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大学・研究所にある論文を検索できる 「蛍光ナノダイヤモンドを用いた生体内微小環境計測のための低侵襲量子センシング技術の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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蛍光ナノダイヤモンドを用いた生体内微小環境計測のための低侵襲量子センシング技術の開発

栁, 瑶美 ヤナギ, タマミ 群馬大学

2021.03.23

概要

本論文は、ダイヤモンド結晶格子中の窒素と空孔からなる蛍光中心:窒素空孔中心(NVC)を有する~100 nm の蛍光ナノダイヤモンドを用いた「全光学的選択イメージング法」および「微小環境温度計測における高精度化」について成果をまとめたものである。蛍光ナノダイヤモンドは、生体内の物理・化学パラメータ定量が可能なイメージングプローブとして注目を集めている。ただし、そのパラメータ定量には 3 GHz 程度のマイクロ波で NVCのスピン操作を行う必要がある。この周波数帯のマイクロ波は、生体の大部分を構成する水分子の運動に影響を与える可能性があるため、生命計測においてはマイクロ波導入を最小限にすることが望まれている。そこで本研究では、まず、マイクロ秒レーザーパルス系列と EMCCD(Electron Multiplying CCD)カメラを用いた蛍光ナノダイヤモンドの全光学的選択イメージング法を考案し、既存の技術と比較して生細胞や動物個体などにおける大幅な SBR (Signal-to-Background Ratio)の改善に成功した。次に、蛍光ナノダイヤモンドを用いた光検出磁気共鳴(ODMR)計測におけるマイクロ波の掃引範囲を最適化することにより、200 μm × 200 μm を超える広範囲にわたって高精度で微小環境温度をイメージングする方法を提案した。この方法により、微小環境における温度決定精度が 1 K/Hz1/2 未満に達することも実証した。

全 4 章から構成される内容のうち、第 1 章の緒言では、「生命とは何か」という根源的な問いを掲げ、生命と非生命の間を結びつける体系の構築には物理学的な観点に基づく生命の一般化が必要であることを述べた。これを実現するためには、生体内の複雑な環境を温度、電場、磁場、粘度、pH などの物理・化学パラメータによって記述可能な系と捉え、生物個体(μm〜m)、細胞・細胞小器官(μm)、生体分子(nm)のそれぞれにおける事象をシームレスに繋ぐスケール横断的かつ網羅的な定量計測が求められる。そのため、蛍光イメージングや磁気共鳴イメージングなどの従来の生体イメージング技術では両立が困難であった「スケールの異なる複数の系への適用」と「複数の物理・化学パラメータの定量」の双方が可能な蛍光ナノダイヤモンドが生命の包括的な理解に有用であるとした上で、本論文の位置づけについて記した。

第 2 章では、マイクロ秒レーザーパルスを用いた広視野イメージングによる蛍光ナノダイヤモンドの全光学的選択イメージング法の開発について述べた。蛍光色素ローダミン-フ ァロイジンを塗布したカバースリップ(in vitro)から、染色試薬 JC-1 で染色した生細胞(in cell)、粒子状の自家蛍光を発する線虫(in vivo)、ラットの海馬スライス(ex vivo)などの生体 試料に至るまで、様々な系において本手法の適用性を検証した。その結果、全ての系にお いて蛍光ナノダイヤモンドを選択的にイメージングすることができ、SBR も大幅に向上し た。露光時間 100 ms、128 フレームで蛍光ナノダイヤモンドを探す場合、観察時間は 12.8 秒間であるが、マイクロ波の duty cycle が 0.5 の従来法では、観察時間の 50%にあたる 6.4 秒間にわたって生体試料にマイクロ波を照射することになる。一方、本章のイメージング 法を用いれば、マイクロ波照射時間は 0 秒間となる。また、線虫の系に関しては、蛍光ナ ノダイヤモンドの探索からパラメータ(温度)計測までの一連の操作を実演することにより、計測の工程を踏まえた実用性についても実証することができた。

第 3 章では、蛍光ナノダイヤモンドを用いた ODMR 計測により、200 μm×200 μm を超える広い領域にわたって高い精度で温度を計測する方法について述べた。モンテカルロ・シミュレーションおよび約 200 個の蛍光ナノダイヤモンド輝点の実測から、2 つのコーシー分布によるカーブフィッティングで最も精度良く温度決定できるのは 2860–2880 MHzの掃引範囲で ODMR 周波数スペクトルを取得した場合であることが明らかとなった。なお、その温度決定精度は 1 K/Hz1/2 未満にも達した。温度決定のための ODMR スペクトルの取得に 1 秒間かかる場合、duty cycle 0.5 より、従来の方法では、生体試料は 0.5 秒間のマイクロ波照射を受けることになる。よって、2 分間かけて60 回の温度決定を行った場合、マイクロ波の照射時間は 30 秒間となる。一方、本章の温度計測方法を用いれば、温度決定精度が 1.5 倍程度向上するため、1/1.52 倍の照射時間すなわち 13.3 秒間で従来法と同等の温度決定精度が得られることがわかった。

第 4 章の結言では、上記の第 2 章および第 3 章の結論を踏まえ、本研究全体を通した成果についてまとめている。先述の通り、12.8 秒間の観察で生体試料中の蛍光ナノダイヤモンドを探し出し、1 秒おきに 2 分間の温度計測を行う際、本研究で開発した低侵襲なイメージング法および温度計測方法を組み合わせて用いれば、マイクロ波の照射時間は 36.4 秒間から 13.3 秒間まで 63%以上も短縮することが可能である。本成果は、生命の本質理解を見据えた NVC ないし蛍光ナノダイヤモンドを用いた選択イメージングや微小環境定量計測の生体適合性を高める上で極めて有用な技術進展である。

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