磁場閉じ込め高温プラズマにおける電子密度および電子密度揺動計測のためのレーザー計測開発と揺動および熱,粒子輸送の水素同位体効果
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
磁場閉じ込め高温プラズマにおける電子密度および
電子密度揺動計測のためのレーザー計測開発と揺動
および熱,粒子輸送の水素同位体効果
木下, 稔基
https://hdl.handle.net/2324/6787651
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(工学), 課程博士
バージョン:
権利関係:
(様式3)Form 3
氏
名 :木下 稔基
Name
論 文 名 :磁場閉じ込め高温プラズマにおける電子密度および電子密度揺動計測のためのレーザー
計測開発と揺動および熱,粒子輸送の水素同位体効果
Title
区
分 :甲
Category
論 文 内 容 の 要 旨
Thesis Summary
核融合発電は化石燃料を必要とせず,二酸化炭素および高レベルの放射性廃棄物を排出しないことから,脱
炭素社会を実現するための有望なエネルギー源に位置付けられている.将来の核融合炉では,比較的核融合反
応が起こりやすい重水素(D)と三重水素(T)を用いた D-T 核融合反応の利用が想定されている.核融合炉におい
て核融合反応で生じたアルファ粒子による加熱により加熱の大部分を担うためには,プラズマを高温(1億度),
高密度(1×1020m-3),閉じ込め時間1秒で定常に維持する必要がある.
トーラス型磁場閉じ込め核融合装置の代表的な方式として,トカマク型とステラレータ/ヘリオトロン型が
ある.トカマク型は世界中で幅広く研究されており,現在,フランスにおいて建設中の ITER や,日本におい
て建設中の JT-60SA もこれにあたる.トカマク型ではエネルギー増倍率が1となる臨界条件(閉じ込め三重積=
イオン密度×イオン温度×閉じ込め時間~3×1019m-3s)を概算で達成しているものの,定常運転に課題がある.
一方,ステラレータ/ヘリオトロン型は,トカマク型に比べて閉じ込め三重積は劣るものの,外部コイルのみで
閉じ込め磁場を形成するため,安定な定常運転が可能な核融合炉として期待されている.
D-T 反応で用いる三重水素は放射性物質であり,発生した高エネルギー中性子は装置本体やその周辺機器
を放射化するため,実験段階では取り扱いが困難である.そのため,現在の磁場閉じ込め高温プラズマ装置の
ほとんどが軽水素もしくは重水素を用いて実験が行われている.そして,軽水素,重水素における輸送特性の違
いと,それを形成する物理機構を明らかにすることにより,将来の D-T 核融合炉の閉じ込め特性を予測するこ
とが試みられている.プラズマ中の輸送は粒子軌道と電子-イオンのクーロン衝突で決まる新古典輸送のみでは
説明できず,密度,温度およびポテンシャルの微視的な乱流揺動により駆動される異常輸送が閉じ込め性能劣
化の原因となっている.よって,乱流揺動および輸送の同位体効果を明らかにすることは極めて重要な課題で
ある.トカマク型では軽水素,重水素に加え,三重水素を用いた同位体効果の研究が実施されており,コアプ
ラズマの輸送の同位体効果はおおよそ理解されている.一方,ステラレータ/ヘリオトロン型における同位体効
果は核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD: Large Helical Device)において重水素実験が開始されるま
でほとんど研究されていなかった.
本研究の目的は,LHD の軽水素および重水素プラズマにおける乱流揺動および輸送の同位体効果を明ら
かにすることである.そのために物理研究と並行して 2 種類の計測開発を行った.1 つは波長 10.6mm の CO2
レーザーと波長 4.6mm の量子カスケード(QC: Quantum cascade)レーザーを用いた 2 波長レーザー干渉計の
開発であり,計測精度および安定性の向上に成功した.その結果,高密度における安定かつ詳細な密度分布計
測および巨視的な不安定性の詳細計測が可能となった.もう 1 つは電子密度揺動計測として LHD で稼働中の
2 次元位相コントラストイメージング (2D-PCI: two-dimensional phase contrast imaging) で計測した乱流
揺動振幅の絶対値評価およびその妥当性の検証であり,これにより,微視的乱流揺動の輸送に対する定量的な
議論を可能にした.一方,乱流揺動および輸送の同位体効果に関する物理研究では,LHD において軽水素お
よび重水素プラズマの密度スキャン実験を実施し,2D-PCI で計測した乱流揺動の同位体効果の出現は支配的
な乱流揺動に依存することを明らかにした.また,乱流揺動は熱輸送と電子密度依存性および同位体効果にお
いて同じ依存性を示すことを明らかにした.
本論文では,上記の 2 種類の計測器開発と物理研究について以下のようにまとめた.
