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救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の安全性を確保するための搭乗員リスクマネージメントの重要性

坂田 久美子 富山大学

2020.03.24

概要

[目的]
ドクターヘリコプター(Doctor Helicopter:DH)は、救急医療に必要な機器及び医薬品を装備し、救急現場等で治療を開始しつつ医療機関に搬送することで救命率の向上や後遺障害の軽減を目指す専用のヘリコプターであり、2018年9月現在で、全国の43道府県に53機が配備されている。DHは、1名のコミュニケーションスペシャリスト(communication specialist:CS)が地上で運航調整を行い、操縦士1名、整備士1名、医師1名と看護師1名の4名が乗務して、現地においては、救急隊員や救急救命士とともにメディカルスタッフとして救命・救護活動の業務を担う。

DHの搭乗員は、医療チームとして高い能力を発揮することが求められるため、チームが安全に活動できる状況にあることが重要であるにも関わらず、我が国では、チームとしての搭乗員のリスクマネジメントは、これまで行われていない。本研究では、搭乗員の安全状況に関する自己評価式のチェックリストを用いた、搭乗員全体の搭乗経験などを含めた安全状況の把握と、それに基づくリスクマネジメントの重要性について検討した。

[方法]
研究は以下に示す 5 つのStep で構成し、DH システムにおける搭乗員のリスクマネジメントの重要性についての検討を行った。
Step1 搭乗員およびCS を対象として実施するチェックリストの作成 Step2 A 県DH システムでの 1 回目の調査(2013 年)
Step3 A 県DH システムでの 2 回目の調査(2017 年)
Step4 チェックリストの見直しとB 県DH システムでの調査(2018 年) Step5 本チェックリストによる搭乗員の安全性のスコア化

[結果]
University of Michigan Health SystemのSurvival Flightより提供を受けたCrew Risk Assessmentシートを逐語訳し、日本語版のチェックリストを作成(Step1)した。DHの運航開始から12年目にあたるA県で、医師9名、看護師 9名、CS5名、操縦士5名と整備士8名を対象として、2013年に調査した(Step2)結果、のべ115名のうち乗務の24時間以内の休息時間が6時間未満の医師が3名いるとともに、疲労あるいは疲労の兆候が27名で見られ、勤務日数が連続で9日以上の者が1名いた。この結果を受けた人員配置の見直し後の2017年に、医師11名、看護師5名、CS8名、操縦士11名と整備士12名を対象として調査した

(Step3)結果、のべ150名のうち休息時間が8時間未満の者が4名いたものの6時間未満の者はいなかった反面、連続勤務日数が9日以上の者が4名おり、疲労または疲労の兆候があると回答した者が42名いた。A県における2回の調査に基づきチェックリストを見直しし、A県の体制を導入してDHシステムの運航開始後3年目にあたるB県で、医師16名、看護師6名、CS 3名、操縦士3名と整備士3名を対象にした調査を2018年に行った(Step4)結果、のべ186名のうち休息時間が8時間未満の者が21名、そのうち6時間未満の者が11名おり、勤務日数が連続で9日以上の者も52名いたが、疲労感を感じている者は1名のみであった。これらの結果から本チェックリストによる安全性評価の可能性を検討した(Step5)結果、B県では一部の医師において指針の再確認あるいは従事不能と判定し、高リスク状態にあるにも関わらず乗務していた。

以上の結果より、本チェックリストを使用することで、搭乗員の健康や疲労状態をスコア化して評価することが可能であり、DHシステムの安全な運用のためには、統一的な基準での継続的な評価が必要である。

[総括]
我が国の救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療において、チェックリストを用いて DH 搭乗員の疲労状況等を客観的に把握した。DH システムの運用にあたっては、搭乗員が一定の割合で疲労状態にあるとともに、人員配置の見直しによっても改善されないことが明らかになった。また、DH システムの運航開始にあたっては、既存の体制を導入したにも関わらず、搭乗員が高い割合で従事が望ましくない疲労状態で従事している実態が明らかになり、搭乗員の安全状況の把握に基づくリスクマネジメントの重要性が明らかになった。

参考文献

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