透過型電子顕微鏡による高分子結晶の高分解能観察
概要
令和 4 年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
透過型電子顕微鏡による高分子結晶の高分解能観察
High-Resolution Observation of Polymer Crystals with a Transmission Electron Microscope
京都大学化学研究所 高分子制御合成研究領域
登阪雅聡
研究成果概要
自動車用タイヤに用いられるゴム材料の中でも、特に天然ゴムは耐久性が求められる用途
に不可欠の材料である。その一因として、天然ゴムの伸長結晶化による自己補強効果が挙げ
られる。しかしながら、補強の詳細なメカニズムについては、未だ不明な点が多い。
一般に材料の破壊が進行するのは、亀裂の伝播により解放されるひずみエネルギーが、新
しい表面を形成するエネルギーを上回る場合だとされている。したがって、ひずみエネルギー
自体を消散させれば、材料の補強に寄与することになる。
我々は切れ込みを入れたカーボンブラック充填ゴムを伸長して放射光 X 線解析を行った。
その結果、伸長中は切れ込みの先端部に伸長結晶化が起こっていることに加え、元の長さに
収縮した際、その先端部にパラフィンワックスの結晶が析出していることを見出した。そこで本
研究では、伸長結晶化によって亀裂先端周囲にもたらされたゴム材料の変形と、パラフィンワ
ックスの三次元分布について、詳細に解析した。パラフィン結晶の凝集は、試料の上面および
底面にのみ観察された (Fig. 1)。この結果は、伸長結晶化によりパラフィンなど低分子化合物
の輸送が、数十µm 以上の規模で引き起こされたことを示す。こうした輸送によるエネルギーの
消散も、材料の補強に寄与すると考えられる。
x
y
x
(mm)
(a.u.)
y
Fig. 1. Enlarged image of the crack tip of natural rubber sample (left) and the WAXD intensity
distribution of the reflection from the paraffine crystals (right). The square in the left part indicates
the area scanned by the X-ray beam.
発表論文(謝辞なし)
[1] 登阪雅聡, 丸山隆之, 日本ゴム協会誌, 2022, 7, 207-211. ...