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大学・研究所にある論文を検索できる 「ムラサキセンダイハギの開花調節に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ムラサキセンダイハギの開花調節に関する研究

柴田 武彦 東京農業大学

2022.09.01

概要

ムラサキセンダイハギ(Baptisia australis(L.)R. Br.)は北アメリカ原産のマメ科宿根草である。小花は青紫色の蝶形花冠で総状花序を形成し,神奈川県で露地栽培すると通常5月上中旬に開花する。初夏に咲く花としては非常に魅力的な花色をもつ。本植物は,冬の低温を受けることで地上部が一旦枯死するが,翌春の温度上昇とともにシュートが伸長し開花するサイクルを繰り返す。シュートはそれぞれ1度しか開花しない特性のため,切り花としての収量が限られ,採花期間が短い。またこれまで開花習性に関する学術的研究はなかった。
 本研究では,まず第1章においてムラサキセンダイハギの花芽形成過程を詳細に観察した。さらに通常の地植え露地栽培における花穂長,小花数を測定し,ホームユースを前提とした切り花としての採花基準を定めた。次に第2章では本植物の採花期拡大を探るため,開花誘導に必要な低温要求量を明らかにし,開花期を早める促成栽培のための低温処理条件を検討した。次いで第3章では低温貯蔵による抑制栽培を試み,開花期を遅らせる貯蔵条件を探った。さらに第4章において,切り花品質の向上を目指して,発光ダイオード(LED)光源による補光栽培の可能性を検討した。

第1章 ムラサキセンダイハギの花芽形成過程と切り花としての採花基準
 ムラサキセンダイハギの採花期間の拡大に向けた基礎データを得るために,花芽形成過程を調査した。北海道札幌市の苗生産者から入手したムラサキセンダイハギの実生4年生株を,直径18cmのプラスチックポットに定植,供試した。2016年10月に8℃のプレハブ冷蔵庫に12週間入れ低温処理した後,最低15℃を維持したガラス温室へ移動し栽培した。低温処理中は0,4,8,12週の4回,加温中は1週間ごとに7回,1回4株ずつを掘りあげ,頂芽の状態を実体顕微鏡にて観察した。花芽形成過程を観察したところ,Ⅰ:分化初期,Ⅱ:花房分化期,Ⅲ:がく形成期,Ⅳ:花弁・雄ずい・雌ずい原基形成期,Ⅴ:葯形成期,Ⅵ:小花完成期に分けられ,この過程は他のマメ科植物と類似していた。また8℃低温処理開始から4週で小花の分化が確認でき,低温遭遇後早い段階で花芽となるシュートが決定していることが明らかとなった。
 次に家庭用切り花としての採花基準を定めるために,地植え露地栽培した場合の花穂長と小花数を観察した。同じ苗生産者から入手した実生2,3年生株20株を2015年11月に東京農業大学厚木キャンパス内で露地植えした。翌年5月に開花がみられたが開花シュートは少なかったため,露地栽培を継続した。翌々年5月に239本の切り花が得られたので,花穂長と小花数を測定した。その結果,花穂長30.4cm,小花数21.7個が平均であった。小花のほとんどが開花に至ることを考慮して,ムラサキセンダイハギでは花穂長30~40cm,開花小花数20個以上を採花基準とした。

