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Protein S protects against allergic bronchial asthma by modulating Th1/Th2 balance

浅山 健太郎 三重大学

2021.04.08

概要

導入
気管支喘息はその治療の進歩にもかかわらず、依然として全世界で高い罹患率と死亡率を有する。気管支喘息の病態には遺伝的要因のほか、アレルゲンなどといった環境要因の関与も大きい。気管支喘息の背景では過剰な2型ヘルパー T細胞(Th2)反応により免疫グロブリンE(IgE)や好酸球を介した炎症が生じている。

プロティンS(PS)は主に肝細胞によって産生および分泌されるビタミンK依存性糖タンパク質である。PSは血漿中を遊離体、または補体の活性化や炎症を調節するC4bプロテインのβ鎖と結合した複合体として循環している。PSは凝固系の阻害、アポトーシスの調整、炎症反応や免疫反応の制御など複数の機能を有する事が知られている。PSはTyro、Axl、Mer(TAM)チロシンキナーゼ受容体に結合して活性化することによって細胞の生存、炎症反応や免疫応答の調節といった作用を果たす。近年、急性肺障害(ALI)、肺線維症、糖尿病、慢性腎疾患といった疾患におけるPSの潜在的な薬理学的有益効果が報告されているが、アレルギーの病態においてどのように関与するかは詳しく分かっていない。本研究では、PSがTh2免疫応答を弱めることによりアレルギー性気管支喘息に保護的に作用すると仮説を立て、この仮説を検証するためにPS過剰発現トランスジェニック(TG)マウスと野生型(WT)マウスの間でアレルギー性気管支喘息の状態を比較した。

方法
ヒトの喘息患者のPS濃度を評価するため、三重大学医学部附属病院呼吸器内科へ通院中の気管支喘息患者26名と健常ボランティア8名から血液検体を採取した。

動物実験にはヒトPS(hPS)を過剰発現するC57BL/6ベースのトランスジェニックマウスを使用した。対照群として野生型(WT)のC57BL/6マウスを用いた。

実験手順として、Ovalbumin(OVA)を用いた喘息誘発モデルを用いた。具体的な手順としては以下の通りである;OVAへの感作をlOpgのOVAを1週間おきに4回の腹腔内注射によって行い、対照群へは同様に生理食塩水の腹腔内注射を行った。喘息発作を誘導するため連続的に4日間エアロゾル化された2%OVAを曝露し、対照群へはエアロゾル化された生理食塩水を曝露した。気道過敏性の指標として、マウスにメサコリンを吸入させ、体プレチスモグラフ法を使用してEnhanced P ause(Penh)を測定した。最終日に採血および気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取し、ペントバルビタールの過量投与で安楽死させ臓器標本を摘出した。

以下のようなex vivoでの検討を行った。T細胞の活性化を評価するためにマウスの脾臓より全脾細胞懸濁液を調製し、hPSまたは生理食塩水の存在下で培養した。その後、実験群にはOVA、対照群には生理食塩水を添加し、Th2条件(IL-2、IL-4、抗IFNY抗体添加)または中立条件(IL-2添加)で培養した。

更に樹状細胞(DC)の関与を評価するベく、骨髄由来樹状細胞(BMDC)を採取した。BMDCをhP Sの存在下で培養した後、OVAまたは生理食塩水を添加しさらに培養した。Th2条件および中性条件下でそれぞれOT IIマウス脾臓由来のナイーブCD4+T細胞と共培養した。その後、細胞をそれぞれのマウス抗原(IFNY、IL-5、IL-17、Foxp3、T-bet、GATA-3、RORy)に特異的なモノクローナル抗体を用いて標識し、FACScanで解析、Cell-Quest Proソフトウェアでデータ解析を行った。

統計的検定には、4変数間の分析にTukey検定を、2つの変数間にMann-Whitney U検定を用いた。統計解析はWindows版のGraph Pad Prismを用いて行った。P<0.05を統計的有意性ありとした。

結果
まずヒト喘息患者におけるPSの循環レベルを測定した。喘息患者のPS総量および遊離体の血漿中濃度は、健常対照群と比較して有意に低下していた。

OVA誘発気管支喘息モデルマウスを用いた検討を行った。気道過敏性の指標であるPenh値の上昇はhPS群では有意に抑制された。BALFにおいてhPS群は有意に好酸球数が減少していた。気道炎症の指標としてムチン過分泌を評価するため気道組織標本にPAS染色を行い、ムチン産生量を定量化した。hPS群ではムチン分泌量が減少し、杯細胞の過形成が抑制されていた。

マウス血漿中のTh2応答マーカー濃度を測定した。血漿中のIgE濃度、およびBALF中のIL-4、IL-5、IL-31、MCP-1、IgE濃度は、hPSでは有意に減少していた。

次に、WTマウスに対しhPSを外因的に投与する検討を行った。喘息モデルにおいてOVA吸入負荷する直前に、hPS溶液または生理食塩水を経鼻投与した。hPS群は対照群と比較して有意な気道過敏性の低下、BALF中の好酸球比率抑制とMCP-1、IL-4、IL-5、およびIL-13の低下、ムチンの減少がみられた。これらの知見はhPSがエフェクター相に作用してアレルギー性喘息を抑制していることを示唆している。

