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書き出し

高温高圧下,C-H-O流体共存系におけるマグネサイトの分解に関する実験的研究

川村,英彰 東北大学

2023.09.25

概要

高温高圧下, C–H–O 流体共存系における
マグネサイトの分解に関する実験的研究
Experimental study on the decomposition of magnesite
in the presence of reduced C–H–O fluid
under high pressure and high temperature conditions

令和 5 年 9 月 (2023)
(博士論文)


村 英 彰

論文要約
本研究は,マルチアンビル高圧発生装置を用いた高温高圧実験によって,炭酸塩鉱物のマグ
ネサイトと還元的な組成の C-H-O 流体の 2 つの炭素源物質が沈み込み帯の地球深部環境下
において共存した際の挙動に関して実験的に検討を行ったものである.
地球規模での物質循環の仕組みを解き明かすことは,地球内部の構造や形成史を解明す
るための重要な要素の一つである.地球に存在する揮発性元素は,プレートテクトニクスや
スラブの沈み込み,マントルの対流,火山活動などによって地球表層から深部にかけての
様々な貯蔵庫間を循環しており,地球表面と内部の物質交換を可能にしている(Bekaert et
al., 2021).沈み込み帯はこの全地球規模での物質の大循環において,地球表層の物質を深
部へ輸送する際に重要な役割を担う領域である(e.g., Stern, 2002; Zheng and Chen, 2016;
Bekaert et al., 2021). 特に炭素は,大気海洋中の CO2 や生体有機物の他に,石灰質岩や化
石燃料など多様な形態をなし,表層のみならず地球の深部に至るまで大規模に循環してお
り,地球科学的に極めて重要である.この地球表層と深部をつなぐ炭素の大規模循環は
Deep Carbon Cycle と呼ばれる(Dasgupta and Hirschmann, 2010)

沈み込み帯に沿った物質輸送によって起こる,地表と深部を結ぶ炭素の大循環である深
部炭素循環は,地球内部の構造と形成史を理解する上で不可欠な要素の一つである.炭酸塩
鉱物と,C-H-O 流体はこの循環において,地球深部環境下でダイヤモンドを形成する重要
な炭素源物質であると考えられてきた.地球深部におけるこれらの炭素源物質の単体での
挙動が様々な研究で検討されてきた一方で,C-H-O 系での地球深部構成物質の挙動を実験
的に検討した例は極めて少なく,C-H-O 系の揮発性成分が地球深部でどのような役割を果
たしているかは十分に理解されていない.本論文では,沈み込み帯沿いに沈み込む炭酸塩鉱
物のマグネサイトが地球深部における還元的な組成の C-H-O 流体と共存した際の高圧安定
性の変化に関して,高温高圧実験による実験的検討を行い,沈み込む炭酸塩鉱物が地球深部
環境下でどのような運命を辿るのかを調査した.
1

1 章では,地球深部への炭素の運搬を担い,地球深部におけるダイヤモンド形成にも密接
に関与する考えられている炭酸塩鉱物と C-H-O 流体を中心に先行研究の紹介を行った.こ
の 2 つの炭素源物質は,地球深部における重要な炭素源物質であり,沈み込み帯で両者が
共存する可能性があるにも関わらず,それぞれ単体での高圧挙動のみに焦点が当てられて
きた.
炭酸塩と C-H-O 流体が共存するような,より現実的な系での検討例は非常に少なく,
C-H-O 流体が地球深部環境に与える影響の理解は十分ではないという問題を提起した.
続く 2 章では,マルチアンビル高圧装置を用いた高温高圧実験により,還元的な C-H-O
流体共存系におけるマグネサイトの高圧安定性を実験的に検討した.高温高圧実験の出発
物質には天然マグネサイト(MgCO3)の粉末とステアリン酸(C18H36O2,C-H-O 流体源)
を使用した.ステアリン酸は高圧下で熱分解することで,以下の式ように CH4 と H2O を
4:1の比率で生成することが報告されている(Yamaoka et al., 2002)
.本研究では,この
流体を地球深部環境における還元的な流体として採用した.

