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腹側被蓋野の神経活動による末梢免疫機能への影響

鹿山, 将 東京大学 DOI:10.15083/0002007134

2023.03.24

概要



査 の











腹側被蓋野の神経活動による末梢免疫機能への影響




鹿山



近年、情動などの精神状態と末梢免疫機能との関連が着目されている。例えば、臨床知見にお
いて、笑うこと (正の情動発現) により、末梢の Natural Killer 細胞の活性が高まることが知ら
れている (Bennett et al., Altern Ther Health Med., 2003)。逆に、負の情動が長期的に優位になって
いるうつ病患者は、感染症に罹患するリスクが高いことが知られている (Andersson et al., Int J
Epidemiol., 2016)。このような脳-末梢免疫連関を担う脳領域として、腹側被蓋野 (ventral tegmental
area, VTA) が挙げられる。VTA には、報酬や正の情動発現に関わるドパミン神経細胞が存在し、
これらの細胞の活性化が、末梢免疫系を制御している可能性が考えられる。実際に近年では、動
物実験において、このような現象が報告され始めている。例えば、ラットの VTA を電気刺激す
ることにより、末梢の Natural Killer 細胞の活性が高まることが知られている (Wrona et al., J
Neuroimmunol., 2004)。さらに、遺伝薬理学的手法により VTA ドパミン神経細胞を人工的に活
性化させると、一部の免疫機能が亢進し、癌や細菌への抵抗性が高まることが報告されている
(Shaanan et al., Nat Med., 2016; Nat Commun., 2018)。
この VTA ドパミン神経細胞の活動パターンは 2 つに大別される。 1 つ目は、断続的な高頻
度の活動 (Phasic 活動) であり、報酬に関連する刺激に応答して発生する。 2 つ目は、持続的
な低頻度の発火 (Tonic 活動) であり、ある種の嫌悪的な刺激に反応する。しかし、どのような
活動パターンが末梢免疫機能に影響を与えるかは未だ明らかではない。さらに、これまでの知見
の多くは人工的な刺激を行っており、自然な生理学的条件下において同様の現象が起こり得るか
は不明である。
本研究の目的は、VTA のどのような神経活動が、末梢免疫機能に影響を与えるかを明らかに
することである。具体的には、光遺伝学的手法を用いて、高い時間解像度をもって VTA ドパミ
ン神経細胞の活動の頻度や時間を操作し、どのような活動が末梢免疫機能に影響を与えるかを検
証した。また、自然な生理的条件下で同様の現象が見られるかを検証した。
VTA ドパミン神経細胞の活動を詳細に操作するために、光遺伝学的手法を用いた。初めに、
DAT-Cre マウスと RCL-ChR2 マウスを掛け合わせ、VTA ドパミン神経細胞にチャネルロドプシ
ン 2 (ChR2) を発現したトランスジェニックマウスを作製した。このマウスの右 VTA に光ファ
イバーを埋め込み、光刺激を行うことで、 VTA ドパミン神経細胞の活動を詳細に操作した。
このトランスジェニックマウスの VTA において、チロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞 (ドパ
ミン神経細胞) に ChR2 が発現したことを確認した。さらに、光刺激を行うことで、VTA にお
ける ChR2 陽性細胞中の c-fos 陽性細胞数が増加する傾向にあることを確認した。
報酬によって VTA ドパミン神経細胞は 15 Hz 程度の頻度で Phasic 活動する (Cohen et al.,
Nature, 2012)。この知見を踏まえ、報酬獲得時にみられるような高頻度な活動を再現するため、
Phasic 群を作製した。この群では、VTA を 12 時間、断続的かつ高頻度に光刺激した (472 nm,
~30 mW, 15 ms の刺激を 50 Hz の頻度で 25 回、10 秒間ずつ)。活動が高頻度であることが重
要であるかを検証するために、Tonic 群を作製した。この群では、VTA を 12 時間、持続的に光
刺激した (472 nm, ~30 mW, 15 ms の刺激を 2.5 Hz の頻度)。Tonic 群は、光刺激を行った回数
が Phasic 群と同じであり、頻度のみを変えている。さらに、光刺激を行っていない、光刺激な
し群も作製した。各群、光刺激を終了してから 3 時間後に採血を行い、数種の血清サイトカイ
ン値を測定した。その結果、Phasic 群で、血清 IL-2, IL-4, TNF-α 値が有意に増加した。一方で、
Tonic 群では、血清サイトカイン値の有意な変動は見られなかった。また、血清 IL-5, IL-10, IL-12,
IFN-α 値は有意に変動しなかった。これらの結果は、VTA ドパミン神経細胞の Phasic 活動の増

