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書き出し

神経細胞ネットワークの時空間情報処理特性に関する構成論的研究

住, 拓磨 東北大学

2023.09.25

概要

氏名(本籍地)
学 位 の 種 類

すみ

たくま

住 拓磨 (宮城県)
博 士(医工学)

学 位 記 番 号

医工博 第121号

学位授与年月日

令和5年9月25日

学位授与の要件

学位規則第4条第1項該当

研究科,専攻

東北大学大学院医工学研究科(博士課程)医工学専攻

学位論文題目

神経細胞ネットワークの時空間情報処理特性に関する構成論的研究

論文審査委員

(主査)東北大学教 授 平野 愛弓
東北大学教 授 吉信 達夫

東北大学教 授 新妻 邦泰

東北大学教 授 佐藤 茂雄

東北大学准教授 山本 英明

論 文 内 容 の 要 約
第1章 序論
脳は多数の神経細胞が構成する複雑ネットワークであり,このネットワークを通じて脳は複雑な情
報を処理する.近年の研究では,実世界に存在する時空間情報は,神経細胞集団の時空間ダイナミク
スによって表現されることが示されている.そのため,神経細胞ネットワークの時空間ダイナミクス
による時空間情報処理特性を解析することは,脳機能の神経基盤の解明につながる.これまで,モデ
ル動物の脳神経系の神経活動と行動の関係を分析することで,その情報処理特性について研究が進め
られてきた.しかし,このような分析的研究では,神経細胞ネットワークが機能を有する必要条件は
調べることができるが,その機能の十分条件までは分からない.神経細胞ネットワークの情報処理基
盤を必要条件,十分条件ともに理解するためには,神経細胞ネットワークを人工的に再構成し,その
時空間情報処理特性を調べる構成論的研究が求められる.
神経回路機能の構成論的研究のために,培養神経細胞を用いて神経細胞ネットワークを構築し,そ
の機能が調べられてきた.生体外での神経細胞培養は,物理的・化学的な環境を制御しやすく,解析
が容易でありながら,生体内での性質を多く維持するという利点を持つ.これにより,シナプス情報
伝達の詳細な調整メカニズムや,神経細胞ネットワークの配線構造とそこに現れる時空間ダイナミク
スが研究されてきた.しかし,神経細胞ネットワークの時空間ダイナミクスを用いて,どのような情
報処理が達成されるかを調べるためには,さらなるフレームワークが求められていた.
近年,機械学習の分野において,時空間ダイナミクスと情報処理を結び付けるフレームワークとし
て,リザバーコンピューティングが提唱された.リザバーコンピューティングは,入力層と,リカレ
ントな結合を持つリザバー層,そして簡単な線形デコーダからなる出力層で一般的に構成される.こ
のフレームワークは,音声信号認識や言語処理に使用されてきた機械学習のリカレントニューラルネ
ットワークの学習の効率化と計算量の低減をすることを目的に,一部のモデルパラメータ(特に,出
力層の重み)のみを学習するという考えに基づき誕生した.リザバーコンピューティングで使用され
る出力層は非常に簡便なものであるため,リザバー層に用いるダイナミクスの非線形性や,短期記憶

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などの時空間情報処理特性に焦点を当てることが可能となる.したがって,リザバー層に培養神経細
胞ネットワークを用いることでその時空間ダイナミクスを,機械学習的タスクを通して情報処理に結
び付けられる可能性がある.
そこで,本研究では培養神経細胞ネットワークを用いたリザバーコンピューティングの枠組みを構
築し,神経細胞ネットワークの時空間情報処理特性を構成論的に明らかにすることを目標とし研究し
た.この研究は生命科学分野において神経細胞ネットワークの作動原理の理解につながるとともに,
情報科学分野においても,
神経細胞ネットワークの数理モデルである人工ニューラルネットワークや,
脳型計算機などの次世代情報技術の発展につながることが期待される.

第2章 超軟シリコーン樹脂を用いた神経細胞の生体模倣培養
神経細胞ネットワークの機能解析では,培養神経細胞による生体機能モデリングが不可欠である.
しかし,分散培養された皮質や海馬ニューロンは,同期したバースト発火という非生理的な活動を
発生させる.この活動は,動物の皮質や海馬での時空間的に複雑な活動と異なり,神経活動の複雑
性は,神経細胞ネットワークの計算能力の基盤となる.そのため,時空間情報処理特性を研究する
には,同期性を抑制した培養神経回路の構築が必要である.生体内と培養系の神経細胞ネットワー
クの活動の違いを減少させるためには,生体に近い培養環境の構築が効果的である.最近の研究で,
神経細胞の足場材料の機械的特性が重要であることが分かってきた.脳の弾性率は 0.5~1 kPa であ
るのに対し,通常のガラス足場は 90 GPa と大きく異なる.そこで,脳の弾性率に近い足場材料上
での神経細胞の培養手法を確立し,シナプスの強度や活動パターンに及ぼす影響を調べた.
その結果,超軟シリコーン基板が 興奮性シナプス後電流の振幅をガラス基板に対し 3 割減少さ
せ,自発的な神経活動の振幅と頻度を有意に減少させる効果が得られた.さらに,弾性率 E = 13.5
kPa の足場上では,神経細胞ネットワーク活動の相関に有意な違いは観察されなかったものの,E
= 0.5 kPa の足場上で成長した神経細胞ネットワークでは,有意に低かった.このように,生体模
倣弾性率を持つ基板が自発的なネットワーク活動の過度な同期性を効果的に抑制することは本研
究で初めて明らかとなった.これらの弾性率依存的なシナプス伝達と神経細胞ネットワーク活動の
変化の背後には,機械受容チャネルの活性の違いが示唆された.培養神経回路において同期したバ
ーストを完全に抑制するためには,さらなる研究が必要である.これは,次章で用いる細胞パター
ニング技術を統合すること,または脳領域間の機能的な相互作用に代わる外部ノイズを加えること
で実現できることが期待される.
第3章 モジュール型培養神経回路の時空間情報処理特性の解析
神経細胞ネットワークの時空間情報処理特性を解析するべく,培養神経細胞ネットワークをリザバ
ー層に用いた培養神経リザバーを構築した.生体環境を模倣した培養系として,生物が進化的に保存
しているモジュール構造を持つ神経細胞ネットワークを細胞パターニングにより作成し,光遺伝学技
術により入力を与え,その応答を測定した.培養神経細胞リザバーに空間的な信号や,時間的な信号
を分類する情報処理タスクを与えることで,その際の時空間ダイナミクスや機能的ネットワーク構造
と情報処理性能の関係について解析した.
実験結果から,約 100 細胞で構成した培養神経リザバーは,2 種類の音声信号を平均 82.5%の正答
率で分類できることが示された.また,その分類の正答率は機能的なモジュラリティ Q と正の相関を
示すことや,リザバー層の培養神経細胞ネットワークが 4.2 秒程度の短期記憶を有することが明らか

