リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「咬筋、頸部筋群、大腰筋の定量による口腔がん患者の予後予測法についての研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

咬筋、頸部筋群、大腰筋の定量による口腔がん患者の予後予測法についての研究

阪本, 勝也 大阪大学

2022.03.24

概要

【緒言】
 サルコペニアとは、1989年にRosenbergによって提唱された概念で、European Working Groupon Sarcopenia in Older People(EWGSOP)により「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で、身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うもの」と定義されている。近年、消化器がん患者において、サルコペニアが術後合併症や予後に関連することが報告されているが、口腔がん患者では報告例が少なく未だ明らかにされていない。
 Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の診断基準では四肢骨格筋量の評価として、Bioelectrical impedance analysis(BIA)法による骨格筋指数(skeletal muscle index: SMI)が用いられている。近年、消化器がん患者においてCT画像における第3腰椎(L3)レベルの大腰筋断面積や大腰筋体積(muscles psoas major volume:PV)を川いた筋量評価法、また上咽頭がん、および喉頭がん患者においてCT画像における第3頸椎(C3)レベルの胸鎖乳突筋断面積(sternocleidomastoid muscle area:SCMA)、傍脊柱筋断面積(paravertebral muscle area:PVMA)を用いた筋量評価法が報告されているが、口腔がん患者においてこれらの方法を用いた報告はみられない。咀嚼能力は筋肉量維持において不可欠であり、咀嚼能力の低下は食事量の制限に関連し、栄養不良を引き起こす。咬筋は咀嚼筋の一つで、咀嚼運動において重要な役割を果たしており、咬筋断而積は咬合力と直接相関し、最大咬合力は死亡率と関連することが報告されているが、がん患者において、咬筋断面積と死亡率の関連性に関する報告はない。
 本研究では、口腔がん患者におけるPV、C3レベルのSCMA、PVMAの減少と生命予後について検討を行ったと同時に、口腔がん患者における新たな予後予測因子として咬筋に着目し、上顎洞底レベルの咬筋断面積(masseter muscle area:MMA)の減少と生命予後について検討した。また、MMAをCT画像上で自動抽出するArtificial intelligence(AI)を構築し、その臨床的有用性について検討した。

【対象・方法】
<検証1>口腔がん患者における大腰筋を用いた予後予測法の検討
 2010年1月から2020年5月までに大阪大学歯学部附属病院口腔外科1<制御系>(当科)で一次治療を行った口腔がん患者のうち、治療前にPET/CT撮影した103例(男性59例、女性44例)(平均年齢:67歳)(P患者群)および、BIA法により体組成を測定した60例(男性33例、女性27例)(平均年齢:68歳)(PS患者群)を対象とした。Synapse VINCENT®, v5.3(FUJIFILM Corp., Tokyo, Japan)を用いてPET/CT画像からPVを測定し、InBody570TM(InBody Japan Inc., Tokyo, Japan)を用いてSMIを測定した。PS患者群60例において、PVとSMIの相関関係をPearsonの相関係数を用いて評価した。PS患者群60例において、AWGSの診断基準(SMI:男性<7.0kg/m2、女性<5.7kg/m2)を用いて、男女のPVのカットオフ値を算出した。このカットオフ値以下を低PV群、それ以外を正常PV群と設定し、P患者群103例において、log-rank検定を使用して低PV群に対する全生存率(0S)を評価した。

<検証2>口腔がん患者における頸部筋群、咬筋を用いた予後予測法の検討
 2017年1月から2020年4月までに全身麻酔下手術を目的として当科に入院した患者のうち、治療前に頭頸部CT撮影およびBIA法により体組成を測定した348例(男性177例、女性171例)(平均年齢:33歳)をカットオフ値算出用データとした。また、2009年1月から2020年6月までに当科で一次治療を行った口腔がん患者のうち、治療開始前に頭頸部CT撮影した253例(男性142例、女性111例)(平均年齢:66歳)を検証用データとした。
 SynapseVINCENT®,v5.3を用いて頭頸部CT画像からC3レベルのSCMA、PVMA、上顎洞底レベルのMMAを測定し、InBody570™を用いてSMIを測定した。カットオフ値算出用データ348例において、SCMA、PVMA、MMAとSMIの相関関係をPearsonの相関係数を用いて評価した。カットオフ値算出用データ348例において、AWGSの診断基準(SMI)を用いて、男女それぞれのSCMA、PVMA、MMAのカットオフ値を算出した。これらのカットオフ値以下を低筋量群(低SCMA、低PVMA、低MMA)、それ以外を正常筋量群(正常SCMA、正常PVMA、正常MMA)と設定し、検証用データ253例において、log-rank検定を使用して低筋量群それぞれに対するOSを評価した。また、Fisherの正確検定を使用して、年齢、性別、Stage(UICC第8版)、栄養関連因子、低筋量群に対してOSの単変量解析を行い、有意差があった因子に対して各筋量群別にCOX比例ハザード回帰モデルを使用して多変量解析を行った。

