことから,見染性形質は花冠ががく化した形質であると考えられた.見染性形質の遺伝性調査の結果,見染性品種と正常花を交配したF1雑種はすべて正常花が開花した.一方,見染性品種間のF1雑種はすべて見染性形質を示した.見染性品種と正常花のF1雑種間の交配系統では,正常花と見染性が3:1に分離した.このことから,見染性形質は一遺伝子支配の劣性遺伝形質であり,異なる種の見染性品種の対立遺伝子をホモ接合で保有した場合でも見染性形質が発現すると考えられた.

2. 見染性形質選抜DNAマーカーの実用性評価
見染性品種を交配に用いた23交配組み合わせ245個体を供試し,multiplex-PCRによる見染性品種特異的なap3変異アリルの挿入配列に基づいたDNAマーカーの検出結果と花器表現型との照合により,見染性形質選抜DNAマーカーとしての実用性の評価を行った.交配系統において,交配親の見染性品種由来の変異アリルと正常花由来の正常なアリルをヘテロで保有する個体と,正常なアリルのみを保有する個体はすべて正常花を示した.一方,交配親の見染性品種由来のap3変異アリルをホモで有する個体はすべて見染性形質を示した.これらの結果は,ツツジの見染性形質はAP3ホモログの変異によって引き起こされることを裏付けるものであり,さらに各見染性品種由来の変異アリルをどの組み合わせで保有した個体でも見染性形質を示すことが新たに明らかとなった.各見染性品種由来のap3変異アリルの挿入配列に基づいたDNAマーカーの適用により,開花に至る前の幼苗期に,交配系統の中から見染性個体を効率的に選抜できることが示された.

3. 見染性品種への各種形質の育種導入
見染性品種の観賞価値を高めることを目的に,大輪形質および二重咲き形質を導入した交配系統の特性調査を行った.大輪品種を交配親に用いて得られた交配系統では,見染性品種と比較し10 mm以上大型の花冠を有する見染性雑種個体(09009-5,09020-10)が得られた.見染性形質の特徴である小型の花冠を大型に改良する育種手段として,大輪品種を交配親に用いることが有効である可能性が示された.一方,二重咲き品種を交配親に用いて得られた交配系統において,PI変異およびap3変異を両方保有する個体は二重咲きおよび見染性形質を両方保有すると予想されたが,いずれも一重咲きの見染性を示した.これらの一部の個体ではwhorl 1の向軸側表皮細胞は一重咲きのがく片の細胞と比較して大きく,花弁の表皮細胞と類似した形状を示した.PI変異を単独あるいはPI変異およびap3変異を両方保有する個体は雌性不稔を示し,さらにwhorl 4におけるPIの発現が認められ,それに伴いAP3の発現も whorl 4で高まっていた.以上の結果から,ap3変異およびPI変異を両方保有する個体において,がく片における花弁に類似した表皮細胞や雌性不稔が確認されたが,二重咲き形質と見染性形質の同時発現は困難であると考えられた.

本研究の結果から,日本で古くから維持・保存されてきた見染性品種は,ツツジの育種における遺伝形質として利用可能であることが明らかとなった.また,種間交雑により新たな形質を付与できる点から,ツツジ園芸品種に存在する多様な特性を維持したまま,長期間開花する形質を導入することができるため,見染性品種の育種導入はツツジ育種方針の多様化に貢献するであろう.