第2章 ムラサキセンダイハギの低温処理による促成栽培
 採花期間の前進化を目指して,低温の処理期間と温度を変えて開花反応を観察した。同じ苗生産者から入手した実生3年生株を定植して供試した。2015年10月に8℃のプレハブ冷蔵庫に入れ,低温処理期間を0,8,12,16週と変え,その後最低15℃を維持したガラス温室に移動して栽培した。対照区として,戸外の自然低温に置く区を設けた。その結果,低温無処理では発蕾はしたものの開花には至らなかった。一方,12週間の低温処理を行った場合,自然低温区と比べて開花が50日以上早まり,3月中旬まで前進した。この時の花穂長,開花小花数はそれぞれ24.0cm,18.5個であった。
 次に低温処理温度を変えて開花反応を観察した。同じ苗生産者から入手した実生4年生株を定植して供試した。2016年10月に1,5,8,15℃の定温庫に入れ12週間置いた。その後最低15℃を維持したガラス温室に移動して栽培した。その結果,15℃処理区は発蕾したがすべて開花に至らずアボートした。一方,8℃以下の処理区ではすべて開花が3月中旬と早まり,花穂長,開花小花数の平均値は10.5cm,6.9個であった。
 以上のような促成栽培法は低温貯蔵庫を利用したもので,生産現場での利用は限られる。より汎用性が高い方法として,自然低温を利用した方法を試みた。同じ苗生産者から入手した実生4年生株を定植して供試した。2016年11月に東京農業大学厚木キャンパス内の戸外に搬出し,8,12週自然低温に遭遇させてから最低15℃を維持したガラス温室に移動する区と,そのまま戸外に置く区を設けた。その結果,自然低温遭遇12週区で開花が30日程度早まった。このように自然低温を利用した方法でも露地栽培と比べて約1か月早い4月上旬の開花が可能であった。この時の花穂長,開花小花数はそれぞれ16.1cm,8.9個であった。
 以上より,ムラサキセンダイハギの低温遭遇による開花は,低温貯蔵庫利用の場合は8℃12週間,自然低温利用の場合は戸外に12週間置いてから,それぞれ最低15℃を維持したガラス温室で栽培することで,それぞれ3月中旬,4月上旬まで開花を早めることができた。

第3章 ムラサキセンダイハギの長期低温貯蔵による抑制栽培
 次に長期低温貯蔵による抑制栽培の可能性を調査した。8℃貯蔵した場合4月上旬には貯蔵庫内でシュートの伸長開始がみられたので,8℃よりも低い温度での貯蔵による開花の遅延を目指した。同じ苗生産者から入手した実生4,5年生株を2019年3月に1,3℃のインキュベータに入れ,同年5月と6月に搬出し,定植後戸外で栽培した。その結果,開花日は貯蔵温度によらず,5月搬出で6月上旬,6月搬出で7月上旬となった。なお,1℃貯蔵では6月搬出時までシュートの伸長はみられなかった。一方,3℃貯蔵では5月搬出時に2.0cm以上の伸長がみられたため,抑制栽培時の貯蔵推奨温度を1℃とした。この時の花穂長,開花小花数はそれぞれ9.8cm,6.2個であった。このように苗を1℃で貯蔵することで7月上旬まで継続的に開花可能であることがわかった。

第4章 ムラサキセンダイハギの切り花品質の向上に向けた発光ダイオード(LED)補光
 第2,3章の促成・抑制栽培は鉢植えで行ったが,地植え露地栽培と比べると花穂長が短く開花小花数も少なかった。切り花の品質改善法の一つにLED補光技術の導入がある。そこで,LED単色光補光によるムラサキセンダイハギの切り花品質の改善を目指した。同じ苗生産者から入手した実生4,5年生株を定植して供試した。定植後すぐの2019年3月に最低15℃を維持したガラス温室に移動して栽培した。初年度は生長・開花が不揃いであったため,ガラス温室内で栽培を継続し,10月に戸外に移動し低温遭遇させた。翌年4月26日にガラス温室に戻すと同時にLED照射を開始した。LED照射区は,青LED(ピーク波長470nm)区,緑LED(同530nm)区,赤LED(同630nm)区の3区と,対照区として無補光の計4区とした。補光時間は,6:00~18:00の12時間とし,鉢用土表面で80µmol・m-2・s-1PPFDに調整した。その結果,補光しなかった対照区の花穂長,開花小花数が25.4cm,11.9個であったのに対し,赤LEDの補光により40.0cm,17.4個まで改善され,目安とした切り花の採花基準に近づくことができた。

 以上のように本研究は,ムラサキセンダイハギの採花期間の延長を目指して,低温処理と加温ガラス温室による促成栽培,さらに長期低温貯蔵による抑制栽培の条件を明らかにした。その結果,5月上中旬に限られていた開花期間を3月中旬から7月上旬までの約4か月間に延長することができた。また,赤LED補光を組み合わせることで,花穂長30~40cm,開花小花数20個程度の採花基準に近づくことができた。これらの研究成果は,すぐれた切り花品質をもつムラサキセンダイハギの長期安定供給に貢献するものである。

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