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イネにおける葉の軸方向の形態形成に関する遺伝子学的解析

本田, 恵倫子 東京大学 DOI:10.15083/0002001488

2021.09.08

概要

多くの植物において、葉は頂部-基部、向軸-背軸、そして中央-側方の3方向の軸に極性化した構造を持ち、それぞれの軸に沿って異なる組織分化が起こる。

イネの葉原基は発生初期から茎頂分裂組織(SAM)を包みこむように側方方向に伸長するため、双子葉植物とは異なる葉の極性形成を行うと推測されている。葉の中央-側方軸の形態形成における遺伝的制御機構については、未だそのほとんどが明らかになっていない。

1.葉の側方方向の形態形成に異常を持つLSY1遺伝子の解析
イネの葉の側方方向の領域を左右非対称に大きく欠く変異体として同定されたleaf lateral symmetry1(lsy1)変異体の表現型解析および原因遺伝子LSY1の発現解析を通じて、イネの葉の側方方向に沿った形態形成の遺伝的制御機構を理解することを目的とし、解析を行った。

栄養成長期における野生型およびlsy1の組織切片を作成し、比較したところ、多くのlsy1変異体の葉原基はSAMを包み込む構造を形成できず、また葉の片側が欠けるだけでなく左右両方の葉縁が失われているもの、野生型と同様に両側の葉縁が形成されるもの、2カ所以上の葉縁を形成するものなどが見られた。葉原基の異常がいつからおこっているのかを明らかにするため、P2からP5までの葉原基について葉の中心から左右の葉縁までの距離の差を計測したところ、lsy1は初期の葉原基(P2)から左右差に大きなばらつきが見られた。これらの結果から、lsy1変異体の葉は左右の葉縁構造が不規則に失われる表現型を示し、その異常は初期の葉原基から生じていることが明らかになった。

LSY1遺伝子はホメオドメインとWUS-boxを持つWUSCHEL-LIKE-HOMEOBOX(WOX)転写因子をコードする。LSY1遺伝子は、花の側生器官の形成に関わるシロイヌナズナのPRESSEDFLOWERを含むWOX3サブファミリーに分類される。WOX3遺伝子ファミリーにおけるLSY1遺伝子の系統的位置を明らかにするため、高等植物のWOX3遺伝子のアミノ酸配列を用いて系統解析を行った。イネ目には二つのWOX3サブクレードが存在し、LSY1は葉縁の形態形成に関わるトウモロコシNARROWSHEATH1/2やイネNALLOWLEAF2/3(NAL2/3)とは異なるサブクレードに分類されることが明らかになった。nal2/3変異体の葉の表現型が葉縁部分を左右対称に欠くlsy1変異体の葉とは異なる表現型を示すことからもWOX3がイネ科において機能分化しており、LSY1はNAL2/3とは異なる機能を持つことが示唆される。

野生型葉原基におけるLSY1遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションにより観察すると、P1葉原基では葉縁を含む広い領域で、P2では葉縁の狭い領域で、P3では葉縁の先端部分のみで発現していた。これらのことから、LSY1遺伝子は初期の葉原基の葉縁を含む領域で発現することによって、葉の側方方向の形態形成に関わることが示唆された。

lsy1変異体では生殖成長期においても異常が見られた。小穂においては、内穎の消失、雄蕊の形態異常、心皮の不完全な成長による胚珠の突出や、柱頭数の増加が見られ、小穂の中に2次的な花構造が形成されるものも稀に認められた。生殖成長期におけるLSY1遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションにより観察したところ、初期には花の側生器官の先端で、後期には葉的器官の縁や葯の四隅、心皮の癒合部分などでも発現がみられた。これらの結果から、LSY1遺伝子は花器官の先端や縁で発現することで、小穂の初期形態形成および花器官の形態形成に関与することが示唆された。

2.イネWOX3遺伝子の葉の形態形成おける機能の解析
LSY1遺伝子の機能をさらに検討するため、LSY1の過剰発現体を作製し、その表現型を観察した。LSY1過剰発現体は多げつ性で、根の分化が強く抑えられていた。シュートの内部構造を観察したところ、過剰発現体の葉原基は野生型と比較してP4以降も扁平で、中肋の形成が抑えられていた。また葉縁の成長が側方方向に促進され、先端が向軸側に巻き込まれていた。葉の向軸領域のマーカー遺伝子であるOsHB3と、背軸領域のマーカー遺伝子であるOsETT3遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションによって観察すると、それぞれのマーカー遺伝子の発現領域が葉肉組織の内部にまで拡大していた。またOsETT3遺伝子の発現量は野生型と比較して2.5倍に増加していた。これらの結果から、LSY1は葉の発生初期において向背軸境界に影響を与えるとともに、葉の背軸側領域の形成を正に制御することで葉縁形成に関わっていることが推測された。

