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大学・研究所にある論文を検索できる 「Conditional Ror1 knockout reveals crucial involvement in lung adenocarcinoma development and identifies novel HIF-1α regulator」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Conditional Ror1 knockout reveals crucial involvement in lung adenocarcinoma development and identifies novel HIF-1α regulator

磯村, 久徳 名古屋大学

2021.07.26

概要

【緒言】
我々はこれまでに、正常末梢肺の発生や分化をリネジ特異的に制御する転写因子である NKX2-1/TTF-1 遺伝子が、肺腺がんの生存に必要なことを示すとともに、その標的遺伝子として受容体型チロシンキナーゼ ROR1 を同定し、肺腺がん細胞株の増殖及び生存における重要性を明らかにしてきた。本研究においては、Ror1 コンディショナルノックアウトマウスを作成し、変異 EGFR トランスジェニックマウスと交配した肺腺がんモデルを樹立し、Ror1 の肺腺がんの発生と増殖における役割を個体レベルで明らかとすることを目指した。また、それに関わる ROR1 の新たな分子機能の探求を進めた。

【方法】
Cre-ER タンパク質によってタモキシフェン存在下で Ror1 遺伝子をコンディショナルにノックアウトできる Ror1f/f;CAG-CreER マウス及びヒト変異 EGFR 遺伝子の末梢肺特異的な発現によって肺腺がんを発症する SPC-hEGFRdel746-750 マウスを樹立して交配し、Ror1f/f;CAG-CreER; SPC-hEGFRdel746-750 マウス(以下 RCE マウス)を作成した (Fig. 1A,1B)。腫瘍形成前或いは形成後の RCE マウスにタモキシフェンを投与し、生存期間、腫瘍発生、腫瘍増殖及び遺伝子発現について検討した。

【結果】
Ror1f/f;CAG-CreER マウスにタモキシフェンを投与して Ror1 をノックアウトしたところ、肺およびその他主要臓器において明らかな異常所見は観察されず、また体重減少もなく生存期間にも異常を認めなかった。次に RCE マウスを用いて、肺腺がんの発生における Ror1 の重要性について検討を加えた。RCE マウスにおいては、8 週齢から 16 週齢にかけて肺腺がんの発生が検出された(Fig. 1C,1D)。また、ヒト肺腺がんと同様に、正常肺組織に比して腫瘍組織において Ror1 と Ttf-1 が高く発現されており、癌胎児性の発現パターンが検出された(Fig. 1E,1F)。

RCE マウスにおいて、腫瘍形成前よりタモキシフェンを投与して Ror1 をノックアウトしたところ、腫瘍の発生が有意に抑制され、マウスの生存期間は顕著に延長した (Fig. 2A-2C)。また、病理学的な解析において、Ror1 のノックアウトによって腫瘍組織における肺胞構造の破壊が抑制されることを見出した(Fig. 2D)。次に、腫瘍が形成されてから RCE マウスにタモキシフェンを投与し、肺腺がんの増殖における Ror1 の重要性について検討した。そのために 11 週齢より肺の CT 画像を毎週取得し、3mm2以上の大きさの腫瘍が検出された時点よりタモキシフェンを投与して Ror1 をノックアウトした。その結果、Ror1 のノックアウトによって腫瘍の増大が顕著に抑制され、マウスの生存期間が有意に延長されることが明らかとなった(Fig. 3A-3C)。以上の結果より、Ror1 は肺腺がんの腫瘍発生と増殖において重要な役割を担っていることが明らかとなった。

我々はこれまでに細胞株を用いて、ROR1 が EGFR 等の受容体型チロシンキナーゼによる AKT 及び p38 の活性制御に関わることを報告してきたが、Ror1 をノックアウトした腫瘍組織では Akt や p38 及び、EGFR や Met 等の活性化に明らかな変化は見られなかった(Fig. 4A)。樹立した肺腺がんモデルマウスにおいては、変異 EGFR トランスジーンが非常に高く発現されており、そのために Ror1 を必要としなくなっている可能性が考えられた。

一方で、増殖マーカーである Mcm2 の陽性細胞率には、有意な低下が検出されたた (Fig. 4B)。そこで gene set enrichment analysis (GSEA)解析を用いて、Ror1 のノックアウトによって肺腺がん腫瘍組織で影響を受けている遺伝子群を探索したところ、低酸素応答遺伝子群の顕著な低下が検出された(Fig. 4C)。また、肺腺がん細胞株 NCI-H1975及び PC-9 における ROR1 のノックダウンは、正常および低酸素下の何れにおいても低酸素応答の主要な制御因子である HIF-1α と、その標的遺伝子である LOX の発現低下を惹起した(Fig. 5A,5B)。HIF-1α mRNA の発現は、ROR1 のノックダウンによって有意に影響されない一方で(Fig. 5C)、タンパク質はプロテアソーム阻害剤(MG132)存在下においても減少し(Fig. 5D)、転写レベルやユビキチン化を通じたタンパク質分解以外の制御機構の存在が示唆された。また、siRNA 耐性サイレント変異を持つ ROR1 を導入した検討において、HIF-1α の発現制御のキナーゼ活性依存性を示唆する結果を得た(Fig. 6)。

【考察】
TTF-1 が、肺腺がんのリネジ特異的がん遺伝子であることを報告してきたが、TTF-1そのものは、正常肺においてサーファクタントタンパク質の産生と分泌などの重要な生理機能を担っているため治療標的となり得ない。その後我々は、ROR1 が TTF-1 による転写活性化を受ける標的遺伝子であり、がん遺伝子としての TTF-1 の下流において重要な役割を担っていることを明らかとしている。また、ROR1 が様々ながんにおいて細胞増殖やアポトーシス、がん幹細胞、EMT などに関与しているとの報告がなされ、近年 ROR1 にはがん治療の分子標的としての期待が高まっている。しかしながら一方で、ROR1 のがんの発生や増殖における重要性について個体レベルで検討した報告はなされていない。

本研究は、Ror1 遺伝子をコンディショナルにノックアウトできる肺腺がんマウスモデル系を樹立して詳細な検討を加え、Ror1 が肺腺がんの発生と増殖に極めて重要なことを、世界に先駆けて個体レベルで明らかとしたものである。また、本研究を通じて、低酸素応答の主たる制御因子として細胞増殖、血管新生、転移等の制御に関わることが知られている HIF-1α の発現を、ROR1 が制御していることも、今回初めて明らかとなった。ROR1 による HIF-1α の発現制御のさらなる分子機序解明が待たれる。

【結論】
今回我々は Ror1 コンディショナルノックアウトマウスを樹立し、Ror1 が肺腺がんの発生及び増殖において重要な役割を担っていることを、初めて個体レベルで明らかにした。また、ROR1 が低酸素応答において中心的な役割を果たす転写因子の HIF-1αの発現をキナーゼ活性依存的に制御していることを明らかにした。これらの新知見は、 ROR1 の肺腺がんの治療標的としての有用性を一層強く示唆するものである。

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