がん患者の死亡直前期予後予測におけるSurprise Questionの有用性に関する検討
概要
【背景と目的】
終末期がん患者の予後を正確に予測する事は、患者やその家族が希望する治療や療養環境を提供するうえで重要である。特に死亡直前期においては個々の要望に応じた細やかなケアが必要となることから、その重要性は増す。がん患者の予後を予測するためのツールに関してはこれまでも研究が行われており、Palliative Prognosis Score (PaP score)やPalliative Prognostic Index (PPI)、Surprise question (SQ)などが臨床現場でも広く普及している。しかし、いずれのツールにおいても年単位、月単位、週単位の予測が限界であり、死亡直前期における日にち単位での予後を予測するためのツールは存在しなかった。
一方で通常は 1 年以内の予後を予測するためのツールとして使用されることの多い SQ であるが、より短い期間での予後予測に応用が可能であるかの検証が近年行われた。結果は、正確性はやや低いが、がん患者における7 日および30 日以内の予後を予測する感度が高いことが判明しており、7 日及び30 日以内に死亡する可能性のある患者を広く拾い上げることが可能であるという結果であった。がん患者において、SQ がさらに死亡直前期における日にち単位での予後予測に有用である可能性があると考え本研究を行った。
本研究においてはPalliative performance scale (PPS)が20 となり、全身状態が悪化したがん患者を対象に、3 日以内及び 1 日以内の死亡を予測することが可能であるかを、それぞれ3-day surprise question (3DSQ)、1-day surprise question (1DSQ)を用い、がん患者の死亡直前期予後予測におけるSQ の有用性を検討した。
【対象と方法】
本研究は EASED (East-Asian collaborative cross-cultural Study to Elucidate the Dying process) という国際多施設共同前向き観察研究の一部として行われ、試験期間内に日本国内の登録施設に入院となった終末期がん患者を対象とした研究である。登録された患者のPPS が 20 以下となったことを確認した同日に各患者の主治医より 3DSQ「この患者が3 日以内に死亡したら驚きますか?」及び、1DSQ「この患者が1 日以内に死亡したら驚きますか?」のそれぞれの質問に対して「驚く」もしくは「驚かない」で回答を得た。
3DSQ 及び 1DSQ の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を明らかにするとともに、3DSQ においては医師が「3 日以内に死亡しても驚かない」と回答したが、予想が外れて実際には4 日以上生存した患者の特徴と、1DSQ においては医師が「1 日以内に死亡しても驚かない」と回答した患者の中で、予想が的中し実際に死亡した患者の特徴を、それぞれ多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析を行った。
【結果】
日本国内の登録施設において2107 年1 月から12 月の間で1896 人が登録され、1411人が解析の対象となった。3DSQ における検証においては1179 人の患者に対して主治医は「3 日以内に死亡しても驚かない」と回答し、1DSQ においては847 人の患者に対して主治医は「1 日以内に死亡しても驚かない」と回答した。
3DSQ が患者の 3 日以内の死亡を予測する感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率はそれぞれ94.3%、26.3%、53.9%、83.6%であり、主治医が「3 日以内に死亡しても驚かない」と回答した患者の中で主治医の予想が外れて、実際には4 日以上生存しやすい患者の特徴として、橈骨動脈の触知が可能であること、下顎呼吸が認められないこと、経皮的動脈血酸素飽和度が90%以上であること、医療用麻薬の投与を受けていること、持続的深鎮静が行われていないこと、の5 つの因子が同定された。
また、1DSQ が患者の 1 日以内の死亡を予測する感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率はそれぞれ82.0%、45.5%、27.4%、91.0%であり、主治医が「1 日以内に死亡しても驚かない」と回答した患者の中で、医師の予想が的中して、実際に死亡しやすい患者の特徴として、直近 12 時間の尿量が 100ml 以下であること、視覚刺激への反応が低下していること、下顎呼吸が認められていること、橈骨動脈の触知が困難であること、経皮的動脈血酸素飽和度が90%以下であること、という5 つの因子が同定された。
【考察】
3DSQ 及び1DSQ のいずれも、短期間での死亡を予測する感度が高いことから、死亡直前期がん患者において SQ は有用な予後予測ツールになり得ることを本研究が明らかにした。
特に3DSQ は簡便に施行が可能であり、かつ、感度が94.3%と極めて高いことから3日以内に死亡する可能性のある患者をもれなく拾い上げることができる予後予測ツールであると考えた。しかし、特異度が 26.3%と低いため、本ツールを用いて家族へ予後予測を説明する際には、予測が外れる可能性があることも十分に説明する必要がある。また、一般的に緩和ケアを専門とする医師は予後を短く見積もりやすいという報告もあるため、本研究で示した医師の予想に反して長期に生存しやすい患者の5 つの特徴も併せて考えることで、より正確な予後予測が可能となると考える。
一方、1DSQ に関する検証においては、1 日以内の死亡を予測する感度は3DSQ の感度と比べると低い結果となった。医師は患者の臨床所見や身体兆候から予後の予測を行う事が知られており、感度が低くなった理由として1 日以内の死亡を示唆する患者の臨床所見や身体兆候が3 日以内の死亡を示唆するそれらと比べ、明らかになっていないことが一因と考えられた。しかし、その中でも 1DSQ が 82.0%と高い感度を有していることから、1 日以内の死亡を予測するツールとして 3DSQ 同様に臨床的に有用であると考えられた。また、医師の予想が的中し1 日以内に死亡しやすい患者の5 つの特徴も鑑みることで、より有用なツールとなる可能性がある。
【結論】
3DSQ 及び1DSQ の両ツールにおいて、いずれもがん患者死亡直前期の予後を予測する感度は高いことが示された。施行が簡便であることと併せ、SQ は実際の臨床現場において、終末期がん患者の死亡直前期の予後予測ツールとして有用であることを示した。