CFAフラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェノタイプスクリーニングによるコバレントリガンド探索
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
CFAフラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェ
ノタイプスクリーニングによるコバレントリガンド
探索
井上, 和哉
https://hdl.handle.net/2324/7157316
出版情報:Kyushu University, 2023, 博士(臨床薬学), 課程博士
バージョン:
権利関係:
(様式5)
氏
名
論文題名
:井上
和哉
:CFA フラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェノタイプスクリーニング
によるコバレントリガンド探索
区
分
:甲
論
文
内
容
の
要
旨
FBDD はフラグメントと呼ばれる分子量 300 以下からなるから化合物を用いてスクリーニング
を行い、構造の最適化により標的タンパク質に対して相互作用をするリード化合物を開発するた
めの創薬方法である。FBDD は低分子フラグメントを用いることによりスクリーニング時にヒッ
ト率の向上が期待され、効率的に標的タンパク質と相互作用する化合物を見出すことができる利
点を有する。その一方で、標的タンパク質との結合親和性が低いため、NMR や X 線結晶構造解
析などの生物物理学的技術を駆使し、結合を測定することでヒット化合物を選定していく必要が
ある。そこで、フラグメント化合物の低親和性を補うために標的タンパク質と共有結合を形成す
るコバレントドラッグを用いたフラグメント創薬が行われるようになった。コバレントドラッグ
はタンパク質と相互作用をするリガンド部位に加え、標的の求核性アミノ酸残基と反応するため
の求電子的反応基 (Warhead) を併せ持ち、リガンド部位と標的タンパク質が相互作用した後
に標的タンパク質表面の求核性アミノ酸から warhead に対する求核攻撃が誘起されることで共
有結合を形成する。コバレント型のフラグメントは非共有結合的な相互作用をする化合物とは異
なり、タンパク質と解離しないことから強い結合性と長い作用時間を有するといった特徴を持つ。
当研究室ではこれまでに穏やかな反応性を有する反応基としてα-クロロフルオロアセトアミ
ド基 (CFA 基) を見出した。CFA 基は標的システインと反応し共有結合を形成する一方で、タン
パク質表面のシステイン残基と反応した場合には加水分解するという可逆性も有していることか
ら、細胞内での標的タンパク質を高選択的に阻害することができる。とりわけ生細胞を用いたフ
ェノタイプスクリーニングにおいては、高い標的選択性は擬陽性や細胞毒性の低下につながるこ
とからスループット性の観点からも非常に重要である。そのため、まず CFA を反応基として有
するフラグメント化合物の拡張を行った。
また、我々はケミカルバイオ
ロジー的な手法を用いて様々な
代謝経路の活性を検出可能な新
しいケミカルプローブの開発も
行っており、これまで代謝経路
の一つである脂肪酸β酸化を検
出するために probe1 を開発し
た。しかしながら、probe1 は蛍
光強度が弱いため、フェノタイ
プスクリーニングに用いるため
の十分な感度を有さなかった。
そこで、クマリンの 6 位にフル
オロ基を導入した probe2 を設
計することにより、約 9 倍の蛍
1
光強度の増大に成功し、フェノタ
イプスクリーニングに用いるため
の十分な感度を得た (Figure 1)。
そのため、先に示した CFA フ
ラグメントライブラリーを
HepG2 細胞に添加した後、probe2
を加えプレートリーダー及び蛍光
イメージングにより蛍光強度を算
出した。その結果、probe2 の蛍光
を減少させるピペラジン・ピペリ
ジン骨格を有する CFA-154/157
を見出した (IC50 ≒ 2 µM)。反応
基部位を CFA 基からアセチル基
に変更したところ阻害活性を示さ
なかったことから、CFA-154/157
は何らかのタンパク質と共有結合
を形成することでβ酸化活性を阻
害していると考えられた (Figure
2)。
続いてこれらの化合物の作用機
序の解明を行うために CFA-154、
157 にアルキンタグを導入した CFA-170、166 を合成し、gel-based ABPP を行ったところ、これ
らの化合物は 50 kDa 付近のバンドを特異的にラベル化した (Figure 3)。さらにケミカルプロテ
オミクス解析を行ったところ、50 kDa 付近の proteinX を同定することに成功した。そのため、
CFA-154、157 とそれらのアルキン体である CFA-166、170 を用いて proteinX の精製酵素に対す
るラベル化挙動を調べた。その結果
ケミカルプロテオミクス解析時と同
様、ピペリジン骨格を有する
CFA-154、170、及びピペラジン骨
格 を 有 す る CFA-157 、 166 は
proteinX をラベル化する結果を得た。
さらに、CFA-154、157 の精製酵素
に対する阻害活性を調べたところ、
proteinX に対して高い阻害活性を示
す こ と が 分 か っ た (CFA-154; IC50
≒ 26 nM 、 CFA-157; IC50 ≒ 11
nM)。
また、proteinX とβ酸化との関係
性を調 べる ため に既 存 の proteinX
の阻害剤と probe2 を用いた生細胞
スクリーニングを行ったところ、阻
害剤は probe2 の蛍光を抑える結果を得た。さらに 4-HNE 抗体を用いたドットブロット法による
検出から、CFA-154 及び 157 は proteinX を阻害することで細胞内に蓄積した 4-HNE がβ酸化関
連酵素と付加体を形成し、その機能を阻害する知見を得た。
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