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書き出し

グリーン溶媒から創製される高性能繊維の強度発現機構解明とさらなる性能向上

後藤, 康夫 信州大学

2020.03.12

概要

2版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
平成 30 年

6 月 25 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(C)(一般)
研究期間: 2015 ∼ 2017
課題番号: 15K06481
研究課題名(和文)グリーン溶媒から創製される高性能繊維の強度発現機構解明とさらなる性能向上

研究課題名(英文)Preparation of high strength fiber using green solvent

研究代表者
後藤 康夫(Gotoh, Yasuo)
信州大学・学術研究院繊維学系・教授

研究者番号:60262698
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,800,000 円

研究成果の概要(和文):引張強度が2GPa以上の高強度ポリアクリロニトリル繊維を、リサイクル性に優れるイ
オン液体である1-ブチル-3メチルイミダゾリウムクロリドを溶媒として湿式紡糸・二次延伸より作製した。高分
子量樹脂と紡糸・延伸条件の最適化により平均強度が2.3GPaの高強度繊維の作製に成功した。二次延伸倍率増加
に伴う分子配向度の増大によって引張試験時の応力が大きくなるにも関わらず、初期弾性率や破断伸度に大きな
変化は見られなかった。特に破断伸度は、どの延伸倍率でも約12%の一定値を示した。この伸度は高強度繊維と
しては非常に大きく、極めて高タフネスな繊維であることを意味し、他の高強度繊維にはない特徴である。

研究成果の概要(英文):High strength polyacrylonitrile (PAN) fibers with tensile strength of over 2
GPa were prepared by wet spinning using a good recyclable ionic liquid,
1-buthyl-3-methylimidazolium chloride, as a solvent. High strength fiber with the highest average
tensile strength of 2.3 GPa was successfully obtained by use of high molecular weight resin and
optimization of spinning and secondary drawing conditions. The stress during tensile measurement was
enhanced with increase of secondary drawing ratio owing to raise of degree of molecular
orientation, but initial modulus and elongation at break were barely changed regardless of the draw
ratio. In especial, for highly drawn fibers, the elongation at break was almost constant at ca. 12
%. This value was considerably large for high strength fiber, which means that the PAN fibers in
this study had high toughness. This was a very unique character among high strength fibers.

研究分野: 繊維材料
キーワード: 高強度繊維 イオン液体 アクリル 溶液紡糸

様 式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)
1.研究開始当初の背景
繊維の高強度・高弾性率化は、省資源・省エ
ネルギーと材料の信頼性向上をもたらしサ
ステナビリティ社会ならびに安全安心社会
の構築に貢献する重要課題である。その中で、
スーパー繊維と称される引張強度 2 GPa 以
上の高強度繊維の多くは、溶液紡糸の一種の
“湿式紡糸”で作られる。本課題で取り上げ
るポリアクリロニトリル(PAN)繊維も湿式紡
糸で製造され、衣料・産業用途に加え、炭素
繊維(CF)前駆体として非常に重要な繊維素
材である。期待される成長分野の一つに「炭
素繊維・複合材料」が挙げられ、高性能 CF お
よび複合材料の製造プロセスはその中核を
なす。高性能 CF の 9 割は PAN 繊維より製
造されている。CF 向け PAN 繊維は、DMF、
DMSO 等の極性有機溶媒や塩化亜鉛等の無
機塩濃厚水溶液を溶媒とした湿式紡糸で製
造される。PAN 分子鎖の直線的配列は、得ら
れるグラファイト配向の前駆構造となるた
め、PAN 繊維を高度に延伸・配向させて高強
度・高弾性率化することは CF の高性能化に
欠かせない。すなわち高強度 PAN 繊維は CF
製造の観点からも重要である。一方で PAN
繊維の引張強度は、学術論文では 1.8GPa が
過去最高値であり、それ以上の高強度化に関
する検討は長らく停滞している。
一方、本課題の研究代表者は、湿式紡糸・
延伸に関して蓄積した知見をいかして PAN
繊維の高強度化について検討を重ねた結果、
グリーン溶媒として注目されるイオン液体
(IL)の一つ、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウ
ムクロリド(BmimCl)を溶媒とした PAN 溶液
を、純水で凝固させて湿式紡糸すると延伸性
に優れた透明ゲル繊維となること、乾熱延伸
により強度 1.8 GPa、弾性率 25 GPa もの高
強度・高弾性率 PAN 繊維を実現できること、
を見いだした。この結果は、凝固液が純水の
みと環境面で優位性があり、さらに平均分子
量 14 万の汎用 PAN を原料とし、ポリマー濃
度も 10%と実用に供せられる紡糸条件で実
現している。このような条件下で、従来報告
されている強度最高値に比肩し、実用される
CF 前駆体 PAN 繊維の 2 倍に達する。この知
見は、申請直前に得られたばかりの成果であ
り、高強度化を実現した構造的要因の解明や
紡糸・延伸条件の追求は十分に行われていな
い状況であった。
2.研究の目的
本研究では、PAN / BmimCl 溶液のゲル紡
糸ならびに二次延伸によって得られた過去
最高レベルの強度を有する PAN 繊維に関し
て、その強度発現機構を詳細に調べるととも
に、更なる高強度化につながる条件を明らか
にし、強度 2 GPa を超える高強度 PAN 繊維
を作製することを目的とした。また、繊維の
耐久性に関わるフィブリル化発現の原因や
得られた高強度 PAN 繊維の CF 化について
もあわせて検討を行った。

