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化学架橋による多糖ヒドロゲルの創製と材料化及び物性評価

松本, 悠佑 東京大学 DOI:10.15083/0002006896

2023.03.24

概要





















松本

悠佑

近年、新たな高分子材料として様々な分野でヒドロゲルが注目を集めている。しかし、
現在材料化が検討されているヒドロゲルの多くは原料を石油に依存し、生分解性を持たな
いことから環境への影響が懸念されており、バイオマス由来、あるいは生分解性を有する
新たな高強度材料の開発が求められている。本研究では、地球上に最も豊富に存在するバ
イオマス資源の一つであり、生分解性を有する天然多糖類を原料とし、しなやかでタフな
高物性ヒドロゲルの開発を行うことを目的として化学架橋による多糖ヒドロゲルの創製を
試みた。さらに、多糖ヒドロゲルの構造を利用した、高強度乾燥材料の開発を行った。
第 1 章の緒言に引き続き第 2 章では、多糖を原料としてしなやかでタフなヒドロゲルを
調製することを目的とし、
2 種類の構造の異なる多糖である α-1,3 グルカン (分子量 20 万) と、
β-1,3 グルカン (分子量 20 万) を原料とし、エチレングリコールジグリシジルエーテル
(EGDGE) で化学的に架橋することによりヒドロゲルの調製を行った。圧縮試験を行ったと
ころ、α-1,3 グルカンからは、弾性率が 400 KPa を超える非常に固い、β-1,3 グルカンからは
弾性率が 10 KPa 以下の非常に柔らかいヒドロゲルが得られた。このことから、原料である
多糖の構造がゲルの物性に大きく影響を与えることがわかった。また、高分子量の β-1,3 グ
ルカン (分子量 100 万) からは低分子量の物よりも弾性率が 4 KPa とより柔らかいヒドロゲ
ルが得られた。これらのヒドロゲルは高い形状回復能を有し、特に高分子量の β-1,3 グルカ
ン (分子量 100 万) において 80%以上圧縮してもほぼ 100%形状を回復するしなやかでタフ
なゲルが得られた。
第3章では、前章において特に大変形が可能で高い形状回復能を示した高分子量のβ-1,3
グルカン (カードラン) を原料とし、長さの異なる3種類の架橋剤 (炭素数:C2、C4、C6) を
用いることでヒドロゲルの架橋長さの機械物性への影響について、より大変形下での物性
評価が可能な引張試験により調べた。カードランゲルの引張特性は架橋剤の長さによって
大きな変化はなく、いずれの架橋剤を用いても600~900%の高い伸張性を有するヒドロゲル
が得られた。カードランヒドロゲルのネットワーク構造を利用し、高強度ゲルフィルムの
作製を試みた。カードランヒドロゲルをそのまま乾燥させることで未延伸ゲルフィルムを、
3倍延伸下で乾燥させることにより延伸ゲルフィルムを作製した。延伸後乾燥させることに
よりカードランが配向結晶化 (配向度80%) し、延伸ゲルフィルムでは未延伸のゲルフィル

