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大学・研究所にある論文を検索できる 「CD109 regulates in vivo tumor invasion in lung adenocarcinoma through TGF‐β signaling」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CD109 regulates in vivo tumor invasion in lung adenocarcinoma through TGF‐β signaling

滝, 哲郎 名古屋大学

2021.04.23

概要

【緒言】
 肺腺癌の間質浸潤及びそれに伴う癌間質の形成は最も重要な予後規定因子の一つであるが、そのメカニズムについては未だ不明な点が多い。当教室ではGPIアンカー型膜タンパク質CD109が様々な悪性腫瘍に発現しており、予後規定因子であることを報告してきたが、近年CD109が肺腺癌においても予後不良に関わることが報告された。しかしながら、その分子機構については解明されておらず、組織学的な検討もなされていない。今回我々は、肺腺癌におけるCD109の機能解析を行った。

【方法】
 免疫組織化学染色を行いてヒト肺腺癌組織におけるCD109発現を評価し、臨床病理学的解析を行った。Cre recombinaseの経気道投与によって肺胞上皮特異的にK-Rasとp53遺伝子の変異を誘導する肺腺癌自然発症マウスモデル(KPマウス)とCD109ノックアウトマウスを掛け合わせ、CD109ノックアウトマウスと野生型マウスで形成される腫瘍の組織学的評価及び予後観察を行った。ヒト肺癌細胞株A549、H1299細胞のCD109ノックアウト細胞/強制発現細胞を作成し、invitroでのCD109の機能解析を行った。免疫沈降及び質量分析を用いたCD109結合分子の網羅的検索を行い、さらに下流シグナルの解析を行った。

【結果】
 ヒト肺腺癌切除材料において、CD109は正常肺胞上皮あるいは腺癌の非浸潤性病変では陰性である一方、浸潤性病変、特に組織学的に高悪性度と判定される部位では陽性になることを発見した(Figure.1A)。また、CD109発現により自験例をCD109低発現群・高発現群の2群に分類し検討した所、CD109高発現群は低発現群と比較して浸潤径が大きい・組織学的悪性度が高い・脈管侵襲が多いなどの特徴を示し、有意に予後不良であった(Figure.1B-D, Table.1)。さらに、多変量解析にてCD109高発現が独立した予後不良因子であることも示された(Table.2)。
 肺腺癌モデルマウスでは、野生型マウスと比較してCD109ノックアウトマウスで腫瘍面積が小さく、間質浸潤の乏しい低悪性度の腫瘍が形成されており、予後は有意に良好であった(Figure.2A-G)。
 続いて、ヒト肺癌細胞株A549にてCD109ノックアウト細胞を、H1299にてCD109強制発現細胞を作成し(Figure.3A, B)、CD109が肺癌細胞の浸潤能・移動能を亢進することを見出した(Figure.3C-F)。また、H1299でorganotypic culture法を用いて浸潤能を評価したところ、CD109強制発現により浸潤能が増強されることが明らかとなった(Figure.3G, H)。
 以上の結果から、CD109が肺腺癌の間質浸潤を促進することが示された。肺腺癌の間質浸潤にはしばしば線維性の癌間質の形成を伴い、それが重要な予後規定因子であることが知られているため、ヒト・マウスの肺腺癌組織の癌間質に着目し解析を追加して行った。ヒト肺腺癌では、CD109高発現群にてscar gradeで表される膠原線維性癌間質の形成が促進されていることが明らかになった(Figure.4A.B)。さらに、肺腺癌マウスモデルでは野生型マウスにて、CD109ノックアウトマウスと比較して活性化した癌関連線維芽細胞マーカーであるαSMA陽性領域の増加を認めた(Figure.4C, D)。
 続いて、分子機構の解析のため、CD109を強制発現させたH1299及びHEK293を用いて、免疫沈降及び質量分析を組み合わせたCD109結合分子の網羅的な検索を行った(Figure.5A-C)。その結果、CD109結合分子として間質タンパク質latent transforming growth factor beta binding protein 1 (LTBP1)を同定し、HEK293及び肺癌細胞株H460において免疫沈降を行いCD109とLTBP1の結合を確認した(Figure.5D-G)。LTBP1は活性のない潜在型TGFβに結合するタンパク質で、他のタンパク質との相互作用によりTGFβを活性型として放出する機能を有している。そのため、活性型TGFβを定量するLuciferaseアッセイを行うと、CD109がLTBP1存在下でTGFβ活性化を促進することが明らかになった(Figure.6A-D)。また、ヒト肺癌組織において、CD109及びLTBP1が共に高発現する領域において間質におけるSmad2のリン酸化が亢進していることを見出した(Figure.6E, F)。これらの結果により、CD109による間質浸潤制御の機序として、LTBP1を介するTGFβ活性化機構が関わっていることが示唆された。

【考察】
 本研究は、CD109が肺腺癌における癌の間質浸潤を促進する重要な因子であり、肺腺癌の予後不良に大きく関わっていることを明らかにした。また、興味深いことにCD109はヒト・マウス肺腺癌組織における間質反応に強い関係があり、これらの機序としてCD109とLTBP1の相互作用によるTGFβシグナル制御機構を見出した。癌細胞の間質浸潤には癌細胞・癌間質の相互作用が重要であり、TGFβはその中で中心的な役割を果たすことが知られているため、本研究結果は肺腺癌の間質浸潤のメカニズムの解明の重要な手がかりになる可能性がある。
 しかしながら、特に皮膚扁平上皮を含む上皮細胞においては、CD109はTGFβシグナルを抑制的に制御していることが報告されており、癌細胞・癌間質それぞれにおけるCD109のTGFβシグナルに対する挙動の違い及び詳細な分子機構については、さらなる解析が必要であると考えられる。

【結語】
 CD109は肺腺癌の間質浸潤制御因子である。その機序として、LTBP1を介したTGFβ活性化制御機構を見出した。