3.研究の方法
(1) 繊維の作製
種々の分子量を有するアタクチック PAN
ホモポリマーを懸濁重合により合成した。
BmimCl に加熱溶解し紡糸液とした。紡糸お
よび二次延伸は以下の手順で行った。100℃
に加熱した紡糸溶液をノズルよりエアギャ
ップを通して 2∼30℃の水中に押し出し凝固
させた。紡糸工程で 3 倍の浴中での湿延伸、
洗浄による脱溶媒、を行うことで、As-spun
繊維を作製した。これを 180℃前後の定温で
連続的に二次延伸し、高強度化を図った。
(2) フィブリル化試験
繊維の耐久性に大きく関わるとされるフ
ィブリル化試験は、水/メタノール混合液中
に 5mm 長にカットした繊維を投入し、自転
公転ミキサーを用いたジルコニアボールミ
リングにより実施した。
(3) 炭素繊維化
分子量 20 万で引張強度約 1.5GPa の高強
度 PAN 繊維を前駆体として、耐炎化処理・
炭素化処理を行い、CF を作製した。
4.研究成果
(1) 高強度 PAN 繊維
BmimCl を溶媒とする PAN 溶液を湿式紡
糸すると、水のみを凝固液とした場合、速や
かに固化し透明でマクロには均一な As spun
繊維が得られた。この As spun 繊維は、水温
を低くするほど、ゲル化による固化が優先的
となり、ミクロボイドが極めて少ない均一な
構造を有することが小角 X 線散乱測定より確
認された。また構造の均一性向上に伴い二次
延伸倍率および引張強度も高くなった。
DMSO のような一般的な有機溶媒から作製
した繊維は水単体を凝固液として用いた場
合、ミクロボイド・マクロボイドとも多量に
形成され、二次延伸性・力学物性とも極めて
劣悪となる。これに対し、BmimCl を溶媒と
すると、後述するように、過去の学術論文中、
最も高強度な PAN 繊維を得ることができた
ことは大きな成果である。BmimCl が PAN
の紡糸に適した溶媒である理由は、静電相互
作用のため分子間に大きな摩擦が生じ、その
ため粘性が高くなる。その結果、分子鎖が動
くゆとりが失われて相分離の起こり難くな
り、代わりにゲル化優先で均一な状態で固化
が進むためと結論づけた。
次に延伸繊維の力学物性について述べる。
Fig.1 に、二次延伸時の繊維にかかる応力(延
伸応力)と延伸繊維の引張強度の関係を示す。
図中、M.W.と数値は原料ポリマーの粘度平均
分子量を表している。延伸応力は、概ね延伸
倍率と対応している。最大二次延伸倍率は分
子量に依存せず、約 10 倍であった。延伸応
力は、高分子量ほど大きくなり、それと対応
して強度が大きくなった。最大強度(15 本の
平均値)は、M.W.100 万・11 倍延伸繊維で
2.31GPa (19.6 cN/dtex)に達した。この強度
は、本課題の目標をクリアするとともに我々