ムよりもはるかに高い引張特性 (破壊強度120~150 MPa、弾性率1.5~1.7 GPa) を示した。
第4章では、カードランがアルカリ溶液中で持つ2種類の分子鎖構造(ランダムコイル
状態 (RC) とトリプルヘリックス (TH) 構造)を利用して、高強度ゲルの開発を目的とし
た。
。THゲルについて引張試験を行ったところ、RCゲルと比べて高い弾性率と破壊強度を
示した。小角X線測定により、THゲルにおいて分子鎖の会合が起こっていることがわかっ
た。そこで、THゲルの延伸条件下での時分割小角X線測定を行ったところ、延伸方向にお
いて会合体由来のピークが消失し、その一方で延伸に垂直方向では会合体由来のピーク強
度の上昇がみられた。ピーク位置から会合体の直径は既報のカードランのフィブリル径と
一致していた。THゲルではフィブリル状の会合体が形成されており、延伸により会合体が
配向していることが示唆された。会合体の配向を利用し、延伸下で乾燥させることにより
配向ゲルフィルムの作製を試みたところ、配向度が88%、破壊強度が200 MPa、弾性率が2.0
GPaと延伸RCゲルフィルムよりも高い配向度と力学物性を示した。
第5章では、α-1,3グルカンゲルを用いて高い透明性を有するゲルフィルムの作製を行っ
た。ホットプレス機を用いて上下から挟んで105 ºCで加熱することで、ゲルフィルムの作製
を行ったところ、可視光を80%以上透過しつつも紫外線をあまり透過しないゲルフィルムが
得られた。このゲルフィルムは、厚さが0.7 mm程度もありながら全光線透過率が89%と非常
に高く、ガラスの90%に匹敵する高い透明性を有していることがわかった。広角X線測定に
より、結晶が面配向した構造を有していることがわかり、プレスドライにより結晶を密に
積層させることにより、高い透明性を有するゲルフィルムが作製できたことがわかった。
以上本研究では、グリコシド結合の様式が異なる2種類の多糖(β-1,3-グルカンとα-1,3グルカン)を化学架橋することにより、高い透明性を有するヒドロゲル及び高強度ゲルフ
ィルムの作製に成功するとともに、それらの物性評価と高物性発現機構を大型放射光
(SPring-8)における小角X線散乱を用いて分子鎖構造の観点から明らかにした。
これらの研究成果は、学術分野への貢献だけでなく、実用上寄与するところが少なくな
い。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認め
た。

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参考文献

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https://doi.org/10.1002/app.12625.

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Gámiz González, M. A.; Edlund, U.; Vidaurre, A.; Gómez Ribelles, J. L. Synthesis of

37

Highly Swellable Hydrogels of Water-Soluble Carboxymethyl Chitosan and

Poly(Ethylene Glycol). Polym. Int. 2017, 66 (11), 1624–1632.

https://doi.org/10.1002/pi.5424.

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Sannino, A.; Madaghiele, M.; Lionetto, M. G.; Schettino, T.; Maffezzoli, A.; Nicolais, L.

Introduction of Molecular Spacers between the Crosslinks of a Cellulose-Based

Superabsorbent Hydrogel: Effects on the Equilibrium Sorption Properties. J. Appl.

Polym. Sci. 2003, 102 (2), 1524–1530. https://doi.org/10.1002/app.12625.

