Combination Therapy with Novel Androgen Receptor Antagonists and Statin for Castration-Resistant Prostate Cancer
概要
本研究の目的は、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞株に対して新規アンドロゲン剤とスタチンを併用すると腫瘍増殖が抑制されるか否かを検討することである。
前立腺癌症例は初期にはホルモン療法に対する感受性は良好であるが、徐々にホルモン療法に対して抵抗性を有し、最終的に去勢抵抗性前立腺癌となり治療が困難となる。去勢抵抗性前立腺癌に対して新たな治療法が必要と考える。HMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチンは高コレステロール血症の治療薬として広く使用され、その作用に加えてスタチンが前立腺癌に対して抗腫瘍効果があることが報告されており、脂質代謝と前立腺癌の関係性は非常に重要である。前立腺癌に対する抗腫瘍効果の一つに、蛋白分解によるアンドロゲンレセプター(AR)の発現抑制が報告されている。今回、スタチンと新規抗アンドロゲン剤を併用することにより、ARを相乗的に抑制して抗腫瘍効果の増強が可能であるか評価を行なった。
今回、先ず前立腺癌細胞LNCaPをアンドロゲン除去下で長期培養し、ホルモン非依存性前立腺癌(LNCaP-LA)を作成した。また元々アンドロゲン非依存性の性質も持つ22Rv1も研究に使用した。これらの細胞を去勢抵抗性前立腺癌に見立てて、スタチン(simvastatin: SIM)と新規の抗アンドロゲン剤(enzalutamide, apalutamide, darolutamide: DAR)を投与したところ、併用による腫瘍増殖抑制効果の増強が確認できた。その中で、SIMとDARの併用による腫瘍増殖抑制効果が最も強かったため、この2剤の併用に着目して解析を行なった。更に22Rv1を用いてヌードマウス腫瘍異種移植モデルを作成してSIMとDARの併用投与したところin vivoにおける抗腫瘍効果を確認できた。
この腫瘍増殖抑制のメカニズムを解明するため、LNCaP-LAにSIMとDARを投与するとARの下流シグナルであるPSAとKLK2が単独投与と比べて併用によってより強く抑制されていたが、22Rv1ではPSAとKLK2は2剤を併用しても抑制されていなかった。腫瘍増殖抑制メカニズムとして、Androgen signal pathwayだけでなく別のメカニズムも存在すると考え、22Rv1にSIM単独とSIMとDARを併用してmicroarrayとpathway解析を行い、最も遺伝子変化の多かった”cell cycle”に関わる遺伝子群の中で前立腺癌細胞株に対する報告のあったPLK1, CDK2, CDC25Cに着目した。22Rv1に対してSIMとDARを併用すると、これらのmRNAと蛋白抑制されていることが確認された。更にこの作用機序にARが関与しているか確認するために、ARが欠乏している前立腺癌細胞株PC-3を用いて評価を行うと、SIMとDAR併用によって細胞増殖の抑制とPLK1, CDK2, CDC25CのmRNAと蛋白抑制が確認された、このことからSIMとDAR併用によるcell cycleの抑制はAR以外の経路の関与が示唆された。結論として、SIMとDARの併用することでcell cycle抑制によりアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞株に対する抗腫瘍効果を有意に高めることを示した。この結果は前立腺癌に対する新たな治療に貢献できる可能性があると思われる。