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大学・研究所にある論文を検索できる 「木材および木質材料から放散する揮発性有機化合物の放散速度の経時変化に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

木材および木質材料から放散する揮発性有機化合物の放散速度の経時変化に関する研究

鈴木, 昌樹 スズキ, マサキ 東京農工大学

2021.12.13

概要

国内人工林材の需要拡大のために,公共建築物での木材利用が推進されている。公共建築物の新築や改修では,揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)気中濃度の測定が行われ,指針値を上回った場合は供用延期等につながる場合がある。一部の木質材料からは,接着剤由来のホルムアルデヒドが放散することが知られ,研究と対策が行われてきた。一方,室内におけるアセトアルデヒドは,木材製品一般からの放散の寄与が大きいとされているが,その詳細は必ずしも明らかではない。また,室内の空気の汚れの指標である,総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds)濃度の積算範囲には,針葉樹材から放散するテルペン類が含まれる。このことから,公共建築物における木材利用を推進するためには,木材や木質材料が放散するVOCの挙動を明らかにし,木材のVOC放散に対する懸念を払拭する必要がある。そこで本研究では,代表的な木質材料のアセトアルデヒド放散の挙動と,代表的な北海道産主要針葉樹のアセトアルデヒド,テルペン類3種およびTVOCの放散量とその経時変化を明らかにすることを目的とした。本研究では,小形チャンバー法を用いて,1)木質材料のアセトアルデヒド放散速度に経過時間,相対温度,相対湿度が与える影響,2)小形チャンバー法の測定結果を用いて,実大空間でのアセトアルデヒド気中濃度を推定する手法,3)北海道産針葉樹が放散するVOCの経時変化とその統計モデル化について研究を行った。

 市販の木質ボード6種と試作した合板のアセトアルデヒド放散速度を小形チャンバー法を用いて測定し,その経時変化,温度,相対湿度が放散速度に与える影響について検討した。その結果,木質材料のアセトアルデヒド放散速度は,無垢材の先行研究の値と大きな差異は認められなかった。また,すべての試験体の放散速度は最初の1週間で急速に減衰し,2週間後には10µg/m2h以下の値を示した。その後減衰は緩やかになり,当初から40-90%低下した。放散速度の経時変化は指数関数または2つの指数関数の和の数理モデルで説明できることを明らかにした。異なる温度条件下では,測定初期では温度が高いほど大きな放散速度を示したが,2週間経過後には,各条件でほぼ同じ値を示した。測定結果から放散初期の温度と放散速度の関係を表す半実験式を得た。異なる相対湿度条件下では,相対湿度が高いほど大きな放散速度が観察され,放散速度の減衰の速さは相対湿度の影響をさほど受けなかった。測定開始後14日目の値を用いて相対湿度と放散速度の関係を表す実験式を求めた。

 小形チャンバーと室内空間では,試料負荷率が大きく異なる。小形チャンバー法を用いて,代表的な木質材料の試料負荷率と放散速度の関係を求めた。測定した木質材料のアセトアルデヒド放散速度は,試料負荷率によらずほぼ一定であることを明らかにした。この結果は,実用的な範囲内では,アセトアルデヒド気中濃度が放散面積におおよそ比例することを示している。小形チャンバー法を用いて内装用木質材料のアセトアルデヒド放散速度の経時変化を求め,放散速度の経時変化モデルと室内の物質収支式を用いて,室内のアセトアルデヒド気中濃度の経時変化の予測を行った。小形チャンバーで測定した材料と同一種類の内装材料を実大実験室に設置し,室内のアセトアルデヒド濃度の経時変化を観察した。気中濃度の予測値と実測値を比較し,本手法は一定の精度で気中濃度を予測できると結論づけた。実大実験室のアセトアルデヒド気中濃度は,測定開始後急上昇し,一時的な高濃度を示したのち減衰した。このことから,現行の新築住宅を対象とした室内VOC気中濃度測定方法は,過渡的な高濃度を記録する可能性があることを指摘した。

 北海道の主要針葉樹であるトドマツ,カラマツ,アカエゾマツ材のアセトアルデヒド,α-ピネン,β-ピネン,リモネンおよびTVOCの放散速度の経時変化を小形チャンバー法を用いて観察した。これらの物質の放散速度は,測定開始後急速に減衰し,4週間後には当初から70-80%減少した。無垢材のVOC放散における個体差等によるばらつきを反映するため,経時変化の数理モデルを階層ベイズモデルと呼ばれる統計モデルへ拡張した。その結果,気中濃度や放散速度に対数正規分布を記述したモデルの構築が可能になった。また,モデルの階層化によって個体差を記述しつつも外れ値の影響を受けにくい頑健なモデル化を実現した。パラメータの算出には,マルコフ連鎖モンテカルロ(Markov chain Monte Carlo)法を用いた。階層ベイズモデルとMCMC法の組み合わせによる放散速度の予測分布は,観測データに対して良い当てはまりを示した。放散速度の予測分布をもとに計算した,実大空間の気中濃度の予測分布は,ピーク時の気中濃度は同一樹種内でも大きくばらつくが,時間の経過に従ってばらつきが小さくなることが示唆された。一方,トドマツ材を設置した室内における200時間後の予測気中濃度は他樹種と比べて明らかに小さく,樹種間の差は比較的長期に渡って室内濃度に影響を与える可能性が示唆された。