異常翻訳に起因する品質管理機構の解析
概要
正確なタンパク質発現は生命現象の根幹であり、異常なタンパク質の産生やその蓄積を抑制する品質管理機構は生体の恒常性を担保する上で必須の機構である。品質管理機構の破綻は神経変性疾患等の疾病の原因となることから、創薬の標的としても重要である。
品質管理機構の一つに、翻訳停滞に起因する品質管理機構(RQC: Ribosomeassociated Quality Control)がある(Inada, 2020; Sitron & Brandman, 2020; Vind et al.,2020)。RQC は、連続した塩基性アミノ酸配列等で停滞した先頭のリボソームに、後続のリボソームが衝突し、disome あるいは trisome と呼ばれる特異的な構造を形成することで引き起こされる(Ikeuchi et al., 2019; Juszkiewicz et al., 2018)。RQC の分子メカニズムは、出芽酵母を用いて詳細な解析がなされており、主に、i) 翻訳停滞したリボソームのユビキチン化 ii) ユビキチン化されたリボソームの各サブユニットへの解離 iii) 60Sサブユニット上の新生ポリペプチド鎖の分解の3つの段階からなることが明らかになっている(図 1. A)。しかしながら、ヒトにおける RQC のメカニズムは、iii)の段階を除いて不明な点が多く残っていた(図 1. B)。また、ヒトにおける RQC の内在性標的は、ポリ A配列以外には明らかになっていなかった。本研究では、ヒト培養細胞を用いて、RQCの分子メカニズム(Hashimoto et al., 2020)とその内在性標的を解明すること(Hashimotoet al., 2019)を目的に解析を行った。