トカマク型核融合プラズマのためのRF加熱を用いた先進的プラズマ電流立ち上げ
概要
トカマク型装置でプラズマ平衡を得るにはプラズマ電流が不可欠である。トカマク型装置におけるプラズマ電流立ち上げは、一般的には装置中心部の中心ソレノイド(CS)コイルによる誘導起電力を利用する誘導方式で行われる。ベータ値が高く経済的に有利な球状トカマクではCS コイル断面積が小さく誘導方式は不向きであり、非誘導方式のプラズマ電流立ち上げ手法の確立が必要である。非誘導方式の一つである電子サイクロトロン共鳴加熱・電流駆動(ECH/ECCD)によるプラズマ電流立ち上げは、真空容器内に特別な構造物の設置が不要で、⾧時間運転可能な高周波装置を用いるため汎用性が高い有効な手法である。これまでに基本波ECH を用いたプラズマ電流立ち上げについて数多くの研究がなされ、高い実績があげられてきた。しかしながら、プラズマ周波数が電子サイクロトロン共鳴周波数を超える高密度プラズマが生成されると基本波ECH を用いることができない。本論文では、高密度プラズマを加熱可能な高周波加熱として、磁力線に対して斜めに伝搬する Quasi- eXtraordinary mode (QX-mode)の第二高調波 ECH/ECCD、及び Slow wave eXtraordinary mode(SX-mode)の高磁場側入射(高磁場側入射)による電子バーンシュタイン波(EBW)加熱の 2 種類の非誘導方式のプラズマ電流立ち上げを実験的に評価した結果を記述する。QX- mode 第二高調波 ECH/ECCD による立ち上げでは、高調波 ECH 特有と考えられるバルク電子加熱からテール電子加熱への移行現象(電子エネルギー移行)を実験的に発見し、電子サイクロトロン波(ECW)の高周波電力吸収量の評価により発生機構を明らかにした。高磁場側入射による EBW 加熱を用いた方式では、パラメトリック崩壊不安定性(PDI)による崩壊波(PDW)の観測から EBW の励起を検証し、EBW 加熱によるトカマク配位形成を実証した。本論文は上記の研究について以下に示す 6 章構成で記述する。
第 1 章では、核融合反応、プラズマ閉じ込め、トカマクについて解説し、球状トカマクの経済的有効性と球状トカマクにおける非誘導方式のプラズマ電流立ち上げの重要性について示し、本研究の位置づけを示す。
第 2 章では、QX-mode の第二高調波 ECH/ECCD、及び SX-mode の高磁場側入射によるEBW 加熱を用いた非誘導方式のプラズマ電流立ち上げ研究の意義を述べる。
第 3 章では高周波加熱によるプラズマ加熱、電流駆動を解説する。まず ECW について分散関係を解説しO-mode、X-mode の伝搬、吸収、遮断についての関係式を示す。さらに、電子サイクロトロン共鳴条件を示し、斜め入射時にはドップラー効果が強く表れることを示す。そして、ECCD の機構としてFisch-Boozer 効果と電流駆動効率を低減する大河効果について解説する。次に EBW の分散関係を解説し、ECW からEBW への 3 つのモード変換方法を述べる。また、EBW の励起時に発生する PDI とPDW 周波数について解説する。
第 4 章では、28GHz の ECW を用いた QX-mode 第二高調波 ECH/ECCD によるプラズマ電流立ち上げ実験について纏めている。実験方法、使用した主な計測装置について述べた上で、典型的な電子エネルギー移行を示す観測された特徴を報告する。電子エネルギー移行は3 段階(A, B, C 段階)の過程により発生している。A 段階では、140 eV 程度の高いバルク電子温度、13 kA 程度の低いプラズマ電流の観測より、バルク電子加熱が示され、B 段階ではプラズマ電流は同程度でありながらもバルク電子温度が減少に伴い硬 X 線が観測され始め、バルク電子加熱からテール電子加熱への加熱の移行が見られた。