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大学・研究所にある論文を検索できる 「暑熱環境下の温室におけるトマト果実の安定生産を目的とした低段摘心密植栽培要素技術の開発とその社会実装に向けた検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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暑熱環境下の温室におけるトマト果実の安定生産を目的とした低段摘心密植栽培要素技術の開発とその社会実装に向けた検討

山浦, 寛子 筑波大学

2023.09.04

概要

暑熱環境下の温室におけるトマト果実の安定生産を
目的とした低段摘心密植栽培要素技術の開発と
その社会実装に向けた検討

2023 年
山浦

1月
寛子

暑熱環境下の温室におけるトマト果実の安定生産を
目的とした低段摘心密植栽培要素技術の開発と
その社会実装に向けた検討

筑波大学大学院
理工情報生命学術院
生命地球科学研究群
農学学位プログラム
博士(農学)学位論文
山浦寛子

要約

アジアモンスーン地域におけるトマトの消費量は増加傾向だが生産量は低く,国内需
要を満たすためにトマトの生産性向上が求められている.そのため露地栽培が主である
南・東南アジア諸国において,インドネシアをはじめ複合型環境制御装置を導入した施
設園芸が普及しつつある.
本研究では,アジアモンスーン地域のような暑熱環境下において安定的なトマト生産
を実現するために低段摘心密植栽培(低段栽培)が有効であると考え,これを実践する
ための技術体系の確立を目指した.低段栽培とは,トマト苗を 5~10 株 m-2 で密植し,
第 1~4 花房上の本葉 1~2 枚を残して摘心する短期栽培を,年数回繰り返すことで年
間収量を得る栽培方法である.栽培管理の習熟が早く,病虫害による収量低下のリスク
や農薬利用量を低減できるメリットを持つ.また軒高の低い温室を利用できるため,高
所作業のための設備導入を要せず,温室建設に伴う初期投資や自然災害による損害程度
を抑えることができる.この低段栽培で周年安定生産を実現するためには事前の栽培計
画の立案と確実な遂行が肝要となる.例えば高温により正常な生育が妨げられ栽培期間
が延長した場合,年間の栽培計画にずれが生じ,年間収量の減少につながる.特に高温
下では本来着生する位置に花房が分化しない「花飛び」という現象が発生しやすい.こ
れを生じさせないようにトマト苗の発育を制御することは重要な課題である.同様に,
低段栽培の温度応答特性を把握することも暑熱環境下での生産性向上を検討する上で
重要である.また確実な収量と品質向上のためには,本圃における栽培環境の改善も重
要である.特に高温下では環境制御に限界があるために不良果が多発しやすい.以上の
ことから本研究では,暑熱環境下における栽培計画の確実な遂行と生産性向上を可能に
する低段栽培の要素術を検討し,栽培体系を確立するため,以下の研究を行った.
はじめに「播種後 28 日で第 2 花房の花芽が分化した草丈約 30 ㎝の苗」を得るため
の育苗の環境条件を明らかにし,育苗方法を確立した.暗期温度を明期温度より高める
負 DIF 法と高光強度を組み合わせることで,草丈の伸長を抑えながら,花芽分化を促
進できることを明らかにした.これを本圃に直接定植することにより,「花飛び」のリ
スクがなくなるためトマト果実の安定生産に寄与できると考えられた.
次に人工気象室を用いて,日平均気温 20, 25, 30°C のそれぞれの温度条件で4段摘心
栽培を行い,温度に対する低段栽培トマトの生理生態的応答について比較した.その結

果,総収量には温度による影響は見られなかった.また 30°C 区で相対成長速度(relative
growth rate; RGR)が最も高まった.30°C 区では生長点を切除しても個葉の光合成速
度が低下せず,同化産物を個体生長や果実成長に有効に利用していることが示唆された.
以上のことから,低段栽培は日平均気温 30°C という高温でも総収量に影響せず,一方
で栽培期間は短縮され年間の圃場回転数は増加することから,低段栽培は高温環境下に
おいてこそ有利な栽培方法であると考えられた.
さらに.光合成有効放射(photosynthetically active radiation; PAR, 400-700 nm)を
透過しながらも熱源となる近赤外域(near-infrared; NIR, 700-1500 nm)の大部分を反
射する NIR 反射フィルムを温室用被覆資材として用いたときに,NIR 反射フィルムが
低段栽培トマトの収量,果実品質ならびに物質生産に及ぼす影響を調査し,農ポリオレ
フィンフィルムを展張した場合と比較した.その結果,NIR 反射フィルムにより裂果率
が有意に低下した.栽培時の果実温度が有意に低く,また個葉の光合成能力や物質生産
量および果実乾物率も有意に低かったことから,NIR 反射フィルムにより急激な果実
肥大が抑制されたため,裂果率が低下したと考えられた.この結果をモデル化し,NIR
反射フィルムの利用が推奨される屋外環境条件を推定したところ,栽培期間における屋
内日平均気温を 30°C と仮定した場合,屋外全天日射量の日平均値が 14.6 MJ m-2 以上
の地域が NIR 反射フィルムの利用に適していることが示された.
最後に,本研究で検討した各要素技術を段階的に取り入れてアジアモンスーン地域で
低段栽培を実施した場合に,年間のトマト総収量や可販果収量がどの程度向上するのか
を試算した.顕著な発展を示す南・東南アジアの主要都市 4 か所に適用した場合につい
て検討した結果,本育苗技術を取り入れることにより年間総収量が最大で約 13%向上
することが示された.また,これらに加えて NIR 反射フィルムも適用することで可販
果収量を少なくとも約 32%増加させることが可能であることが示された.したがって,
本研究で検討した各要素技術を組み合わせることで,本技術が目標としたアジアモンス
ーンに属する各地域の高温環境下でトマト低段栽培を実践した際に,総収量や可販果収
量の増加に寄与できることが示唆された.
以上のことから本博論で検討した要素技術を統合した低段栽培を導入することによ
り,アジアモンスーン地域のような暑熱環境下においても,事前の計画に即した栽培を
実施することができ,年間の圃場回転数を増加させ,裂果率の発生が抑えられることで

可販果収量が向上することが示唆されたため,現地におけるトマトの生産性向上に寄与
できると考えられた.
今後はこれら技術をトマトの生産性向上が望まれるアジアモンスーン地域に導入し,
当該地域における農業生産者の収益の向上に役立てるために,継続して農業生産者への
支援を行うことのできる体制の整備とスマート農業技術の実装による持続可能な開発
目標(Sustainable Development Goals; SDGs)実現への貢献につなげてゆく必要がある.

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