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大学・研究所にある論文を検索できる 「Ecological significances of leaf trichomes in Metrosideros polymorpha」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Ecological significances of leaf trichomes in Metrosideros polymorpha

Amada, Gaku 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23240

2021.03.23

概要

ハワイフトモモ(Metrosideros polymorpha)はハワイ諸島に広く分布する優占樹種であり、幅広い環境傾度に沿って形質が著しく多様化し、樹木の進化過程を研究する上で非常に有用である。形質の多様性の中でも葉のトライコーム(葉毛)の変異は特に顕著であり、湿潤地では無毛個体が存在する一方、乾燥地や高標高地では、トライコームが葉の乾燥重量の最大40%を占める有毛個体が優占する。ハワイフトモモの形質の多様性を理解する上で、葉トライコームの生態学的意義の解明は重要であり、本研究では、3つの機能、(1)拡散抵抗増加、(2)葉面濡れ促進、(3)被食防衛、に注目し、葉トライコームの生態学的意義を評価した。

 第1章では、ハワイフトモモの適応放散と葉トライコームの生態学的意義について、既往研究を整理した。植物多様性を駆動する適応進化の理解のために、ハワイフトモモの適応放散を研究する有効性を指摘した。また、適応放散を引き起こす条件について情報を整理し、本種の適応放散プロセスを理解する上で葉トライコームの生態学的意義を解明する重要性を指摘した。加えて、これまで多種多様な植物種で報告されてきた様々な葉トライコームの機能を整理し、ハワイフトモモの葉トライコームの特徴を考慮することで、ハワイフトモモにおいて重要と考えられる3つの機能に関する仮説を立てた。

 第2章では、1つ目の仮説である拡散抵抗の増加機能に関連し、葉トライコームによるガス拡散抵抗の定量、及び無毛個体に比べて有毛個体の葉や枝の形質が乾燥に適応的か否かの評価を行った。ガス拡散抵抗を、葉肉、気孔、トライコーム、境界層のそれぞれについて定量した結果、ガス拡散における葉トライコームの抵抗は小さく(最大9%)、水利用効率の上昇には寄与しないことが示唆された。一方、無毛個体に比べて、有毛個体はCO2同化を担うタンパク質Rubiscoの量が多く、また枝断面積当たりの総葉面積が小さかった。葉トライコームそのものの水利用効率への寄与は限定的であるが、葉トライコームに同調した他の形質によって、有毛個体は乾燥に適応的だと考えられた。

 第3章では、2章の研究をさらに深め、葉トライコームによる拡散抵抗が葉の熱収支に与える影響、及び葉温の変化を介したガス交換速度への影響を定量した。野外の葉温測定から、葉トライコームによって日中の葉温は上昇し、その効果は葉トライコームが厚いほど大きく、葉トライコームの熱拡散抵抗を考慮する重要性が示唆された。そこで葉トライコームの熱拡散抵抗を考慮した理論解析を行ったところ、ハワイフトモモの葉トライコームによる拡散抵抗の増加は、乾燥高地から湿潤低地に至るまで、いずれの研究サイトにおいても水利用効率を低下させることが示唆された。一方、葉トライコームによる葉温の上昇によって、冷涼な高地においてのみ、光合成速度が上昇することが示唆された。したがって、ハワイフトモモにおいて、1つ目の仮説である拡散抵抗増加の機能は、水分の損失防止の観点からは無利益であるが、炭素獲得の観点からは低温環境においては正に働くことが示唆された。

 第4章では、2つ目の仮説である葉面濡れ促進機能の評価を行った。水の蛍光トレーサー実験より、ハワイフトモモの葉トライコームは親水性であることがわかった。乾燥高地の有毛個体において、葉面濡れのモニタリングを行ったところ、葉トライコーム量が多いほど、葉面濡れの持続時間が長かった。野外から採集した枝を用いた実験により、無毛個体よりも有毛個体の方で葉面吸水量が多く、また濡れ時間が長いほど葉面吸水量が多かった。夜間の葉面濡れを防いだ個体と無処理の個体で光合成速度の日変化を測定したところ、夜間の葉面濡れがあることによって日中の高い光合成速度を維持する時間が延長された。以上より、ハワイフトモモの葉トライコームは、親水性が高く、葉面が濡れる時間を延ばすために、効果的に水を吸収し、水分生理の改善を促進し、乾燥下の炭素獲得増加に寄与することが示唆された。

 第5章では、ハワイフトモモを宿主とするハワイキジラミ(Pariaconus spp.)に着目し、3つ目の仮説である被食防衛機能の評価を行った。ハワイキジラミは種ごとに異なる形態の虫こぶを形成することが知られ、本研究ではハワイ島に優占する大きさの異なる3タイプの虫こぶに着目した。虫こぶのある葉と無傷の葉のミニマムコンダクタンス(気孔閉鎖時の水分損失速度)を比較したところ、大きな虫こぶが形成されると、葉の水分損失速度が大きくなることが示唆された。一方、葉トライコーム量と大きいタイプの虫こぶ数には負の相関があり、葉トライコームによって大きいタイプの虫こぶの形成が抑制されていることが示唆された。以上より、ハワイフトモモの葉トライコームは、水分ストレスを与える虫こぶ形成を抑制することで、乾燥適応に貢献する可能性が示唆された。

 第6章では、以上の結果を総合的に考察した。葉トライコームの3つの機能から、ハワイ島の環境傾度に沿った葉トライコームの分布パターンを解釈することができた。環境によって異なる機能を有するという「多機能性」が、ハワイフトモモにおける葉トライコームの顕著な変異の要因の1つであると考えられた。