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書き出し

CFAフラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェノタイプスクリーニングによるコバレントリガンド探索

井上, 和哉 INOUE, Kazuya イノウエ, カズヤ 九州大学

2023.09.25

概要

九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository

CFAフラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェ
ノタイプスクリーニングによるコバレントリガンド
探索
井上, 和哉

https://hdl.handle.net/2324/7157316
出版情報:Kyushu University, 2023, 博士(臨床薬学), 課程博士
バージョン:
権利関係:

(様式5)




論文題名

:井上

和哉

:CFA フラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェノタイプスクリーニング
によるコバレントリガンド探索





:甲















FBDD はフラグメントと呼ばれる分子量 300 以下からなるから化合物を用いてスクリーニング
を行い、構造の最適化により標的タンパク質に対して相互作用をするリード化合物を開発するた
めの創薬方法である。FBDD は低分子フラグメントを用いることによりスクリーニング時にヒッ
ト率の向上が期待され、効率的に標的タンパク質と相互作用する化合物を見出すことができる利
点を有する。その一方で、標的タンパク質との結合親和性が低いため、NMR や X 線結晶構造解
析などの生物物理学的技術を駆使し、結合を測定することでヒット化合物を選定していく必要が
ある。そこで、フラグメント化合物の低親和性を補うために標的タンパク質と共有結合を形成す
るコバレントドラッグを用いたフラグメント創薬が行われるようになった。コバレントドラッグ
はタンパク質と相互作用をするリガンド部位に加え、標的の求核性アミノ酸残基と反応するため
の求電子的反応基 (Warhead) を併せ持ち、リガンド部位と標的タンパク質が相互作用した後
に標的タンパク質表面の求核性アミノ酸から warhead に対する求核攻撃が誘起されることで共
有結合を形成する。コバレント型のフラグメントは非共有結合的な相互作用をする化合物とは異
なり、タンパク質と解離しないことから強い結合性と長い作用時間を有するといった特徴を持つ。
当研究室ではこれまでに穏やかな反応性を有する反応基としてα-クロロフルオロアセトアミ
ド基 (CFA 基) を見出した。CFA 基は標的システインと反応し共有結合を形成する一方で、タン
パク質表面のシステイン残基と反応した場合には加水分解するという可逆性も有していることか
ら、細胞内での標的タンパク質を高選択的に阻害することができる。とりわけ生細胞を用いたフ
ェノタイプスクリーニングにおいては、高い標的選択性は擬陽性や細胞毒性の低下につながるこ
とからスループット性の観点からも非常に重要である。そのため、まず CFA を反応基として有
するフラグメント化合物の拡張を行った。
また、我々はケミカルバイオ
ロジー的な手法を用いて様々な
代謝経路の活性を検出可能な新
しいケミカルプローブの開発も
行っており、これまで代謝経路
の一つである脂肪酸β酸化を検
出するために probe1 を開発し
た。しかしながら、probe1 は蛍
光強度が弱いため、フェノタイ
プスクリーニングに用いるため
の十分な感度を有さなかった。
そこで、クマリンの 6 位にフル
オロ基を導入した probe2 を設
計することにより、約 9 倍の蛍