38

第 3 章

高伸長性カードランヒドロゲル及び高強度ゲルフィルムの調製と物性

評価

本章の内容は、学術誌論文として出版する計画があるため公表できない。3 年以内に

出版予定である。

39

第 4 章

溶液中の分子鎖構造が及ぼすカードランヒドロゲル及びゲルフィルム

の物性への影響とそのメカニズム

本章の内容は、学術誌論文として出版する計画があるため公表できない。3 年以内に

出版予定である。

53

第5章

高透明性α-1,3 グルカンゲルフィルムの作製と物性評価

本章の内容は、学術誌論文として出版する計画があるため公表できない。3 年以内に

出版予定である。

73

第6章

総括

近年、これまで物性に乏しく材料利用が困難であったヒドロゲルの高強度化が進み、

その高強度化メカニズムがプラスチックやゴムなどの乾燥材料へと応用されるなど、ヒ

ドロゲルやその構造を利用したしなやかでタフな材料の開発が盛んに行われている。し

かし、このような高強度材料の開発が進む一方で、原料である化石資源の枯渇やプラス

チックごみの堆積等、世界規模の環境問題が課題となっており、再生可能資源であるバ

イオマスを利用した材料や、生分解性材料の開発が強く求められている。

天然多糖は、地球上に最も豊富に存在するバイオマス資源の一つであり、天然に高分

子量体で存在しかつ生分解性を有することからその材料利用が期待される。多糖はその

高いゲル化能力から食品産業や医療産業において利用されてきた。しかし、従来の多糖

ヒドロゲルは水素結合等の弱い結合により架橋されているために一般的に脆く、また外

力がかかると塑性変形や離水するなどと力学物性に乏しく材料としての利用は非常に

困難であった。そこで、本研究では多糖を原料とし、しなやかでタフな高物性ヒドロゲ

ルの開発を行うことを目的とし、化学架橋による多糖ヒドロゲルの調製を試みた。さら

に、多糖ヒドロゲルの構造を利用し、高強度乾燥材料の開発を行った。

第 2 章の「大変形能及び高回復能を有する α-1,3 及び β-1,3-glucan 化学ゲルの調製と

物性評価」では、多糖を原料としてしなやかでタフなヒドロゲルを調製することを目的

とし、2 種類の構造の異なる多糖である α-1,3 グルカン(分子量 20 万)と、β-1,3 グルカン

(分子量 20 万)を原料とし、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)で化学

的に架橋することによりヒドロゲルの調製を行った。圧縮試験により各ヒドロゲルの物

性評価を行ったところ、α-1,3 グルカンからは、弾性率が 400 KPa を超える非常に固い、

そして β-1,3 グルカンからは弾性率が 10 KPa 以下の非常に柔らかいヒドロゲルが得ら

れた。このことから、原料である多糖の構造がゲルの物性に大きく影響を与えることが

わかった。また、高分子量の β-1,3 グルカン(分子量 100 万)から弾性率が 4 KPa と低分

子量の物よりも更に低いしなやかなヒドロゲルが得られた。これらのヒドロゲルは、α1,3 グルカンでは 60%圧縮後も元の形状の 80%、

β-1,3 グルカン(分子量 20 万)からは 80%

圧縮後も 90%、そして β-1,3 グルカン(分子量 100 万)からは 80%圧縮後も 100%近くまで

形状を回復する、高い形状回復能を示した。このことから、多糖を化学的に架橋するこ

とで大変形可能で高い形状回復能を有する力学的に優れた性質を有するヒドロゲルが

得られることがわかった。

84

第 3 章の「高伸長性、高強度カードランヒドロゲル及びゲルフィルムの調製と物

性評価」では、前章において特に大変形が可能で高い形状回復能を示した高分子量の β1,3 グルカン(カードラン)を原料とし、長さの異なる 3 種類の架橋剤、エチレングリコー

ルジグリシジルエーテル(EGDGE, C2)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル

(BDDGE, C4)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(HDDGE, C6)を用いること