<検証3>口腔がん患者における咬筋自動抽出AIの有用性の検討
 SynapseVINCENT®,v5.3にて頭頸部CT画像から手動で抽出した上顎洞底レベルのMMA画像データと元CT画像デー夕それぞれ400枚を、U-Net(画像セグメンテーションを推定するネットワーク)を用いてDeep Learningにより学習させMMA自動抽出AIの開発を行った。検証用データ253例を対象としてMMAを自動抽出し、画像処理ソフトウェア(ImageJ 1.53)を用いて面積値(AIMMA)を算出した。検証用データ253例において、手動抽出したMMAとAIMMAの相関関係をPearsonの相関係数を用いて評価した。<検証2>で算出したMMAカットオフ値に基づいて、患者を2つのグループ(低AIMMA群、正常AIMMA群)に割り当て、log-rank検定を使用して低AIMMA群に対するOSを評価した。さらに、<検証2>と同様に、低AIMMA群に対して単変量解析、多変量解析を行い、OSを評価した。
※統計学的解析はすべて解析ソフト:EZRVer.1.40用いて、有意水準は0.05とした。

【結果】
<検証1>口腔がん患者における大腰筋体積を用いた予後予測法の検討
 PVとSMIは男女ともに高い正の相関関係を認めた。log-rank検定において、低PV群の0Sは、正常PV群と比較して有意差はなかったが、男女ともに低い傾向にあった。(男性:p=0.295、女性:p=0.198)

<検証2>口腔がん患者における頸部筋群、咬筋を用いた予後予測法の検討
 SCMA、PVMA、MMAとSMIはそれぞれ男女ともに高い正の相関関係を認めた。log-rank検定において、低筋量群(低SCMA、低PVMA、低MMA)の0Sは、正常筋量群と比較してそれぞれ男女ともに低い傾向にあった。(SCMA男性:p=0.071女性:p=0.185、PVMA男性:p=0.008女性:p=0.001、MMA男性:p=0.002女性:p<0.001)Fisherの正確検定、COX比例ハザード回帰モデルによる解析において、低SCMA群は有意差がなかったが、低PVMA群、低MMA群では有意に0Sと関連していた。(PVMAHR:3.317/p=0.014、MMAHR:2.851/p=0.012)

<検証3>口腔がん患者における咬筋断面積自動抽出AIの有用性の検討
 手動抽出したMMAとAIMMAは男女ともに高い正の相関関係を認めた。log-rank検定において、低AIMMA群の0Sは、正常AIMMA群と比較して男女ともに有意に低かった。(男性:p<0.001、女性:p=0.011)Fisherの正確検定、COX比例ハザード回帰モデルによる解析において、低AIMMA群は有意に0Sと関連していた。(HR:2.640/p=0.021)

【考察】
 AWGSの診断基準において、筋量評価のため、BIA法によって算出されるSMIのカットオフ値が定められている。本研究より、SCMA、PVMA、匪Aはそれぞれ男女ともにSMIと高い正の相関関係を認めており、口腔がん患者において日常的に撮影を行っている頭頸部CTを用いても、サルコペニアの評価項目の一つである筋量評価が可能であると考えられる。また、本研究より、口腔がん患者においてPV、SCMAの減少はOSと関連する傾向はあったものの、有意差はなく、予後予測因子と結論づけることはできなかったが、PVMA、MMAの減少においては、独立した予後不良因子であったため、臨床応用にあたり有用であると考えられる。これまでに、がん患者においてMMAと生命予後の関連性に関する報告はなく新規性がある点と、MMA評価のために頭頸部CT画像から手動抽出する必要があり煩雑であった点から、AIを用いることで、より迅速、簡便、かつ客観的に予後予測の評価が可能であると考えられ、MMAg動抽出AIの開発を行った。本研究より、口腔がん患者においてMMA自動抽出AIを用いて抽出したAIMMAの減少は独立した予後不良因子であったため、臨床応用にあたり有用であると考えられる。
 口腔がん患者において骨格筋量減少に関するメカニズムは不明である。これまでの研究で、口腔がんを含む悪性腫瘍の進行に伴いTNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインが放出されることが報告されており、TNF-αやIL-6は、insulin receptor substrate-1(IRS-1)の機能を低下させることで、インスリン感受性を低ドさせ筋タンパク質合成を低下させることが報告されている。本研究では、口腔がん患者におけるPV、SCMA、PVMA、MMAを用いた筋量評価法およびAIを用いたMMA評価法と生命予後の関連性に焦点を当てたが、今後はがん患者に限らず、口腔外科領域での様々な因子との関連性を検討、分析したいと考えている。

【結語】
 本研究から、口腔がん患者において頭頸部CT画像を用いても、サルコペニアの評価項目の一つである筋量評価が可能であり、さらに口腔がん患者において、傍脊柱筋断面積、咬筋断面積を用いた筋量評価法、および咬筋断面積自動抽出AIを用いた予後予測法は臨床応用にあたり有用であることが示唆された。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る