農林水産業・食品産業の輸出が都府県・北海道に及ぼす効果の地域間産業連関分析 : 2011 年産業連関表を用いて
概要
少子高齢化や人口減少による国内の食料消費の減少により,国内の農林水産物への需要の低下が懸念されている。この状況を打開するため,近年農林水産物や加工食品の輸出が進められている。食料に対する内需の低迷に対応するために,外需に活路を見出そうとしている。農林水産省の輸出対策が進められる中,日本の農林水産物や加工食品の輸出額は,2012 年の 4,497 億円から 2018 年には 9,068 億円へと増加している(農林水産省(2019 )。日本の高い技術や独自の文化を生かした高品質な食料品の輸出によって日本の農林水産業を維持,拡大させることが期待される。
食料品に関する産業連関分析の先行研究として,吉本・近藤(2012)は,2005 年において全国⚙地域の地域間産業連関分析を行い,農林水産業,飲食料品への生産誘発効果の地域間収支は,北海道,東北,九州の他地域への移出額が正味で大きいことを明らかにしている。また,日本の農林水産物,飲食料品の1兆円の輸出の食料関連産業への生産誘発効果収支の地域別貢献度は,同様に北海道,東北,九州の順で大きいことを明らかにしている。しかし,この論文は基本分類の産業レベルで地域間産業連関分析を行っていない。また,吉本・近藤(2013)は,全国及び北海道における,1995~2005 年の間の食料部門の生産額の変動を産業連関分析によって要因分解している。当期間,食用農水産業,食用飲食料品,飲食店における生産額の変動は,消費要因が負で大きい一方,輸出による効果は正であることを示している。しかし輸出の直接効果,間接効果に分解して考察していない。さらに金田(2008)は日本が高級な食料品を東アジアに輸出し,東アジアから付加価値の低い食料品を輸入しているかどうかを国際産業連関分析により分析し,東アジアの国々との産業内貿易は小さいとしている。しかし国内地域への影響は分析していない。
本研究の目的は,農林水産業,食品産業の輸出(以下,食料品の輸出と表記する)が国内の農林水産業や食品産業にどのように,どの程度影響を及ぼしているかを産業間の相互作用を考慮して明らかにすることである。そのために分析の視点として,第一に,農林水産業,食品産業の輸出は農林水産業や食品産業のどの部門に大きな生産誘発効果をもたらしているか,第二に,農林水産業,食品産業の輸出による生産誘発効果の発生過程に農林水産業や食品産業の部門間で違いがあるかどうか,それはどのように違うのか,第三に,農林水産業,食品産業の輸出は,波及効果を考慮した部門別の貿易収支(需給関係)から見て,農林水産業,食品産業の国内生産額にどの程度影響を与えているか,第四に都府県と北海道との間で生産誘発効果の発生過程においてどのような相互作用があるか,第五にどの農林水産業及び食品産業の部門の輸出を増加させると農林水産業への生産誘発効果が大きく生じるかの5点を持ち,分析を行う。先行研究に対し,本稿は北海道と全国の産業連関表を用いて都府県と北海道の地域間産業連関分析を基本分類レベルで行い,輸出による効果を詳細に分析する。北海道の農林水産業や食品産業の構造は都府県と大きく異なるため,都府県と北海道を分けて分析する。農林水産業や食品産業の輸出による生産誘発効果の発生過程を調べるため,輸出による生産誘発効果を直接効果と間接効果に分解あるいは輸出地域別の効果に分解する。
本稿の構成は以下の通りである。第2節では都府県及び北海道の農林水産業,食品産業の輸出額の動向について整理する。第3節では分析モデルについて説明する。第4節ではデータと推計方法の詳細について説明する。第5節では分析結果と考察について述べる。本節では,食料品の輸出による都府県,北海道における生産誘発効果,輸入誘発効果,粗付加価値誘発効果,スカイライン分析,都府県と北海道の地域間の相互作用,食料品の個別部門の輸出による農林水産業,食品産業に帰着する効果について分析結果を説明する。第6節ではまとめを述べる。