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大学・研究所にある論文を検索できる 「蛍光特性および散乱特性に基づく大豆の品質と豆腐の凝固特性の評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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蛍光特性および散乱特性に基づく大豆の品質と豆腐の凝固特性の評価

斎藤, 嘉人 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23936

2022.03.23

概要

豆腐は良質なタンパク質供給源として世界的にも重要視されている代表的な大豆加工食品である。豆腐製造において,大豆から豆乳を得るための工程は事業規模を問わず広く機械化が進んできた一方で,豆乳から豆腐を得るための凝固工程は未だ職人の勘と経験に依存する部分が大きい。特に,原材料である大豆子実の化学成分量の変動や,凝固過程における条件変動による豆腐の品質の不安定さや製造ロスが課題視されている。このため,豆腐の品質の安定化や製造ロスの削減を目指した大豆の化学成分量の推定および豆腐の凝固度合いの計測が望まれる。本研究では,大豆から豆腐に至るまでの迅速かつ簡便な品質評価を目的とし,蛍光特性や散乱特性に基づく大豆および豆腐の品質評価を行ったものである。

本論文は全6章から構成されており,第1章では大豆中の化学成分量や豆腐の凝固度合いを測る必要性について述べ,光学的手法による大豆や豆腐の品質評価に関する先行研究を紹介し,本研究の目的を記載している。

第2章では,大豆の加工前の段階での迅速な品質評価を目指し,励起波長200~500 nm,蛍光波長220~600 nmにおける蛍光分光法を用いた大豆の粗タンパク質量および粗脂質量が推定されている。品種および産地の異なる大豆34種類を供試し,励起蛍光マトリクス(EEM)の測定を行った。また,大豆の化学成分の中でも最も重要視される粗タンパク質量および粗脂質量の測定を行い,EEMを入力変数として部分最小二乗回帰による成分量推定モデルを構築した。その結果,大豆の粗タンパク質量ではR2=0.86,RPD=2.68の精度が得られ,蛍光分光法による粗タンパク質量に基づくスクリーニングの可能性が示された。粗脂質量についてもR2=0.74,RPD=1.99と精度がやや劣ったものの,さらなる推定精度の改善によって粗脂質量のスクリーニングにも活用できる可能性が示された。

第3章では,豆腐の製造工程の違いが豆腐の化学的・物理的性質に与える影響が評価されている。現在広く流通している冷豆乳による充填豆腐(冷豆乳充填豆腐)と,従来の充填豆腐の工程から豆乳の冷却・再加熱を省いた温豆乳による充填豆腐(温豆乳充填豆腐)を調製し,製造後,3, 10, 17, 24, 31日目における粘度・保水性・遊離糖量・マルトール量の測定,および走査型電子顕微鏡による微細構造の観察を行った。その結果,温豆乳充填豆腐では冷豆乳充填豆腐に比べマルトール量が有意に多く,粘度と保水率も貯蔵期間全体を通して高かった。このことから,温豆乳充填豆腐では豆乳の冷却・再加熱を省くことで香気成分が保持されることが示された。加えて,温豆乳充填豆腐の微細構造は緻密性が高く,粘度や保水率の低下も小さかった。これらの物性値は豆腐の食味や食感といった品質に関係することが予想されることから,微細構造を評価することで豆腐の品質が評価できる可能性を示唆している。

第4章では,第3章の結果を受け,物性の異なる豆腐における微細構造の特徴の違いに着目している。先行研究では豆腐の微細構造を定量的に評価した報告はないことから,本章では硬さの異なる豆腐を調製し,その微細構造の違いを定量的に評価する方法の構築を目的とした。0.300%,0.345%,0.390%の3種類の凝固剤濃度で豆腐を調製し,ヤング率を測定したところ,豆腐のヤング率は凝固剤濃度が増加するほど増加した。そして各豆腐の微細構造を走査型電子顕微鏡で観察し,画像解析により幾何学的パラメータおよびテクスチャ特徴量の算出を行った。その結果,空隙率は凝固剤濃度0.390%で有意に減少し,過剰凝固による凝集成分の増加が反映されたことが示唆された。また,凝固剤濃度が増加するほど単位面積当たりの空隙の数は増加し,その平均サイズは減少したことから,それらは豆腐の硬さと連動して変化する指標として有用であることが示唆された。加えて,テクスチャ特徴量のうち最も微細構造の違いを説明する指標はSum Varianceとなり,今回の最適凝固剤濃度である0.345%で最も大きい値となった。以上の方法により微細構造が定量的に評価でき,その結果から凝固剤の適量・過剰量や豆腐の硬さを評価できる可能性が示された。

第5章では,豆腐の微細構造の違いを非破壊的に測定する手法を検討するため,可視から近赤外領域における豆腐の基礎的な光学特性の理解と,その結果に基づいた豆腐の光多重散乱測定が行われている。凝固温度の異なる豆腐の近赤外透過スペクトル(波長 1300~1800 nm)を測定した結果,凝固温度が上昇するほど散乱が増加し,微細構造は緻密になったことから,微細構造変化の測定には散乱測定が有用である可能性が示された。また,凝固時間の異なる豆腐の測定では短波長ほど散乱の増加が大きく検出された。その結果に基づき,波長 633 nm における豆腐表面からの後方散乱光を計測する系を構築し,豆乳および凝固温度の異なる豆腐の光学定数の推定を行った。その結果,豆腐の凝固温度の上昇に伴い,吸収係数には変化は見られなかった一方で等価散乱係数は増加する傾向が得られ,等価散乱係数は豆腐の粘度と高い相関(R2=0.98)を示した。以上から,散乱特性に基づいて豆腐の凝固度合いを評価できることが実証された。

第6章では,蛍光特性や散乱特性に基づく大豆・豆腐の品質評価について得られた知見を総括するとともに,大豆の選別や豆腐製造の現場への応用可能性が言及されている。