第 1 章では,核融合発電の重要性と LHD における閉じ込めの同位体効果を明らかにするための計測と閉
じ込め物理研究の課題について述べた.第 2 章では,電子密度および巨視的電子密度揺動の高精度・高空間分
解能計測を目指し,
新規導入した空間80チャンネルのCO2/QCレーザーイメージング干渉計の開発を述べた.
第 3 章では,2D-PCI により計測した乱流揺動振幅の絶対値評価を行い,非線形シミュレーションとの定量的
な比較を行った.第 4 章では,LHD の電子サイクロトロン共鳴加熱 (ECRH: electron cyclotron resonant
heating) プラズマにおける 2D-PCI で計測した乱流揺動を体系的に整理し,揺動のプラズマパラメータ依存性
およびシミュレーションによる揺動の同定研究について述べた.また,観測された乱流揺動と熱・粒子輸送の
電子密度依存性および同位体効果について議論した.第 5 章では,本研究結果を総括し,今後の展望について
述べた.
本研究により以下の成果を得た.
1)
CO2/QC レーザー干渉計は,ITER への導入が検討されている有望な高密度プラズマにおける電子
密度計測手法であるが,これまで高温プラズマを計測した結果は報告されていない.本研究ではベンチテ
スト実験を通じて最適な光学系を検討した後,LHD に導入し,CO2/QC レーザーイメージング干渉計によ
る電子密度計測に初めて成功した.
2)
CO2/QC レーザーイメージング干渉計で用いた QC レーザーは,過去に開発された CO2/YAG レー
ザーイメージング干渉計で用いた波長 1.06mm の YAG レーザーと比べ,
長波長であるため干渉信号が安定
し,計測精度および計測の安定性が改善した.さらに,LHD で基幹計測として稼働している遠赤外レーザ
ー干渉計と比べ,空間分解能に優れているため,アーベル変換による電子密度分布の評価精度が向上し,
詳細な電子密度分布の評価が可能となった.
3)
2D-PCI は,波数の絶対値評価はできていたが,揺動振幅の絶対値計測が困難であった.本研究で
はベンチテスト実験を通じて揺動振幅の絶対値評価およびその妥当性の検証を実施した.その後,LHD に
おける揺動計測結果に適用することで,プラズマの内部閉じ込め領域である規格化位置 0.5 において電子密
度揺動は電子密度に対して 0.1%以下の非常に微小であることを明らかにし,これは非線形シミュレーショ
ンにより求めた波数スペクトルともよい一致を示した.
4)
LHD の ECRH プラズマにおける重水素プラズマの閉じ込め改善は,先行研究でも報告されてい
たが,物理機構の解明には至っていなかった.本研究では加熱条件を慎重にそろえた体系的な電子密度ス
キャン実験を実施することで,閉じ込め時間,輸送および揺動に同位体効果が見られない低密度領域と重
水素プラズマにおいて閉じ込め時間が伸長し,輸送が低減し,揺動が抑制される高密度領域が存在するこ
とを明らかにした.
5)
高密度領域の重水素プラズマにおける揺動抑制の原因を明らかにするために,観測された乱流揺動
のプラズマパラメータ依存性および 2 種類の線形シミュレーションの線形計算結果を示した.その結果,
同位体効果が観測されなかった低密度領域ではイオン温度勾配乱流が支配的であり,同位体効果が観測さ
れた高密度領域では抵抗性交換型(RI: resistive interchange)乱流が支配的であることを明らかにした.RI
乱流の線形成長率はイオン質量の-1/3 乗,プラズマ抵抗の 1/3 乗(電子温度の-1/3 乗)
,圧力勾配の 2/3 乗
に比例する.したがって,高密度領域の重水素プラズマにおける揺動の抑制は,電子加熱下において重水
素プラズマは軽水素プラズマと比べて電子温度が高く,イオン質量は重いこと,内部領域では電子密度分
布の凹型が大きくなることから圧力勾配が低減したため,RI 乱流が抑制されたためであることが明らかと
なった.
6)
RI 不安定性は磁気丘配位となる LHD 型のヘリオトロン装置で不安定となるが,通常のトカマク
型では磁気井戸配位であるため安定となる.しかし,トカマク型の負磁気シア,逆 D 配位および,最外殻
磁気面外側領域の弱磁場側では磁気丘条件となり RI 乱流が不安定となる.よって,本研究成果はトカマク
の特定の配位においても適用することができる.また,将来のステラレータ/ヘリオトロン型の磁場配位の
最適化において RI 乱流による閉じ込め劣化を避けるために磁気丘配位は避けるべきである.このように本
研究成果は LHD 型装置の同位体効果の理解にとどまらずトカマク装置の同位体効果の理解や,将来のステ
ラレータ/ヘリオトロン型装置の磁場配位最適化にも適用可能な知見である.