続いて、同じWOX3サブファミリーに属するNAL2/3遺伝子とLSY1との関係を調査した。野生型の葉原基におけるNAL2/3遺伝子の発現部位をin situハイブリダイゼーションによって観察したところ、LSY1では比較的広い葉縁領域で遺伝子発現が見られるのに対し、NAL2/3ではその発現領域が葉縁の先端のみに限定されていた。両者の表現型と発現領域の差異からも、葉縁の形成における2つのWOX3サブファミリー遺伝子の機能がそれぞれ異なっていると考えられた。

LSY1とNAL2/3の遺伝子間相互作用を明らかにするため、lsy1変異体におけるNAL2/3遺伝子の発現、nal2/3変異体におけるLSY1遺伝子の発現をそれぞれ検討したところin situハイブリダイゼーションにおいて、それぞれの葉縁にそれぞれの遺伝子の発現が観察された。リアルタイムPCRによる解析ではlsy1変異体でのNAL2/3遺伝子の発現は変化せず、nal2/3変異体でのLSY1遺伝子の発現は野生型の約2倍に増加した。また、LSY1過剰発現体におけるNAL2/3遺伝子の発現量は野生型の約7倍に増加した。これらの結果から、LSY1遺伝子およびNAL2/3遺伝子はそれぞれ独立して葉の側方方向の形態形成に関与するが、その発現量に相互に影響を与えていることが示唆された。より詳細に2つの遺伝子の関係を明らかにするためにlsy1とnal2/3の三重変異体を作成し、観察したところ、lsy1nal2/3三重変異体の実生はlsy1、nal2/3と比較してさらに矮性で、葉はnal2/3と同様に側方領域を大きく欠き、葉にはねじれが生じていた。葉原基の横断切片を観察するとlsy1nal2/3三重変異体の葉原基は、lsy1と同様に葉の側方を必ず大きく欠くが、その度合いは左右対称であり、lsy1nal2/3三重変異体は相加的な表現型を示していると考えられた。以上の結果から、LSY1遺伝子は初期の葉原基で発現し、葉縁における向背軸領域の確立や成長制御を介して葉の側方方向の形態形成に関わることが示唆された。

3.葉の長軸方向の形態形成制御におけるNEEDLE1遺伝子の機能
イネNEEDLE1(NDL1,Os02g0594300)はAP2/ERFドメインを持つ転写因子シロイヌナズナDRN、DRNLのオルソログで、東京大学大学院農学生命科学研究科育種学教室にて、松井が台中65号をN-メチル-N-ニトロソウレアにより変異源処理したM2集団から単離した劣性変異体needle1(ndl1)の原因遺伝子として同定された。今回の研究ではndl1、およびNDL1過剰発現体の形態を詳細に観察した。

in situ hybridizationによってNDL1遺伝子はP0原基の基部に限局して発現していた。ndl1-1およびndl1-2は、成育途中でSAMの機能が停止し、新しい葉を展開しなくなった後枯死する。また、植物体は矮性を示し、葉の形態に異常が見られ、第2葉は必ず葉身を欠き、それ以降の葉もしばしば葉身を欠くことから、NDL1は葉身の分化に関係することが示唆された。

ndl1-1に、向背軸、長軸方向の異常がみられたため、各部のマーカー遺伝子の発現を検討した。野生型では、発芽後のシュートの組織切片における基部マーカーであるPLA1、向軸マーカーであるOsHB3遺伝子の発現には野生型と差が見られなかった。

NDL1遺伝子の3’上流には、オーキシン応答配列が存在するので、NDL1はオーキシンの作用に関わると考えられる。DR5:GUSxndl1-1の種子を用いて葉におけるオーキシン応答を野生型と比較した。ndl1-1の葉原基においてはDR5:GUSの発現が野生型と比較して弱く、ndl1-1の葉身のない葉では先端でのみごくわずかに発現が見られるだけで、葉先端のオーキシン応答が低下していた。

長軸方向の形態形成における役割の詳細を明らかにするため、NDL1の過剰発現体を作成し、その性質を検討した。過剰発現体の葉は葉身と葉鞘の境界で葉が外側に折れ曲がる表現型を示した。葉身-葉鞘境界では、葉耳、葉舌の形態に異常が見られ、毛状の構造を持たない葉耳、無毛で突出した葉耳、肥厚した葉耳などが観察された。葉舌は縮小し、欠失しているものもあった。肥厚した葉耳などの葉身-葉鞘境界の異常はNDL1の発現量が多い個体でより顕著にみられた。

ndl1およびNDL1過剰発現体の形態から、胚発生の過程ではNDL1が葉身-葉鞘境界の決定に不可欠で、第3葉以降は葉身および葉身-葉鞘境界の形態形成を他の因子とリダンダントに担っていることが推測された。NDL1が葉身-葉鞘境界において、葉身-葉鞘境界の細胞や葉耳の細胞の増殖や伸長、分化に関係していることが示唆された。