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となった.さらに,構築した培養神経リザバーは,汎化フィルタとして機能し,異なる性別や数字に
対して事前に訓練された出力層による分類を可能にすることを示した.入力信号を一般化し,カテゴ
ライズされた情報をエンコードする能力は,脳の情報処理に特徴的なものであり,同時に機械学習シ
ステムにとっての主要な課題であった.この現象は,神経細胞やシナプスに固有のノイズの存在がデ
ータ拡張の役割を果たし,培養神経リザバーにおいて汎化能力が獲得されると考察できる.本章で構
築した培養神経リザバーは,生体脳と情報処理を結ぶ強力なツールであり,生物の情報処理を理解す
るための有用なプラットフォームとして貢献することが期待される.
第4章 培養神経ネットワークの損傷修復性の解析とそのモデル化
生物の脳を情報処理システムとして捉えたときの大きな特徴の一つはその高い耐損傷性にある.
例えばマーモセット脳の研究では,大脳皮質運動野に小規模な損傷が入り運動機能障害が生じても,
反対側の領野が活動を可塑的に変化させ,リハビリによって 1 ヶ月程度で運動機能が回復する.そ
のような回路機能の自己修復性は,神経回路が局所的な相互作用によって自己組織化されるプロセ
スに起因するもので,現行のノイマン型アーキテクチャを採用する電子計算機とは根本的に異なる.
従って,脳神経回路の損傷応答および自己修復過程を細胞レベルで解析し,モデル化することは次
世代の高度な情報処理システムの構築にとって重要である.
そこで,培養神経細胞ネットワークに対し物理的損傷(細胞体の破壊やシナプスの切断)を与え
た際の時空間ダイナミクスの変化を培養神経回路および数理モデル両方を用いて分析した.培養神
経回路に損傷を印加すると,同期発火頻度は,損傷後において一時的に低下したが,24 時間後に
は元の水準まで回復することが分かった.次に,数理モデルにシナプス可塑性の STDP
(spike-timing-dependent plasticity)を組込むと,損傷後に低下した同期発火頻度を,2 時間程
度で損傷前の頻度に回復させられることが分かった.時間スケールに違いがあるものの,培養実験
でみられた同期発火頻度の回復を,数値シミュレーション上で再現でき,STDP により損傷回復を
モデリング可能なことが明らかとなった.この結果は,STDP による可塑性メカニズムが,神経ネ
ットワークが損傷から回復するために効果的な要素であることを示唆するものである.今後,この
ような培養細胞および数理モデルを用いた構成論的研究により,損傷修復機能などの現行の数理モ
デルに取り入れていない生理現象が,生体の神経回路の情報処理においてどのような役割を担って
いるかを明らかにし,工学的観点からモデル化することで情報科学のさらなる進化への貢献が期待
される.
第5章 総括
生物の高次機能を司る脳の情報処理基盤は,自然科学の中でも未だに解明されていない最大のフ
ロンティアである.脳の作動原理を理解するためには,脳神経回路の分析的計測に加えて,規定さ
れた神経回路を培養細胞および数理モデルに基づいて人工的に再構成し,その機能を調べる構成論
的な解析が求められてきた.本論文では,まずこれを実現するために,生体脳の活動を模倣する神
経細胞ネットワークを培養系で再構成することを目指した.そして,生体脳の活動を模倣する培養
神経ネットワークを,機械学習の一種であるリザバーコンピューティングの枠組みを用いて解析す
ることにより,神経細胞ネットワークの時空間ダイナミクスを情報処理に結び付けて,構成論的に
評価するプラットフォームを構築した.さらに,情報処理において神経回路に特徴的な,耐損傷性
や損傷回復機能について,実細胞および数理モデル両方を用いて,その作用機序を明らかにするこ

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とに取り組んだ.
本研究で構築した技術は,培養神経回路と生体神経回路の機能的差異の解消や,培養神経回路に
基づいた数理モデリングを通して,生体脳と計算機を密接につなぐプラットフォームを提供する.
この技術は,短期的には,脳損傷による高次脳機能障害の分析や新規化合物の薬効評価系などの医
療・創薬分野での応用が期待される.さらに,長期的には,生体情報処理に基づく新たなアルゴリ
ズム開発や,神経細胞を計算機リソースとしたウェットウェア構築を通して,次世代の情報処理技
術を切り拓く有益なプラットフォームへの発展が期待される.

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