C 段階では、バルク電子温度は 10 eV 程度で一定でありながら、硬 X 線強度の増加と共に 50 kA 程度までの急激なプラズマ電流上昇を観測しテール電子加熱が示された。電子エネルギー移行の発生機構の解明のためバルク電子、テール電子に対する高周波電力吸収量の数値解析を行った。シングルパス吸収を仮定して光線追跡コードRT-4 から得られるECCD による駆動電流量と実験時の駆動電流量、及びテール電子温度・密度を含め計算した蓄積エネルギーと磁気面再構成コードEFIT から得られる実験時の蓄積エネルギーのそれぞれを比較し、双方を満たすテール電子温度、密度における高周波電力吸収量を見積もった。これにより、テール電子加熱時はテール電子の高周波電力吸収量が大半であることが示された。パワーバランスに基づいたマルチパス吸収の評価でも同様に、テール電子加熱時はテール電子の高周波電力吸収量が主となることが示された。このことにより電子エネルギー移行の発生機構として、テール電子の増加に伴ってテール電子の高周波電力吸収量がバルク電子の高周波電力吸収量を上回ると、バルク電子は加熱されず低温となり高周波電力吸収効率が低下し、テール電子は高温となり高周波電力吸収効率が増大するため、テール電子加熱が促進され続ける機構が形成されることが示された。相互相関解析から、電子密度一定時に水素原子密度に依存する水素原子のバルマー系列であるHα光強度の減少が急激なプラズマ電流上昇より数 10 msec 程度先んじて発生していることを明らかにした。Hα光強度の減少は電子-中性粒子衝突の低下を示すため、中性粒子の減少により電流を担うテール電子の生成が促進され、プラズマ電流が増加すると考えられる。高速カメラ画像解析から CS 壁面と接するプラズマ領域の大きさと Hα光強度との相関が強く、これによりプラズマ-壁相互作用がプラズマ電流立ち上げに影響を与えていることが明らかになった。
第 5 章では、高磁場側入射による EBW 加熱を用いた非誘導方式プラズマ電流立ち上げ実験について纏めている。高磁場側入射による EBW の励起を明確にするため、O-mode 低磁場側入射(低磁場側入射)と比較した。開いた磁気面配位のプラズマにおいて、高磁場側入射では低磁場側入射の場合に比べプラズマ電流が 4 倍程度高く、線積分電子密度も 2 倍程度高くなることを確認した。真空容器外側に設置したアンテナを用いた漏洩高周波観測による高周波電力吸収効率推定において高磁場側入射では高周波電力吸収効率が 90%以上であることを示した。EBW の励起を確認するため、低磁場側から静電プローブを挿入し、得た信号の高速フーリエ変換解析を行うことで、PDW の検証を行った。トムソン散乱計測で得られた電子密度、温度分布より、高域混成共鳴(UHR)層位置、R ~ 575 mm(高磁場側入射)、R ~ 600 mm(低磁場側入射)においてPDW 周波数は 95MHz 程度である。高磁場側入射では低磁場側入射では観測されない 80-120 MHz にスペクトルが観測され、これにより高磁場側入射においてのみEBW の強い励起を確認した。さらに閉磁気面形成のため外部垂直磁場曲率を調整し、高磁場側入射のみで閉磁気面の形成が確認され、プラズマ電流は 4 kAに達した。一方、低磁場側入射では、プラズマ電流値は 0.5 kA に留まった。この電流が EBWCD によるものかを確認するために、トロイダル磁場を反転させ EBWCD で期待される電流反転効果の確認をしたところ、反転効果は確認できなかった。これらの結果から、 EBW による高効率のプラズマ加熱が、閉磁気面形成に十分な圧力駆動電流を生み、閉磁気面が形成されたことを確認した。
第 6 章では、本論文全体の結果を纏めている