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大学・研究所にある論文を検索できる 「骨髄PPARδを介した脂質による動員制御」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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骨髄PPARδを介した脂質による動員制御

Suzuki, Tomohide 神戸大学

2021.03.25

概要

顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)投与による造血幹・前駆細胞(HSC/HPC)の末梢循環への動員は、血液悪性腫瘍に対する移植治療に用いる造血幹細胞を採取するために臨床で広く用いられている手法である。HSC/HPCの動員は、交感神経とG-CSF受容体を介し、骨芽細胞抑制や骨髄間質細胞のケモカインCXCL12によるHSC/HPC保持の抑制、及び骨髄微小環境(Niche)を支持するマクロファージの抑制などにより制御されていることが近年明らかとなっている。しかしながら、動員効率は各個体間により異なり、中には動員効率が低い個体も認められ臨床的問題となっている。何故個体間で動員効率に差異が認められるのかについては明確な答えはない。骨髄微小環境の一つとして挙げられる骨髄脂肪は、造血を制御し、また骨髄に豊富に存在する各種免疫細胞は炎症性・抗炎症性脂質メデイエーターを産生することが近年報告されセいる。このように骨髄に存在する細胞には、我々余日々摂取する食餌性脂肪酸の影響もあるものと推測されるが、HSC/HPC動員への影響についてはまだ未解明である。そこで食餌性脂肪酸が動員を調節している可能性を考え解析を行った。

 まず、食餌性脂肪の動員への影響を検討するため、野生型マウスに無脂肪食を2週間給餌し、継続して5日間の顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与し、フローサイトメトリー(FCM)及び造血前駆細胞コロニー(CFU-Cs)形成法にて動員効率を評価した。その結果、2週間無脂肪食給餌マウスの末梢血循環へのHPCの動員効率は、普通食給餌条件で動員と比較して劇的に上昇した。骨髄HPCの数に変化は認められなかった。無脂肪食給餌条件で末梢循環に動員された末梢血を放射線照射した野生型マウスに移植し、その長期再構築能を解析したところ、普通食給餌条件で動員された末梢血を移植されたコントロール群と比較し、その再構築能が高いことが示された。以上からHSC動員効率もまた無脂肪食給餌により増加することが示された。

 食餌性脂肪の有無によりHSC/HPCの動員効率が上昇したことから、動員を制御する食餌性脂肪酸とその機構についてさらに解析をおこなった。まず申請者は、脂肪酸をリガンドとすることが知られている核内転写因子Peroxisome proliferator-activated receptor family(PPARs)に着目した。骨髄PPARa/δ/γのそれぞれのアイソフォームmRNA発現量を、コントロール群とG-CSF投与群で比較したところ、PPARδ mRNAの発現がG-CSF投与回数とともに特異的に誘導されることを発見した。さらに興味深いことに、コントロール食給餌条件の動員時、骨髄PPARδ mRNAの発現量はHPCの動員効率と強い正の相関があり、無脂肪食給餌条件ではさらに強い傾向を示した。

 骨髄の主なPPARδ発現細胞を決定すべく、PPARδ抗体を用いて免疫組織染色、及び骨髄細胞のFCM解析を行ったところ、G-CSF刺激では、主に好中球が強く染色された。また骨髄好中球系細胞をLy6G, F4/80の発現強度により、各々成熟好中球CD11b+Ly6Ghigh F4/80low、幼弱好中球CD11b+Ly6Gdull F4/80, OW及び単球・マクロファージCD11b+Ly6Gdull F4/80high分画をsortingしたところ、成熟/幼弱好中球分画にてPPARδ mRNA及びタンパ的に行っている可能性が残された。

 次に、PPARδシグナルによる動員制御の機序を探るため、PPARδ下流の遺伝子ANGPTL4の分泌性タンパクに着目した。ANGPTL4は血管透過性制御因子として機能することが報告されていることから、骨髄内ANGPTL4と動員の関係を調べた。骨髄細胞外液のANGPTL4タンパク質はG-CSFとGW501516投与に反応して増加し、同様に骨髄成熟/幼弱好中球のANGPTL4 mRNA発現も増加した。そこで、G-CSF刺激下にANGPTL4中和抗体を投与し、HPC動員効率をコントロールIgG投与群と比較したところ、中和抗体投与群において動員効率の有意な上昇が認められた。また、骨髄血管透過性について検討するため、Evans Blueを静脈注射し、灌流後の骨髄内色素量を比較したところ、GW501516投与群では骨髄血管透過性は大きく低下し、ANGPTL4中和抗体投与群では有意に亢進していた。以上から骨髄好中球PPARδを介したANGPTL4の発現は骨髄内血管透過性を抑制する働きがあることが示された。

 これらの研究成果から以下の新たな知見が明らかとなった。
1) G-CSF投与下では骨髄好中球のPPARδ発現が増加するが、それは交感神経刺激により好中球のβ1及びβ2アドレナリン受容体を介して誘導される。この骨髄好中球PPARδはHSC/HPCの動員を負に制御する。
2) 骨髄内W3PUFAは食餌性脂質供給に依存し、一部G-CSF刺激によっても減少する。特にω3PUFAの一つであるΕΡΑは骨髄好中球PPARδのリガンドとして機能する。
3) 骨髄好中球PPARδにより発現制御されるANGPTL4は骨髄血管透過性を低下させることで、HSC/HPCの動員を抑制している。

 G-CSF刺激は骨髄内で好中球を増産させ、細胞外基質を分解する酵素がHPC動員に働いているとも考えられており、実際に抗Ly6G抗体による好中球欠失はHPC動員を減少させる。このような骨髄内の変化は無菌性骨髄炎としてもとらえることができる。この交感神経を介した脂質による動員の制御は、日々摂取する食事に含まれる脂質が一部に担っており、動員のようなストレス刺激時には、恐らく骨髄の変化に対するフイードバック機構として過剰な動員を防ぐブレーキを担っている可能性がある。このような知見は今後の造血環境による血液細胞の調整メカニズムを深く理解することに寄与するものと考えられる。

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