でヒドロゲルの架橋長さの機械物性への影響について引張試験により調べた。カードラ

ンゲルの引張特性は架橋剤の長さによって大きな変化はなく、いずれの架橋剤を用いて

も 600~900%の高い伸張性を有するヒドロゲルが得られた。

カードランヒドロゲルのネットワーク構造を利用し、高強度ゲルフィルムの作製を試

みた。カードランヒドロゲルをそのまま乾燥させることで未延伸ゲルフィルムを、3 倍

延伸下で乾燥させることにより延伸ゲルフィルムを作製した。未延伸ゲルフィルムでは

引張応力が 37~62 MPa、弾性率が 0.7~1.2 GPa であったのに対し、延伸ゲルフィルムに

おいては引張応力が 117~148 MPa、弾性率が 1.5~1.7 GPa とヒドロゲルの延伸により機

械物性が大幅に向上したことがわかった。また、広角X線測定から、未延伸ゲルフィル

ムでは結晶が無配向で存在しているのに対し、延伸ゲルフィルムでは 80%の配向度で結

晶が配向していることがわかり、ゲルの延伸により分子鎖を配向させることで、高強度

のゲルフィルムを作製することに成功した。このことから、多糖ヒドロゲルのネットワ

ーク構造や物性を利用することが、優れた物性を有する材料の開発する手段として有効

であることが示唆された。

第 4 章の「溶液中の分子鎖構造が及ぼすカードランヒドロゲル及びゲルフィルムの物

性への影響とそのメカニズム」では、異なる分子鎖構造を有するカードランヒドロゲル

を調製し、分子鎖構造がヒドロゲルの物性に与える影響について調べた。また、分子鎖

構造の制御による高強度ゲルフィルムの作製を試みた。

カードラン溶液は、アルカリ濃度によって異なる分子鎖構造を持つことが知られてい

る。前章までは、1.0 M NaOHaq を用いることでランダムコイル状態から(RC)ゲルの調

製を行ったが、本章では 0.1 M NaOHaq 中で EGDGE を用いてカードランヒドロゲルを

調製することにより、トリプルヘリックス(TH)構造からなるカードランヒドロゲルを作

製し、引張試験、時分割小角X線測定により引張特性及び構造の変化を調べた。また、

各ゲルの延伸による構造変化を利用することで、高強度ゲルフィルムの作製を行った。

85

小角X線測定により、TH ゲルにおいてのみ q=0.25 nm-1 にピークが現れ、分子鎖の会

合が起こっていることがわかった。TH ゲルについて引張試験を行ったところ、RC ゲル

と比べて高い弾性率と引張応力を示した。TH ゲルの延伸条件下での時分割小角 X 線測

定を行ったところ、延伸方向において会合体由来のピークが消失し、その一方で延伸に

垂直方向では会合体由来のピーク強度の上昇がみられた。ピーク位置から会合体の直径

は 8 nm 程度と計算され、これは既報のカードランアルカリ溶液の中和により得られる

フィブリルの直径と一致した。よって、TH ゲルではフィブリル状の会合体が形成され

ており、延伸によりフィブリルが配向していることが示唆された。このフィブリルの配

向を利用し、延伸下で乾燥させることにより延伸 TH ゲルフィルムの作製を行った。延

伸 TH ゲルフィルムでは、引張応力が 200 MPa、弾性率が 2.0 GPa となり、第三章で作

製した延伸 RC ゲルフィルムよりも高い力学物性を示した。これらのゲルフィルムに対

して広角 X 線測定を行ったところ、配向度が 88%となり、フィブリルの配向により、

より高い配向度と機械物性を有するゲルフィルムの作製に成功した。このことから、多

糖が溶液中で示す様々な分子鎖構造を利用する手法として、化学架橋ヒドロゲルの創製

が非常に有効であることが示唆された。今後、様々な多糖の分子鎖構造を利用した高強

度ヒドロゲルやゲルフィルムなどの材料開発が期待される。

第 5 章の「高透明性 α-1,3 グルカンゲフィルムの作製と物性評価」では、第 2 章で高

い弾性率を示した α-1,3 グルカンヒドロゲルを用いて高透明性ゲルフィルムの作製を試

みた。

α-1,3 グルカンヒドロゲルにおいては、β-1,3 グルカンヒドロゲルのような高い伸張性

を持たない一方で、ヒドロゲル内部で結晶を形成していることが広角 X 線回折測定に

よりわかった。この結晶を積層させたフィルムを作製するために、ホットプレス機を用

いて上下から挟んで 105 ºC で加熱することで、ゲルフィルムの作製を行った。すると、

可視光透過率を 80%示しつつも紫外線を透過しないゲルフィルムが得られた。このゲル

フィルムは、厚さが 0.7 mm 程度もありながら全光線透過率が 89%と非常に高く、ガラ

スの 90%に匹敵する透明性を有していることがわかった。また、広角X線回折測定を行

ったところ、結晶が面配向した構造を有していることがわかり、プレスドライにより結

晶を密に積層させることにより、高い透明性を有するゲルフィルムの作製に成功した。

今後、乾燥の条件やゲルの調製条件を検討していくことで更に多様な性質を有する多糖

部材の開発が期待される。