が知る限り、これまでの学術論文中、PAN 繊
維としては最高値であり、本 PAN 繊維のポ
テンシャルを示したといえる大きな成果で
ある。
一方、弾性率と伸度は、Fig.2 の応力−ひ
ずみ曲線(M.W.100 万)に示すように、延伸倍
率が増加しても大きな変化は見られなかっ
た。特に破断伸度が約 12%と、強度 2GPa
を超え、高性能繊維としては他に類を見ない
特徴である。この結果は、本 PAN 繊維が高
タフネス(高破壊エネルギー)であり、構造材
料としての信頼性が高いことを示す。非常に
高い伸度の原因は、応力印可に伴う広角 X 線
回折プロフィールの変化測定よりヘリック
ス構造から平面ジグザグ構造への転移の寄
与が大きいためと推定された。

久性を著しく低下させるので、一般的には好
ましくない物性である。したがって、本 PAN
繊維の高タフネス性を活かし、より信頼性を
高めるためには、フィブリル化を抑制する必
要がある。本研究では、PAN の強い凝集力を
弱めて、湿式紡糸時の凝固挙動を変化させる
ことを目的として、3wt%の酢酸ビニルをコ
モ ノ マ ー と し て 共 重 合 さ せ た PAN
(P(AN-co-VAc))を用いて BmimCl 溶液よ
り紡糸し、PAN ホモポリマーとフィブリル化
挙動を比較した。両者の比較のために、フィ
ブリル化が起こりやすい分子量を低めに抑
えた分子量 15 万の樹脂を用い、紡糸・延伸
条件を揃えて結晶配向度・結晶化度や引張物
性がほぼ同一の繊維を準備した。Fig.3 にフ
ィブリル化試験後の各延伸繊維の光学顕微
鏡像を示す。PAN 単体繊維は、ボールミリン
グにより激しく損傷し、著しくフィブリル化
した。これに対して酢酸ビニルを共重合させ
た繊維は、フィブリル化が大幅に抑えられた。

Fig.1 Relationships between drawing stress and
tensile strength for drawn PAN fibers with
different molecular weights.

Fig.3 Optical micrographs of the drawn
fibers after fibrillation test; (a) PAN
homopolymer, (b) P(AN-co-VAc).

Fig.2 Stress-strain curves of drawn PAN fibers
with different secondary drawing ratios. The
molecular weight was 10 × 105.

(2) 高配向 PAN 繊維のフィブリル化と抑制
アクリロニトリル成分のみからなる PAN
は、二次延伸後に高配向な配向構造を形成す
るため、本質的にミクロフィブリルを形成し
やすい。したがって、摩擦等により表面から
微細な繊維状に剥がれ落ちる“フィブリル化”
が起こる。この現象は、繊維材料としての耐

この原因を調べるために測定した二次元
での小角 X 線散乱像を Fig.4 に示す。
図より、
PAN 単体繊維には中心付近に強い散乱が見
られたのに対して、共重合体では散乱が大幅
に抑えられ、ミクロレベルでの構造的な均一
性の高さを確認できた。
さらに紡糸液を種々の温度の水中に吐出
し、時間を変えて凝固の様子を調べた相図か
らマクロレベルでも共重合体は均一性が良
好であることが確かめられた。
以上の結果より、少量のコモノマー導入に
よって分子鎖の凝集力を低下させ、凝固・延
伸時の相分離の促進を抑制することで、引張

特性を落とさずにフィブリル化を低減でき
た。耐久性向上のためには重要な知見である
と考えられる。

Fig.4 2-D SAXS images of the drawn fibers
after fibrillation test; (a) PAN homopolymer,
(b) P(AN-co-VAc).

(3) 高強度 PAN 繊維の炭素化
本研究で作製した引張強度が約 1.5GPa の
高強度 PAN 繊維を前駆体として、255℃の空
気中で耐炎化処理し、引き続き 1000℃の Ar
中で炭素化処理を行い CF を得た。Fig.5 に
CF の SEM 像を示す。市販品の PAN 系 CF
に見られる縦筋は見られず、滑らかな前駆体
PAN 繊維の表面構造を反映していた。市販
CF と比較して、結晶配向度は高く、微結晶
サイズは大きいことが X 線繊維図形から確か
められた。CF の作製は、熱処理時の張力制
御が極めて重要であり、実験室では精緻な制
御を再現できかなった。そのため、引張強度
および破断伸度は市販品の半分程度にとど
ま1/3程度に留まった。一方、初期弾性率
は 200GPa を超え、
市販品と同程度であった。

Fig.5 Carbon fiber prepared from high
strength PAN fiber. ...

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