加が末梢免疫機能に影響を与える可能性を示唆している。
自然な生理的条件下での検討を行うために、オスマウスをメスマウスに遭遇させることで、
VTA ドパミン神経細胞を活性化させることを試みた。オスマウスをメスマウスに 2 時間遭遇さ
せた後、オスマウスの VTA の c-fos 陽性細胞数を免疫染色法にて測定した。メスマウスに遭遇
したオスマウスは、VTA におけるチロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞 (ドパミン神経細胞) 中
の c-fos 陽性細胞の割合が有意に増加した。さらに、その主な投射先である側坐核シェルにおけ
る c-fos 陽性細胞数が有意に増加した。一方で、海馬・内側前頭前皮質・側坐核コアでは、c-fos
陽性細胞数は有意に変動しなかった。これらの結果から、オスマウスがメスマウスに遭遇するこ
とで、VTA ドパミン神経細胞が活性化し、その主な投射領域である側坐核シェルが活性化した
可能性が示唆される。
VTA の神経活動を電気生理学的な視点から評価するために、オスマウスの右 VTA に電極を
埋め込むことで、脳波を記録した。そして、ホームケージにオスマウス 1 匹の状態 (遭遇前) と、
メスマウスに遭遇している状態 (メスマウス遭遇時) で、それぞれ 30 分間記録を行った。各周
波帯域の強度を定量したところ、メスマウス遭遇時に、Slow ガンマ強度 (20-50 Hz) と Fast ガ
ンマ強度 (50-80 Hz) が有意に増大した。一方で、デルタ強度 (2-4 Hz) やシータ強度 (4-8 Hz) の
有意な変動は見られなかった。さらに、このような Slow ガンマ強度と Fast ガンマ強度の変動
が脳全体で起きているわけではないことを確認するために、同様の検証を内側前頭前皮質と扁桃
体でも行ったが、各周波帯域の強度の有意な変動は見られなかった。これらの結果は、電気生理
学的な視点からも、オスマウスがメスマウスに遭遇することで、VTA が活性化した可能性を示
唆している。
次に、この実験系を用いて末梢免疫機能を評価した。まず、オスマウスをメスマウスに 2 時
間遭遇させ、直後に採血を行い、血清サイトカイン値を定量した。結果として、メスマウスに遭
遇した群は、血清 IL-2 値が有意に増加した。一方で、血清 IL-5, IL-10, TNF-α 値は有意に変動
しなかった。
さらに、VTA の神経活動を抑制することで、この現象に VTA が関与するかを検証した。右
VTA に薬物投与用のカニューレを埋め込み、神経活動を抑制するためにムシモル・バクロフェ
ン混合液を投与した。コントロールをとるために、生理食塩水を投与した群も作製した。そして、
メスマウスに 2 時間遭遇させた。生理食塩水を投与した群では、メスマウスに遭遇した群で血
清 IL-2 値が有意に増加した。一方で、ムシモル・バクロフェン混合液を投与した群では、メス
マウスに遭遇した群で血清 IL-2 値の有意な増加は見られなかった。メスマウスに遭遇した群同
士で比較すると、ムシモル・バクロフェン混合液を投与した群では、生理食塩水を投与した群に
比べて、血清 IL-2 値が有意に減少した。これらの結果は、自然な生理学的条件下であっても、
VTA の神経活動を介して、末梢免疫機能が変動する可能性を示唆している。
本研究では、光遺伝学的手法を用いることで、VTA ドパミン神経細胞の Phasic 活動が末梢
免疫機能に影響を与える可能性が示唆された。VTA と末梢免疫系との関連を調べた研究におい
て、ドパミン神経細胞の活動の頻度による違いに迫った知見は、本研究が初めてである。さらに、
オスマウスをメスマウスに遭遇させることで、 VTA が活性化することが示唆された。また、こ
のような自然な生理的条件下でも、VTA の神経活動を介して、末梢免疫機能が変動する可能性
が示唆された。自然な生理的条件下において、特定の脳領域と末梢免疫系との関連に迫った知見
は少なく、意義深いものであると考える。本研究の成果は、末梢免疫機能に影響を与えうる、脳
内の神経活動の一端を明らかにした点で有意義である。
よって本論文は博士(薬学)の学位請求論文として合格と認められる。

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