𝐂𝟏𝟖 𝐇𝟑𝟔 𝐎𝟐 → 𝟏𝟎𝐂 + 𝟖𝐂𝐇𝟒 + 𝟐𝐇𝟐 𝐎

実験後の回収試料は,SEM・TEM を用いた微細組織観察に加えて,微小部 X 線回折,ラ
マン分光などを用いた生成鉱物相の同定を行った.その結果,CH4 に富む還元的な C-H-O
流体と共存したマグネサイトは,上部マントルの底部からマントル遷移層に相当する幅広
い圧力条件下(10~17 GPa)において 800℃という極めて低い温度で分解することを明らか
にした.この温度は無水系におけるマグネサイトの分解温度(Solopova et al., 2015)と比較
すると 1000℃以上低温てあり,上部マントル~遷移層にかけての沈み込む冷たいスラブの
表面の温度プロファイル(Shirey et al., 2021)と同程度もしくはより低い温度である.した
がって,沈み込み帯沿いに地球深部環境下へ沈み込んだマグネサイトは CH4 に富むような
還元的な組成の流体と共存した場合,上部マントル~遷移層の幅広い領域において容易に
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分解し,下部マントル領域などのより深い領域まで沈み込まないと推測される.同時により
深部への炭素の輸送は,マグネサイトの分解により生成したダイヤモンドが担う可能性が
示された.加えて,マグネサイトの分解を通して上部マントル相当の圧力(10 GPa)にお
いてペリクレースが生成した点も重要である.これはダイヤモンド中のフェロペリクレー
ス包有物が必ずしも下部マントルに起源を持たないとする先行研究(e.g., Anzolini et al.,
2019; Bulatov et al.,2019; Thomson et al., 2016; Brey et al., 2004)と調和的な結果である.
ダイヤモンド中に包有される鉱物は必ずしも周辺環境で想定される平衡相関係を反映して
いるとは限らず,還元的な流体が関与したダイヤモンド形成場の特異な環境を保存したも
のである可能性を示唆している.
3 章では,2 章において偶然見出したステアリン酸(高圧実験の C-H-O 流体源物質)か
らナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)が合成される温度圧力条件と,その生成メカニズムの
検討を行った.実験の結果,13~17 GPa の圧力範囲で 800℃という非常に低い温度におい
てステアリン酸の分解から NPD が合成されることが明らかになった.この結果は,本研究
で取り扱う沈み込み帯沿いの炭酸塩-C-H-O 流体相互作用の議論には直接関連しないサブ
ワーク的な内容であるが,4 章におけるステアリン酸から生成した C-H-O 流体(CH4)の
炭素同位体組成を見積もる試みにおいて重要な役割を果たした.
4 章では 5 章における炭素同位体をトレーサーに用いる高圧実験の前段階として, C-HO 流体の炭素同位体組成を調べるために,高圧下におけるステアリン酸の熱分解に伴う固
体炭素-CH4 間の炭素同位体分別を同位体比質量分析計(IRMS)を用いて調査した.マルチ
アンビル装置を用いた高圧実験の極めて小さい試料体積から揮発性成分を適切に分離回収
し,流体成分の炭素同位体組成を直接分析することが困難であったため,3 章の結果に基づ
き,ステアリン酸と,ステアリン酸分解時に流体と同時に生成する固体炭素の同位体組成か
ら間接的に流体側の同位体組成を推測する手法を新たに導き出した.実験の結果,ステアリ
ン酸分解時に分別はほとんど生じず,CH4 の炭素同位体組成は出発物質であるステアリン
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酸の値を概ね引き継ぐことが明らかになった.この結果は,2 つの炭素源間の炭素同位体組
成の差が十分に大きければ,炭素同位体は還元された C-H-O 流体(有機炭素源と仮定した
場合,δ13C≈-30 ‰)と炭酸塩(地殻の無機炭素と仮定した場合,δ13C≈0 ‰)が共存する
高温高圧条件下で,ダイヤモンドを生成する反応過程を理解するための有用な指標(トレー
サー)となり得ることを示すものである.
5 章では 4 章での結果に基づき,マグネサイトと C-H-O 流体の相互作用により形成され
るダイヤモンドがどちらの炭素源の寄与をより強く受けるかを調査するために,炭素同位
体をトレーサーに用いた高温高圧実験から回収した試料の NanoSIMS 分析を実施した.13C
に富むマグネサイトと 12C に富む C-H-O 流体の相互作用を通して反応縁内に形成される炭
素は,2 つの炭素源物質の混合を示唆する傾向を有しており,天然ダイヤモンドの記載結果
で確認されるような同位体的に軽い(12C に富む)方向への幅広い炭素同位体組成の分布
(e.g., Cartigny, 2005)を説明する 1 つの手がかりになり得ることが示された.分析手法や
補正方法に改善の余地はあるものの,反応縁内に形成されたダイヤモンドの δ13C は,実験
温度低下に伴い減少(12C に富む)傾向が確認され,遷移層などの超深部域で形成されたダ
イヤモンドが 12C に富む記載結果(e.g., Thomson et al., 2014; Zedgenizov et al., 2014)を説
明できる可能性がある.
6 章では,先行研究結果から提起された問題を解決するために,2~5 章の実験結果に基づ
き議論を行った.本研究で確認された還元的 C-H-O 流体共存下におけるマグネサイトの分
解は,微細組織観察と元素分析結果から CH4 を消費する以下のような化学反応であること
が示唆された.

