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大学・研究所にある論文を検索できる 「Synthesis and structure-property relationship of regioselectively substituted curdlan hetero esters」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Synthesis and structure-property relationship of regioselectively substituted curdlan hetero esters

錢, 致瑩 東京大学 DOI:10.15083/0002002298

2021.10.13

概要

現在、石油由来プラスチックの使用によって生じる環境汚染の問題を解決するために、再生可能な天然資源を原料としたバイオプラスチック研究開発が精力的になされている。特に天然高分子である多糖類は最も期待されているバイオマスである。カードランは、Dグルコースがβ-1,3結合してなる直鎖状多糖類であり、高い分子量をもつことから材料としての利用が期待できる。

これまでの研究で、カードランの3つの水酸基を単一の直鎖状飽和カルボン酸でエステル化することにより得られる誘導体は、熱可塑性を発現し、熱的性質と機械的性も優れたプラスチックとなり得ることが明らかになっている。また、そのガラス転移点や融点、結晶構造などの特性は導入したエステル基の鎖長に大きく影響する。カードラン誘導体の材料特性をさらに制御するためには、構造と物性との関連性を明らかにすることが重要である。

本論文では、カードランの糖単位中に2,4,6位に存在する3つの水酸基に2種類のエステル基を位置選択的に導入することにより、高い規則性の分子構造を有する「位置選択的に置換基を有するカードランヘテロエステル」を合成し、さらにその物性評価を行うことで、カードランヘテロエステルの置換位置と物性との関係を解明することを目的とした。

第1章の緒言に続き、第2章では、トリチル保護基を用い、カードランの6位の水酸基を選択的に保護し、2位と4位の水酸基をアセチル化することでCD24Ac6Trの合成に成功した。ここで、臭化水素によりトリチル基を脱保護する際に、多糖エステルでは珍しいアシル転移を見出した。6位の脱トリチル化と共に、4位のアセチル基が6位に転移し、生成物はCD26Acであることを確認した。このアシル転移の転移率はアセチル基で100%起こり、エステル基の鎖長の増加により転移率は減少した。このことから2種類のアシル転移メカニズムを提案した。得られたCD26Acの4位のプロピオニル化により、CD26Ac4Prの合成に成功した。

第3章では、カードランの6位の位置選択的置換を行うため、4位から6位のアシル転移を起こさないCD24Ac6Trの脱トリチル化法を開発した。塩酸を酸試薬、メタノールを溶媒として6位トリチル基を脱保護した場合、トリチル基の約50%を、アシル転移を生じることなく脱離できることが分かった。脱保護によって生じた6位水酸基をプロピオニル化したのち、さらに残ったトリチル基を脱保護し、この反応を6回繰り返すことにより、トリチル基が完全に脱離され、CD24Ac6Prを得ることに成功した。さらに、CD24Pr6Trから、トリチル基の脱保護と生じた水酸基のアセチル化反応を9回繰り返すことにより、CD6Ac24Prの合成にも成功した。

第4章では、ベンジルアルデヒドをカードランの4位と6位水酸基の保護基として用いたカードランの2位選択的置換法を開発した。ベンジル基の置換度は反応温度の増加と共に上昇し、60°Cで目標置換度の1に到達し、4,6位にアセタール構造を形成することがわかった。アセチル化生成物のベンジリデン基は塩酸で脱離させ、生じた水酸基をプロピオニル化することにより目標生成物のCD2Ac46Prを得ることに成功した。同様の方法でCD46A2Prの合成にも成功した。

第5章では、得られた5種類の位置選択的に置換基を有するカードランヘテロエステルを用い、カードランの物性と置換位置の相関を解析した。カードランヘテロエステルのガラス転移点は、置換位置に関わらず、置換基の比率に依存した中間の値を示した。一方、融点と結晶構造は、エステル基置換度によらず、カードランヘテロエステルの2位と同じ置換基を有するカードラントリエステルと同じ値を有することを見出した。つまり、2位に導入されたエステル基が、カードランヘテロエステルの融点と結晶構造を支配するということを初めて明らかにした。

第六章では、カードランヘテロエステルの分子結晶構造と分子構造の関連をさらに詳しく調べるため、得られた位置選択的置換基を有するカードランヘテロエステルからエレクトロスピニング法により配向繊維を作成し、X線回折により結晶構造を分析した。その結果、ここでも、カードランヘテロエステルは、2位に置換されたエステル基と同じエステル基を有するトリエステルと同じ結晶構造を有することがわかり、2位のエステル基の構造が分子鎖構造および結晶構造に重要な影響を及ぼしていることを明らかにした。

本論文では、カードランエステルの置換位置と物性の関連を解明することを目的とし、2種類の保護基を用い、計5種類の位置選択的に置換基を有するカードランヘテロエステルを合成した。さらに、それらの物性評価により、カードランエステルの熱物性と結晶構造は2位に置換するエステル基により決定されていることを明らかにした。これらの研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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