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大学・研究所にある論文を検索できる 「Optogenetic regulation of astrocytes modulates hippocampal functions」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Optogenetic regulation of astrocytes modulates hippocampal functions

周, 至文 東京大学 DOI:10.15083/0002002530

2021.10.15

概要

【序論】
 アストロサイトはグリア細胞の一種であり、神経細胞や他のグリア細胞を構造的に支持するほか、脳機能の恒常性維持に必要不可欠な役割を果たしている。アストロサイトの多彩な機能を制御する細胞内因子として、cAMPが挙げられる。これまでのin vitro実験系による知見から、アストロサイトのcAMPシグナル活性化はアストロサイによるエネルギー供給や細胞外環境の維持を制御することが示唆されてきた。しかし、in vivo系におけるアストロサイトのcAMPシグナル活性化の役割は十分に解明されていない。その原因の一つとして、in vivo系でアストロサイト特異的にcAMPシグナルを活性化させる方法がほとんど存在しないことが挙げられる。この問題を克服すべく、私はin vivoでアストロサイト特異的にcAMP量を上昇させることができる遺伝子改変マウスを作製し、アストロサイトにおけるcAMPシグナル活性化が海馬の機能に与える影響を検証した。

【結果・考察】
1. Mlc1-tTA::tetO-GFP-2A-bPACマウスの作製
 本研究において、cAMPを上昇させる方法として、青色光刺激に応じてcAMPを合成するタンパク質「光活性化アデニル酸シクラーゼ(Photoactivated adenylyl cyclase, PAC)」を利用した。PACの中でも、特にベギアトア菌から発見されたbPACを採用した。また、アストロサイト特異的にbPACを発現させるために、tTA-tetOシステムを利用した。まず、Tetオペレーターの下流にbPACとレポーター蛍光タンパク質であるGFPを発現するtetO-GFP-2A-bPACマウスを作製した。これを、アストロサイト特異的なプロモーターであるMlc1の下流にtTAを発現するMlc1-tTAマウスと掛け合わせた。これにより、アストロサイト特異的にbPACを発現するMlc1
-tTA::tetO-GFP-2A-bPACマウス(以下Mlc1-bPACマウスと略す)を作製した。Mlc1-bPACマウスにおけるGFPの発現を免疫染色法を用いて調べたところ、GFPは脳全体に発現しており、アストロサイトのマーカーであるS100βと共局在していることが確認できた。

2. bPAC発現アストロサイトへの光照射の効果
 次に、私はMlc1-bPACマウスの皮質からアストロサイトの単離培養を作製し、光照射後のcAMP量をELISAにより測定した。光照射(1s/5s)によってアストロサイト細胞内のcAMP量が上昇した。なお、この上昇度はアデニル酸シクラーゼの作動薬であるforskolin、またはアドレナリンβ受容体作動薬isoproterenolによるcAMP量の上昇と同程度であった。さらに、cAMPセンサータンパク質を用いて培養アストロサイト内のcAMPのイメージングを行った。その結果、bPAC発現アストロサイトにおいて、単回または複数回の光照射に対し、cAMP量が急峻に上昇することを明らかにした。

3. Mlc1-bPACマウス海馬への光照射による記憶の調節
 アストロサイトによる神経細胞へのエネルギー供給や神経伝達物質の回収・放出は、神経活動の維持だけではなく、神経可塑性および記憶にも重要であると考えられる。そこで、私は記憶を担う脳領域の海馬に着目し、光操作による海馬アストロサイトのcAMPシグナル活性化が、海馬依存的空間記憶に影響を与える可能性を検証した。空間学習課題としては、物体位置認識試験を用いた。すなわち、学習時にマウスに同様な物体2つを探索させ、テスト時にはそのうち1つの物体を移動し、再びマウスにこれらの物体を探索させる。テスト時において、学習時の物体の位置を覚えているマウスは移動された方の物体をより探索するため、両物体を探索する時間差(弁別比)を用いて記憶の程度を評価した。記憶形成時、つまり学習直前、学習中または学習直後に光照射(10分;1s/5s)を行い、その4日後にテストを行い、記憶を評価した。光なし群のマウスは2つの物体を弁別できなかったが、学習中または学習直後の光照射を受けたマウスは物体を弁別できた。この結果から、記憶形成の時期にアストロサイトのcAMP量を上昇させた場合、より強固な記憶が形成されることが示唆された。次に、物体の位置を学習させた翌日に、マウスの両側海馬へ光照射(1時間;1s/5s)し、次の日にテストを行った。光照射を受けたMlc1-bPACマウスの弁別比は低下した。すなわち、アストロサイトcAMP量の上昇によって記憶の程度が減弱した。この結果から、アストロサイトのcAMP量の上昇は、形成された記憶の維持を阻害することが示された。そのメカニズムを調べるために、光刺激による神経活動/シナプス可塑性マーカーであるcFosの発現を調べた。結果として、光刺激によるアストロサイトcAMPの上昇が、神経細胞におけるcFosの発現を促進した。このことから、アストロサイトのcAMP上昇が、神経活動やシナプス可塑性を促進することで記憶に影響したと考えられる。

4. Mlc1-bPACマウス海馬への光照射によるけいれん発作の抑制
 海馬の神経活動は健常時において記憶や空間認知に重要であるが、その神経活動が過剰に亢進すると、けいれん発作を誘起することがある。また、アストロサイトもけいれん発作と深く関わっている。例えば、アストロサイトによるグルタミン酸やK+イオンの回収は神経活動の異常興奮を抑制する一方、アストロサイトによる神経細胞へのエネルギー供給はけんれん発作における神経細胞の過剰興奮の要因であることが知られている。そのため、Mlc1-bPACマウスを用いて海馬アストロサイトのcAMP量上昇が薬物誘導性けいれん発作に与える影響を検証した。マウスを試験用チャンバーに置き、20分後にけいれん発作誘導作用のあるpentylenetetrazo(lPTZ)を投与し、けいれん発作を誘起した。その結果、PTZ投与前から観察終了まで光照射を受けた群またはPTZ投与後に光照射を受けた群において、発作ステージ(重篤度)が低下した。さらに、光照射を受けた群では、重篤度の高い強直間代発作が完全に阻害された。このことから、アストロサイトのcAMPシグナル活性化が急性な抗けいれん作用を有することが示唆された。

【総括】
 本研究では、in vivoでアストロサイトのcAMP量を時間・空間分解能よく上昇させることができる遺伝子改変マウスの作製に成功した。また、海馬依存的記憶形成過程に関して、海馬アストロサイトのcAMP量が上昇するタイミングによって記憶の忘却または形成が促進されることを発見した。さらに、海馬アストロサイトのcAMP量上昇が急性けいれん発作を阻害することを発見した。以上のことから、アストロサイトのcAMPシグナル活性化が海馬神経細胞の可塑性および活動レベルに影響を与え、個体の行動に反映されることが示された。

参考文献

Zhou, Z., Tanaka, K.F., Matsunaga, S., Iseki, M., Watanabe, M., Matsuki, N., Ikegaya, Y., Koyama, R. Sci. Rep., 5: 19679, 2016.

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