𝐌𝐠𝐂𝐎𝟑 + 𝐂𝐇𝟒 → 𝐌𝐠(𝐎𝐇)𝟐 + 𝐇𝟐 𝐎 + 𝟐𝐂

また,マグネサイトの分解生成相は,800℃ではペリクレース,1000℃以上ではブルーサ
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イトであった.このブルーサイトは,ペリクレースとブルーサイトの熱力学的境界(Johnson
and Walker, 1993)を考慮すると準安定相であり,長い時間スケールでは以下の反応によっ
て脱水してペリクレースに変化することが予想される.これは,天然ダイヤモンドに包有さ
れるブルーサイトが極めて稀である記載結果を説明するものである.

𝐌𝐠(𝐎𝐇)𝟐 → 𝐌𝐠𝐎 + 𝐇𝟐 𝐎

地表から沈み込む炭酸塩は Ca 炭酸塩が支配的であるが,深部への運搬過程で Mg 炭酸塩
のマグネサイトが支配的になると推測される(e.g., Thomson et al., 2016)
.冷たい沈み込み
スラブ中に含まれるマグネサイトは無水条件では遷移層以深まで運搬される可能性を有す
る(e.g., Thomson et al., 2016)
.沈み込むスラブに含まれる含水相の分解や,相変化に伴い
流体の水が生じるが(e.g., Komabayashi et al., 2005; Okamoto and Maruyama, 1999; Ono,
1998)
,単純な H2O 共存系では,マグネサイトの分解は容易には起こらないと推測される
(Martirosyan et al., 2019b)
.含水鉱物の脱水によって生成した流体は,地球深部における
還元的な環境下では CH4 を含むような組成の C-H-O 流体に変化すると推測される(Frost
and McCammon, 2008; Zhang and Duan, 2009)
.この C-H-O 流体と炭酸塩鉱物が共存した
際に,CH4 と反応することで炭酸塩は上部マントル相当の深度でも容易に分解することが
本研究の結果から明らかになった.また,炭酸塩と C-H-O 流体がそれぞれ 13 C と 12C に富
むケースを想定した際に,2 つの炭素源物質から生じた炭素が同化することでマントル固有
炭素(δ13C≈-5‰)から同位体的に軽い方向へ幅広い炭素同位体組成のダイヤモンドが生成
することが示された.重要な点は,従来考えられていたようなマントルの炭素(約-5‰)と
沈み込んだ地殻起源の有機炭素(約-25‰)の混合プロセス(e.g., Burnham et al., 2015)で
はなく,マントル炭素を介さないプロセスでも多様な δ13C のダイヤモンドが形成され得る
ことである.加えて,形成されるダイヤモンドのδ13C は,マグネサイトと CH4 が出会った
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地点の沈み込み帯の温度に影響を受ける可能性がある.この結果は,天然の E-type ダイヤ
モンドの幅広い炭素同位体組成分布(e.g., Cartigny et al., 2005, 2010)を新たな切り口から
説明することができるかもしれない.
本研究の一連の結果は,未だ十分に理解されていない C-H-O 流体共存系における炭酸塩
鉱物の挙動に関する新たな知見を提供する極めて重要な結果である.加えて今回,高圧実験
回収試料のイオン研磨断面における NanoSIMS を用いた微小領域炭素同位体分析に初めて
成功した.これは,高温高圧実験の非常に小さな回収試料中の同位体分析の新規手法である
のみならず,通常の機械研磨が困難な試料の NanoSIMS 分析に対しても応用できる可能性
を有している.今後,一連の手法の最適化によって微小領域同位体分析の新たな可能性を見
出すことが期待される.

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