1

光強度の増大に成功し、フェノタ
イプスクリーニングに用いるため
の十分な感度を得た (Figure 1)。
そのため、先に示した CFA フ
ラグメントライブラリーを
HepG2 細胞に添加した後、probe2
を加えプレートリーダー及び蛍光
イメージングにより蛍光強度を算
出した。その結果、probe2 の蛍光
を減少させるピペラジン・ピペリ
ジン骨格を有する CFA-154/157
を見出した (IC50 ≒ 2 µM)。反応
基部位を CFA 基からアセチル基
に変更したところ阻害活性を示さ
なかったことから、CFA-154/157
は何らかのタンパク質と共有結合
を形成することでβ酸化活性を阻
害していると考えられた (Figure
2)。
続いてこれらの化合物の作用機
序の解明を行うために CFA-154、
157 にアルキンタグを導入した CFA-170、166 を合成し、gel-based ABPP を行ったところ、これ
らの化合物は 50 kDa 付近のバンドを特異的にラベル化した (Figure 3)。さらにケミカルプロテ
オミクス解析を行ったところ、50 kDa 付近の proteinX を同定することに成功した。そのため、
CFA-154、157 とそれらのアルキン体である CFA-166、170 を用いて proteinX の精製酵素に対す
るラベル化挙動を調べた。その結果
ケミカルプロテオミクス解析時と同
様、ピペリジン骨格を有する
CFA-154、170、及びピペラジン骨
格 を 有 す る CFA-157 、 166 は
proteinX をラベル化する結果を得た。
さらに、CFA-154、157 の精製酵素
に対する阻害活性を調べたところ、
proteinX に対して高い阻害活性を示
す こ と が 分 か っ た (CFA-154; IC50
≒ 26 nM 、 CFA-157; IC50 ≒ 11
nM)。
また、proteinX とβ酸化との関係
性を調 べる ため に既 存 の proteinX
の阻害剤と probe2 を用いた生細胞
スクリーニングを行ったところ、阻
害剤は probe2 の蛍光を抑える結果を得た。さらに 4-HNE 抗体を用いたドットブロット法による
検出から、CFA-154 及び 157 は proteinX を阻害することで細胞内に蓄積した 4-HNE がβ酸化関
連酵素と付加体を形成し、その機能を阻害する知見を得た。

2

この論文で使われている画像

参考文献

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131

結言

本研究では CFA フラグメントライブラリーを用いた細胞代謝フェノタイプスクリーニン

グによるコバレントリガンドの探索を行った。

第 1 章では当研究室で独自に開発した反応基である CFA 基を導入したフラグメントライ

ブラリーの構築を行った。これまでに報告した 30 種類の化合物に加え、新たに約 120 種類

を構築することで構造の多様性に富んだ様々なフラグメント化合物を構築した。その結果

フェノタイプスクリーニングでヒット化合物を得るために十分なフラグメント化合物を得

ることに成功した。

第 2 章では当研究室で開発したβ酸化を検出する蛍光プローブの蛍光強度を改善し、

CFA 基を有するフラグメント化合物を用いたβ酸化阻害剤スクリーニングを行った。これ

までに開発したβ酸化検出用蛍光プローブである probe1 は蛍光強度が弱く、蛍光変化が追

いにくいことから、阻害剤スクリーニングには用いることが困難であった。そこでクマリ

ンに置換基を導入することで蛍光強度の改善を図った。クマリンの 6 位にフルオロ基を導

入した probe2 を作製し、フルオロ基を有さない probe1 との蛍光強度の比較を行ったとこ

ろ、約 9 倍高い蛍光強度でβ酸化を検出することに成功した。また、それぞれのプローブ

のフェノール体 1’と 2’の pKa を算出したところ、1’の pKa は 6.8 であるのに対し、2’の

pKa は 5.4 であった。このことから、以前の報告にあった通りクマリンにフルオロ基を導

入することで pKa が酸性側にシフトし、pKa の変化がクマリンの蛍光強度の違いに関与し

ていることが示唆された。

また、probe2 と第 1 章で構築した CFA 基を有するフラグメント化合物を用いて新規共

有結合型β酸化阻害剤のスクリーニングを行った。その結果ピペラジン・ピペリジン骨格

を有する CFA-154 及び CFA-157 がヒット化合物として見出された。WST assay 及び CFA154/157 のアセチル体である Ac-154/157 との比較検討から、CFA-154/157 は細胞に毒性

を与えることなく、タンパク質と共有結合を形成することでβ酸化の機能を抑制している

ことが分かった。

第 3 章では第 2 章でヒット化合物として得られた CFA-154/157 の作用機序の解明を行っ

た。CFA-154/157 にアルキンを導入した化合物である CFA-166 及び 170 を合成し、gelbased ABPP による評価を行ったところ、これらの化合物は 50 kDa のバンドを特異的にラ

