地球環境や住民の資産維持などの観点から木造住宅についても長寿命化が求められている。木造住宅は、使用期間内において蟻害や腐朽といった生物劣化や繰り返し変形を経験することによって耐震性能が低下する可能性がある。後者について、大地震を複数回にわたって受ける場合や大地震を受けた住宅がその後に余震を受ける場合を想定した、比較的大きな変形の繰り返しを対象とした劣化挙動についての検討は進められており、地震応答解析に用いるための耐力要素の復元力特性なども提案されているところである。本稿では、このような繰り返し変形による木造住宅の耐震性能劣化に着目した既往の研究について紹介しつつ、筆者が取り組んだ、通常では弾性域とみなされるような小変形の繰り返しが木造住宅の耐震性能や大地震時の応答変形に影響するか否かを検討した内容を紹介する。
1)
森拓郎, 田中圭, 河野孝太郎, 中畑拓巳, 簗瀬佳之, 栗﨑宏, 腐朽したスギ材に打ち込まれた釘の一面せん断
耐力の推定, 材料, 63 (4), pp. 314-319, 2014
2)
気象庁, 震度データベース, https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/index.html, 2020年6月9日参照
3)
宮澤健二, 釘せん断接合部の繰返し荷重における耐力と変形特性に関する実験的研究, 日本建築学会大会学
術講演梗概集, pp.1289-1290, 1985
4)
徳田迪夫, 釘接合部の両振れ繰返し力に対する疲労特性, 木材学会誌 33 (7), pp.605-609, 1987
5)
澤田圭, 平井卓郎, 繰り返し加力が機械的接合部のせん断力に及ぼす影響, 日本建築学会大会学術講演梗概
集, pp.75-76, 2009
6)
T. Hirai, T. Uematsu, Y. Sasaki, M. Toda, O.G. Wanyama, K. Sawata, Dynami cresponsive characteristics if nailed
plywood timber joint under harmonic vibrations, J. Wood Sci., 58, 408-416, 2012
7)
大野吉昭, 岡部実, 佐久間博文, 下屋敷朋千, 耐力壁の水平加力試験における繰り返し回数の影響, 日本建築
学会大会学術講演梗概集, pp.279-280, 2000
8)
梶川久光, 三津橋歩, 高木良, 小川春彦, 六車典子, 野口弘行, 木質系実大耐力壁面の動的挙動に関する研究
その5 繰り返し回数による影響, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.457-458, 2008
9)
下村祥一, 大熊武司, 加工方法の違いが木造軸組工法耐力壁の復元力特性に及ぼす影響とそのモデル化手法
木造軸組構法耐力壁の耐風性能評価用復元力特性に関する研究 その1 , 日本建築学会構造系論文集 607,
pp.133-140, 2006
10) 村知朋和, 五十田博, 三宅辰哉, 橋爪丈夫, 合板耐力壁の最大変形と累積エネルギーをパラメータとした限
界性能に関する実験, 日本建築学会北陸支部研究報告集, 50, pp.85-88, 2007
11) 五十田博, 岡崎友也, 三宅辰哉, 木造耐力壁の最大変形と累積エネルギーを指標とした限界値に関する一考
察 その3 せっこうボードの繰り返し実験, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.197-198, 2009
12) 山崎義弘, 神田健吾, 坂田弘安, 任意変形履歴を受ける木造耐力壁の耐力及びエネルギー吸収性能 繰り返し
地震動を受ける木質構造物の劣化挙動に関する研究 その1, 日本建築学会構造系論文集, 84 (765), pp.14431451, 2019
13) 峯村廣紀, 五十田博, 服部学, 余震や繰り返し加力に対する劣化を抑制した壁を組み込んだ木造住宅の振動
台実験, 日本建築学会構造系論文集, 79 (698), pp.491-498, 2014
14) 人見祐策, 五十田博, 河合直人, 大変形と繰り返しによる劣化を考慮した木造壁の復元力モデル -木造建物
の地震時挙動に関する研究 その2-, 日本建築学会構造系論文集, 75 (646), pp.2299-2306, 2009
15) R. Inoue, T. Mori, A. Ariki, S. Matsumoto, Evaluation of single shear performance of nailed joint damaged by cyclic
deformation due to moderate earthquakes, Construction and Building Materials, 342, 128044, 2022
16) R. Inoue, T. Mori, S. Matsumoto, Effect of numerous small deformations caused by moderate earthquakes on shear
performance of wooden walls, Construction and Building Materials, 364 130016, 2023
17) 林知行, 佐々木光, 鋼板釘打ち接合部の疲労特性, 木材研究・資料, 17, 112-121, 1983
18) R. Inoue, T. Mori, S. Matsumoto, Effect of Numerous Small Deformations Due to Moderate Earthquakes on Seismic
Response of Wooden Houses, Buildings 13(4), 1062, 2023
著者プロフィール
井上 涼（Ryo Inoue）
＜略歴＞ 2018 年広島大学工学部第四類（建設・環境系）建築プログラム卒業／
2020 年広島大学大学院工学研究科建築学専攻修了／2023 年広島大学大学院先進
理工系科学研究科先進理工系科学専攻修了（博士（工学））／2023 年京都大学生存
圏研究所ミッション専攻研究員／2023 年熊本大学大学院先端科学研究部助教、現
在に至る。＜研究テーマと抱負＞安全に長期使用が可能な木質構造の実現のため
の研究＜趣味＞ドライブ、旅行、モータースポーツ観戦など。
20
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