次にex vivoでの検討を行った。OVA感作マウスの脾細胞懸濁液をhPSの存在下でOVAを添加して培養し、培養上清中のIgEおよびTh2サイトカインを測定した所、hPS群は対照群と比較して培養上清中のIgE、IL-4、IL-5、IL-13の有意な減少を示した。

脾臓細胞懸濁液をhPSで処理後、OVAの存在下で中➴条件またはTh2条件下で培養を行い、シグネチャーサイトカインを発現する細胞の割合を評価した。中➴条件下において、hPSの存在下では有意にIFNYおよびIL-17陽性細胞数が増加し、IL-4陽性細胞数が減少した。Th2条件下においては、hPS群はIL-4、IL-5、IL-13陽性細胞数は有意に減少し、IFNyおよびIL-17陽性細胞数は有意に増加した。これらの結果はhPSがTh2細胞を抑制しThlやThl7細胞集団を増加させることを示唆している。

hPSが樹状細胞に媒介されるT細胞分化に影響を与えるかどうかを検討した。BMDCをhPSまたはSAL前処理した後OVAで感作し、中立条件およびTh2条件下でそれぞれOVA特異的CD4+T細胞と共培養した。中立条件下では、hPSの存在下でIFNyおよびIL-17陽性細胞数は有意に増加した。 Th2条件下において、hPS群では有意にIFNy陽性細胞数が増加し、IL-5陽性細胞数が減少した。 更にT細胞における転写因子の評価を行ったところ、hPS群では中立条件、Th2条件ともにT-bet、 RORy陽性細胞数が増加した。GATA-3を発現した細胞数は中立条件では差がなかったが、Th2条件では減少した。Foxp3発現細胞は中立条件では増加し、Th2条件では差がなかった。これらの所見からは、hPSはTh1やTh17の分化を促進するが、Th2の分化を促進しないことが示唆された。

リポポリサッカライド(LPS)はThl促進因子として知られるが、hPSがこれによるTh1応答を促進するかどうかを評価した。BMDCをhPSの存在下または非存在下でLPSで刺激し、細胞培養上清中のサイトカイン濃度とそれらのmessenger RNA(mRNA)発現を評価した。Th1サイトカインであるTNFαのタンパク質およびmRNA発現はhPS群で有意に増加していた。

より実際の喘息に近い条件としてDer plおよびthymic stromal lymphopoietin(TSLP)によってBMDCにTh2誘導を行いhPSの効果を評価した。結果、hPS群ではTNFaおよびIL-12陽性BM DC数が有意に増多し、培養上清中OIL-12およびTNFα、TGF61濃度は有意に増加した。これらの結果は、ヒトにおけるアレルギー性喘息の状況においてもhPSがThl応答を促進する可能性を示唆している。

考察
気管支喘息に対しhPSが保護的に作用するという仮説を検証するためにhPS過剰発現マウスに気管支喘息を誘導し検討を行った結果、WTマウスと比較してTh2に関連したマーカーおよび気道炎症・過敏性の改善が有意に確認された。さらに、喘息誘発マウスに外因性にhPSを投与しても同様の効果が示され、hPSの有益な効果は免疫応答のエフェクター段階で行われていることが示唆された。

ヒトの気管支喘息患者では、健常者と比較してPSの血漿中濃度が有意に低下していることが確認された。もしPSがヒトでも保護作用があるとすれば、これらの事がアレルギー性気管支喘息の発症と関連しているのではないかと推測される。しかしこの所見からPSの血漿中濃度の低さがアレルギー性気管支喘息の原因なのか結果なのかを推測することはできない。

hPSの効果はΤΑΜ受容体によって媒介されSo ΤΑΜ受容体は自然免疫応答および適応免疫応答を阻害することが知られており、Th2応答の負の調節因子である。ここで我々は、hPSがThl/Th2バランスをThlにシフトさせることでTh2を介した気管支喘息を抑制するという仮説を立てた。この仮説を実証するために、抗原刺激前のマウス全脾臓細胞をhPSで前処理し、シグネチャーサイトカインを発現するT細胞数を評価した。その結果、hPSは中立条件下ではThlサイトカイン産生細胞数を増加させ、Th2条件下ではTh2サイトカイン産生細胞数を抑制することが明らかになった。この事からhPSはThl/Th2バランスをThlに傾けることを示唆しており、これがアレルギー性気管支喘息におけるhPSの保護作用の理由である可能性がある。

一連の反応に対する樹状細胞(DC)の関与を調べるため、DCのサイトカイン発現を評価した。hPSの介入によって、Th1誘導因子であるLPSで刺激したDCからのTNFαの発現は増加し、またアレルギー性喘息においてTh2免疫を誘導することが知られているDer p1やTSLPで刺激されたD CにおいてはIL-12とTNFαの発現を増加させた。これらのことから、hPSはDCからのTh1促進サイトカインの分泌を増加させることでTh1分化を促進する可能性があることが示唆された。

結論
本研究はアレルギー性気管支喘息において、Thl/Th2バランスをThlにシフトさせることによりhPSが保護的作用を示すという可能性を示した。この知見はアレルギー性気管支喘息の新しい治療法へ繋がる可能性がある。