ベル化した。さらにケミカルプロテオミクス解析による標的タンパク質の同定を行ったと

ころ、CFA-154 及び 157 で共通のヒット化合物としてアルデヒド脱水素酵素である

proteinX1 が高いスコアでヒットしてきたことから、proteinX を阻害することによりβ酸

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化の機能を抑制していることが考えられた。さらに CFA-154/157 の proteinX に対する阻

害活性を調べるために精製酵素を用いた検討を行った。CFA-154/157 にアルキンを導入し

た CFA-170 や 166 は proteinX1 をラベル化する一方で、CFA-166 については proteinX2 も

ラベル化することから、ピペラジン・ピペリジン骨格の違いで proteinX のサブタイプに対

する選択性の違いがあること分かった。また、CFA-154/157 の proteinX1 に対する阻害活

性を調べたところ IC50 が~50 nM と非常に高い阻害剤として機能することが分かり、生細

胞及び精製酵素で proteinX のラベル化を確認することができた。

また、proteinX とβ酸化の関係について調べた。既存の proteinX inhibitor である DSF

や Aldi-6 を生細胞に添加した後にβ酸化検出用蛍光プローブを添加すると蛍光の回復が見

られないことから、proteinX を阻害することによりβ酸化の機能が抑制されることが分か

った。さらに、ドットブロットによる検討から、ヒット化合物として見出した CFA-154 や

CFA-157 は proteinX を阻害することで高反応性アルデヒドである 4-HNE を細胞内に蓄積

させ、さらに 4-HNE がβ酸化関連酵素と付加体を形成することでβ酸化の機能を抑制し

ている機構が働いていることが考えられた。

proteinX の阻害剤として有用な化合物を見出すことに成功したが、これら化合物の構造

最適化は行っていない。そこで現在は CFA-154/157 のさらなる誘導体の合成を行い、

proteinX1 に対する阻害活性を向上させることを目指している。また、阻害活性を向上さ

せた後には生細胞での proteinX の阻害活性を検討し、最終的にはマウス等の in vivo にお

ける検討も行いたいと考えている。

133

参考資料

発表論文

[1] Trimethyl-Substituted Carbamate as a Versatile Self-Immolative Linker for Fluorescence

Detection of Enzyme Reactions.

Nakamura, N.; Uchinomiya, S.; Inoue, K.; Ojida, A.

Molecules, 2020, 25, 2153

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謝辞

本研究を行うにあたり,終始懇切なるご指導,ご鞭撻を賜りました九州大学薬学研究院

創薬ケミカルバイオロジー分野

王子田

彰夫 教授に心より感謝の意を表します。

本研究の細部にわたりご指導をいただき,様々な便宜を図ってくださいました

祥平

内之宮

助教,進藤 直哉 助教, 川西 英治 講師に深く感謝致します。

LC-MS/MS による質量分析の実施やご指導、ご助言を賜りました京都大学大学院工学研

究科

浜地

教授,

田村

子研究所(ITbM)の三城

朋則

恵美

講師,

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分

特任講師、加納

恵子

技術員に深く感謝いたします。

ドットブロットの実験でお世話になりました、九州大学大学院薬学研究院

析学

山田 健一 教授、森本

分子病態解

和志 助教 に深く感謝いたします。

研究生活全般において多大なるご支援を賜りました先輩,同級生,後輩の皆様方に深く

感謝申し上げます。

研究を陰で支えてくださいました

可八子

北田

真理子

秘書,安河内

麗子

秘書,福山

女史に感謝を申し上げます。

大学での研究を支援してくださいました両親に深く感謝申し上げます。

最後に,本研究が私の中の誇りあるものになったことに対し,私に関わった全ての人に

心より感謝致します。

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...

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