リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「サソリ由来の殺虫性ペプチド毒素ならびに表皮蛍光物質の構造解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

サソリ由来の殺虫性ペプチド毒素ならびに表皮蛍光物質の構造解析

義本, 裕介 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23254

2021.03.23

概要

代表的な有毒生物であるサソリは尾節から分泌される毒を用いて獲物を捕獲し, また天敵から身を守っている.サソリ毒液には100~200種類のペプチド成分が含まれており, イオンチャネルに作用する神経毒が主な活性成分である.また, この中に含まれている昆虫特異的に作用する成分は農薬への応用も期待されている.一方, サソリのもつ特徴として, 表皮の蛍光現象が知られている.この蛍光現象には, 紫外線に対する防御の役割や個体間コミュニケーションへの関与が考えられているが, その生物学的意義は不明である.本研究ではまず, 北アフリカ生息種サソリであるButhacus leptochelysの毒液に含まれる殺虫性ペプチドを探索し, その構造を決定した.次に, 日本生息種サソリであるLiocheles australasiae(ヤエヤマサソリ)を用いて, その表皮蛍光現象に関わる物質を探索し, その構造を決定した.さらに, 同定した化合物の蛍光発現に必要な構造要因について明らかにした.以下にそれぞれの研究結果の要約を示した.

1. B. leptochelys毒液に含まれる新奇殺虫性ペプチドの構造決定
 B. leptochelysの毒液を逆相HPLC(C4およびC18カラム)を用いて分画し, コオロギに対する殺虫活性を評価することによって活性画分を特定した.単一の活性成分となるまでこの操作を繰り返した結果, 4つの殺虫性ペプチド(Bl-1, Bl-2, Bl-3およびBl-4)が得られた.これら4つのペプチドのN末端アミノ酸配列をエドマン分解法により解析したところ, いずれもNa+チャネルに作用する既知サソリ毒素(α-toxinあるいはβ-toxin)と類似していることが明らかになった.このうち, 最も強力な殺虫活性を示したBl-1について, その全配列をエドマン分解と質量分析法(de novo sequencing法)により決定した結果, Bl-1は4つのジスルフィド結合をもつ67残基のペプチドであることが分かった.Bl-1は昆虫および哺乳類のNa+チャネルに対して非選択的に作用するα-like toxinと非常に高い相同性を示した.さらに, Bl-1の三次元構造を, 最も高い相同性を示したLqh3を鋳型に用いてホモロジーモデリング法により推定した.その結果, 活性に寄与すると考えられているアミノ酸残基の位置が両者でほぼ一致した.このことから, Bl-1はLqh3と同様の作用機構で毒性を発現していると考えられた.

2. サソリ表皮に含まれる蛍光物質の探索
 これまでにサソリ表皮由来の蛍光物質として, norharmanおよびhymecromoneが単離・同定されている(Stanchel:1999, Frost:2001).そこで, まずL. australasiaeを用いてこれらの化合物の存在について検証した.L. australasiaeの体全体および脱皮殻を用いて, それぞれ抽出・粗分画した後, LC/MSを用いて分析した.その結果, 体全体の抽出物からnorharmanが確認されたものの, 脱皮殻からはnorharmanおよびhymecromoneのいずれも検出されなかった.以上のことから, これらの蛍光物質はL. australasiaeの表皮蛍光現象に関与しておらず, 未知の蛍光物質の存在が強く示唆された.
 そこで, L. australasiaeの脱皮殻から得られた抽出物を固相抽出カラム(Sep-pak Plus Silica)を用いて分画した.このうち, n-hexane/ethyl acetate=8/2によって溶出した画分が顕著な蛍光を示したことから, これを蛍光HPLC(励起270nm, 蛍光410nm)およびLC/MSによって分析した.その結果, この画分に496.2Daの質量をもつ蛍光物質が含まれることが明らかとなった.これを精製し, その構造をNMRおよびMS/MS分析を用いて解析したところ, がフタル酸エステルの環状二量体構造をもつ化合物(以下CDPE)であると同定した.同様の実験をIsometrus maculatus(マダラサソリ)の脱皮殻を用いて行ったところ, 同じ化合物が見いだされた.さらに, 3種の北アフリカ生息種サソリからもLC/MS分析によってその存在が確認できた.これらのことから, CDPEがサソリ表皮に普遍的に存在することが示唆された.
 続いて, CDPEの蛍光特性を明らかにするため, これを化学合成し, その励起・蛍光スペクトルを測定した.まず, 吸収極大である270nmで励起すると330nm付近に最も強い蛍光が見られた.この時, 410nmおよび430nmにも蛍光のピークが見られた.この可視領域の蛍光ピーク(400~500nm)は360nmで励起すると, より明瞭に観測された.以上より, CDPEは2つの大きく異なる波長領域で蛍光を示すユニークな特性をもつことが明らかとなった.

3. CDPEの構造と蛍光の関係
 サソリ表皮中において, CDPE以外のフタル酸エステル構造をもつ化合物を探索した結果, 環状単量体フタル酸エステル化合物(以下CMPE)を新たに見いだした.CMPEの示す可視領域の蛍光は, CDPEと比べて弱かったことから, CDPEのもつ環状二量体構造が可視領域蛍光の発現にとって重要であることが示唆された.そこで, フタル酸エステルの構造と蛍光波長との関係を明らかにするため, 環状あるいはエステル構造を含まないフタル酸類縁体を化学合成し, その紫外吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した.その結果, いずれも270nmの吸収極大を示し, その波長によって励起するとCDPEと同程度の紫外領域蛍光(330nm付近)を示したが, これらの可視領域蛍光は弱いかあるいはほとんど認められなかった.以上のことから, 可視領域蛍光の発現にはフタル酸のエステル構造が必須であり, さらに二量体環状構造を形成することによってその蛍光が増強されることが分かった.また, 計算化学手法による安定配座の推定から, CDPEにおいては二つの芳香環の相互作用によって分子内エキシマーを形成し, これが可視領域蛍光の発現に寄与していることが示唆された.

総括
1. 北アフリカ生息種サソリであるB. leptochelysの毒液から殺虫性ペプチドBl-1を単離し, その一次構造を, エドマン分解ならびに質量分析法を用いて明らかにした.Bl-1の構造は昆虫および哺乳類双方のNa+チャネルに作用するサソリ毒素と類似した構造をもっていた.

2. L. australasiae表皮に含まれる蛍光物質の探索をおこない, 環状二量体フタル酸エステル構造をもつ化合物(CDPE)を新たに同定した.CDPEを化学合成し, その蛍光スペクトルを測定したところ, 励起波長によって蛍光のパターンが大きく変化することを明らかにした.

3. 環状あるいはエステル構造を含まないフタル酸類縁体を合成し, その構造と蛍光スペクトルの関係について考察した.その結果, 強い可視領域蛍光の発現にはエステル構造および二量体環状構造が必要であり, 芳香環の相互作用によるエキシマー形成が重要であることが示唆された.

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る