86

以上、本論文では多糖の化学架橋によるヒドロゲルの創製を試みた。多糖の分子鎖構

造は、化学架橋によりよく保持されることがわかり、作製したヒドロゲルの分子鎖構造

やネットワーク構造を利用することで、高強度のフィルム材料を開発することに成功し

た。多糖はその構造の違いにより、様々な分子鎖構造を溶液中で示すため、今後さらな

る材料の開発が期待できる。

その中でも、多糖ゲルの有する物質透過性を利用した機能性材料の開発が期待される。

ゲルは内部に溶媒だけでなく様々な溶質の含侵が可能であるため、含侵による機能性の

付与が可能である。更にゲルの延伸による分子鎖やフィブリル等の配向を利用すること

で、第三成分の構造制御に利用できる可能性がある。具体的には、導電性ポリマーを含

侵し、柔軟な構造を利用することで配向させることにより、機能性の付与及び強化が期

待できる。

多糖は種類によりそれぞれ異なるらせん周期を有しており、らせんの大きさは様々で

ある。このらせん構造を維持したままヒドロゲルを調製することで、用いる多糖により

様々な吸着性能を示すことが期待され、ゲルの物質透過性を活かした有害物質の吸着材

などへの利用が可能である。また、らせん構造の違いにより力学物性も異なることが期

待される。

このように、化学架橋により多糖の構造を保持することで多糖由来の吸着性や、結晶

構造などによる高強度の発現、第三成分の含侵と高次構造の制御など様々な応用が期待

される。また、多糖そのものの構造解析の進歩とともに得られる材料物性や機能性の設

計などが可能となることも期待される。今後、この化学架橋による多糖ヒドロゲル構造

の利用法がさらに多くの多糖の材料利用に貢献することを願う。

87

発表論文

第2章

1.

Yusuke Matsumoto, Yukiko Enomoto, Satoshi Kimura, Tadahisa Iwata: Highly deformable and

recoverable cross-linked hydrogels of 1,3-α-D and 1, 3-β-D-glucans; carbohydrate polymers,

251, 116794 (2021)

DOI: 10.1016/j.carbpol.2020.116794

第3章

2.

Yusuke Matsumoto, Yukiko Enomoto, Satoshi Kimura, and Tadahisa Iwata: Highly stretchable

and tough hydrogels of curdlan and its gel-films with high mechanical strength; European

Polymer Journal(投稿中)

参考論文

1.

Yusuke Matsumoto, Daisuke Ishii, Tadahisa Iwata: Synthesis and characterization of alginic acid

ester derivatives; Carbohydrate Polymers, 171, 251-235 (2017) (掲載済み)

2.

Yusuke Matsumoto, Daisuke Ishii, Tadahisa Iwata: Effect of Monomer Compositions and

Molecular Weight on Physical Properties of Alginic Acid Esters; ACS Symposium series: Green

Polymer Chemistry: Pipelines Toward New Products and Processes, 2018, 9 (掲載済み)

88

謝辞

本研究を遂行するにあたり、研究活動、論文作成、学会発表、研究室での生活にお

いて数多くのご指導を賜りました、東京大学大学院農学生命科学研究科・岩田忠久教授

に心よりお礼申し上げます。

本論文の学位申請において、ご指導、ご助言を頂きました東京大学大学院農学生命科

学研究科・斎藤継之准教授、山口哲生准教授、榎本有希子准教授、東京農業大学生命科

学部分子生命科学科・石井大輔准教授に心より感謝いたします。

本研究を進めるにあたり、様々なご指導、ご助言頂きました東京大学大学院農学生命

科学研究科・木村聡元特任准教授(現技術専門職員)、JASRI 利用研究促進部門構造物

性 I グループ・加部泰三研究員に深く感謝申し上げます。

また、研究をすすめるにあたり公私共にお世話になりました東京大学高分子材料学研

究室の学生及び卒業生や研究員の皆様にお礼申し上げます。

最後に、学生生活を支えてくれた家族に深く感謝いたします。

2021 年 3 月

東京大学大学院農学生命科学研究科高分子材料学研究室

松本悠佑

89

89

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