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大学・研究所にある論文を検索できる 「補体関連疾患におけるCFH/CFHR gene cluster内の融合遺伝子の検出」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

補体関連疾患におけるCFH/CFHR gene cluster内の融合遺伝子の検出

菅原, 有佳 東京大学 DOI:10.15083/0002002414

2021.10.13

概要

1. 背景
 補体系は多くの因子が相互作用して働く免疫カスケードであり、自然免疫の一部を司る。古典経路、レクチン経路、第二経路の3経路からなり、いずれもアナフィラトキシンの生成に伴う炎症反応や病原体のオプソニン化による貪食反応を惹起し、膜侵襲複合体を形成し細胞融解による病原体の破壊をもたらす。
 病原体の存在がトリガーとなり補体系は活性化するが、第二経路だけはC3の自発的加水分解という活性化機構(”tick-over”)を持ち、病原体侵入という刺激がなくとも常に弱く活性化し続け、病原体侵入時の速やかな補体活性化を担保している。同時に、第二経路の過剰な活性化により自己組織までも傷つけることがないよう、complement factor H(CFH)などの補体制御因子により厳密に制御されている。
 しかしながら、補体制御因子等の遺伝子変異により第二経路の制御機構は破綻しうる。免疫染色でC3の優位な糸球体沈着を呈し臨床的には尿蛋白や尿潜血を伴った慢性腎不全を呈するC3腎症と、溶血性貧血・血小板減少・血小板血栓による臓器機能障害の三徴を伴う血栓性微小血管症を呈する非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、病像は異なるがどちらも第二経路の制御機構の破綻により引き起こされる補体関連疾患として知られている。
 重要な補体制御因子であるCFH蛋白をコードするCFH遺伝子は染色体1q32に存在し、同部位にはCFH-related protein(CFHR)1–5蛋白をコードするCFHR1-5遺伝子が連続して存在する(この領域を”CFH/CFHR gene cluster”と呼ぶ)。CFHR1-5遺伝子は進化の過程でCFHの一部配列が重複や欠失を繰り返すことで生じたと考えられており、それゆえ遺伝子間の配列相同性が高く現在も組み換えのホットスポットであると考えられているが、近年、CFH/CFHR gene cluster内の融合遺伝子がC3腎症及びaHUSの原因として報告された。
 次世代シークエンサーの登場により遺伝子解析は大きな進歩を遂げたが、融合遺伝子、欠失、重複、転座などの構造変異はそれを目的として解析を行わなければ発見できないことが多い。本研究では、一般的な遺伝子解析手順では原因遺伝子を同定し得なかったC3腎症家系、aHUS家系に着目し、その詳細な遺伝子解析を行った。

2. 方法
 家族性C3腎症例及び、CFH関連異常である可能性を示唆する溶血試験が家族性に陽性であったaHUS症例について各種解析を施行した。末梢血より抽出したDNAを鋳型とし、それぞれの疾患における既知の原因遺伝子(C3腎症についてはCFH, CFI, MCP, CFB, C3、aHUSについてはCFH, MCP, C3, CFI, CFB, THBD, DGKE)のエクソン領域についてサンガー法及び全エクソンシークエンスで解析を行った。末梢血より抽出したDNAを用いて、multiplex ligation-dependent probe amplification(MLPA)の手法でCFH/CFHR gene clusterにおけるコピー数解析を行った。ウェスタンブロット法によって、CFH及びCFHR1-5蛋白の分子量の解析を行った。C3腎症家系については全ゲノムシークエンスによる構造変異解析を行った。これらの結果をもとに融合遺伝子の存在部位を推測した。融合遺伝子が実際に存在することをlong PCR法を用いて確認し、PCR産物のダイレクトシークエンスにより融合部位周辺配列を解析した。aHUS症例については、末梢血中RNAを鋳型としPCRを行い、PCR産物のダイレクトシークエンスを行うことで、融合遺伝子由来RNAの存在についても確認した。

3. 結果
3-1.家族性C3腎症例
 サンガー法及び全エクソンシークエンスでは既知の原因遺伝子変異は同定されなかった。MLPA法では、罹患者のみにおいてCFHR2 Intron 1からExon 3のヘテロ重複というこれまで報告がないコピー数変異を発見した。ウェスタンブロット法では、罹患者のみにおいて通常のCFHR1蛋白よりもサイズの大きい変異CFHR1蛋白が検出された。このことから、CFHR2とCFHR1からなる融合遺伝子、そしてその産物である融合蛋白質の存在が考えられた。全ゲノムシークエンスデータを融合遺伝子検出ソフトウェア(Breakdancer-1.3.6)により解析したところ、仮説に合致したCFHR2-CFHR1融合遺伝子が検出された。Long PCR法により罹患者のみにこの融合遺伝子が存在することを確認し、PCR産物のダイレクトシークエンスにより融合箇所周辺の正確な配列を明らかにした。なお、今回発見したCFHR2-CFHR1融合遺伝子はこれまで国際的に報告がない新規の変異である。また、本邦においては融合遺伝子が原因となったC3腎症例自体が初めての報告である。
3-2.aHUS症例
 サンガー法及び全エクソンシークエンスでは既知の原因遺伝子変異は同定されなかった。MLPA法では、溶血試験陽性者のみにおいてCFH Exon23とその下流のヘテロ欠失及びCFHR1 Exon 5から6のヘテロ重複というこれまで報告がない2種類のコピー数変異を認めた。ウェスタンブロット法では、CFH及びCFHR1-5蛋白の分子量異常は認めなかった。これまでの既報ではCFHのC末端がCFHR蛋白のいずれかのC末端に置き換わるというパターンが多く、また本症例のウェスタンブロット法でCFHの分子量異常を認めなかったことから、“C末端が欠損したCFHにその欠損と概ね同じ分子量のCFHR1 C末端が融合”している状態を仮説として考えた。Long PCR法によって、罹患者のみにおいて仮説に合致したCFH-CFHR1融合遺伝子が実際に存在することを確認し、PCR産物のダイレクトシークエンスにより融合箇所周辺の正確な配列を明らかにした。また末梢血由来のcDNAを用いて、患者においてCFH-CFHR1融合遺伝子由来RNAが存在することを確認した。なお、これまでにも今回と同様のCFH-CFHR1融合蛋白質は報告されているが、本症例とはゲノム上の融合部位が異なっていた。また、本邦においては融合遺伝子が原因となったaHUS症例自体が初めての報告である。

4. 考察
 今回、MLPA法によるコピー数解析や全ゲノムシークエンスを用いた構造変異解析という手法を用いることで、家族性C3腎症例及びaHUS症例において、CFHR2-CFHR1、そしてCFH-CFHR1というこれまで報告がない新規融合遺伝子を検出しえた。
 C3腎症とaHUSは病像は異なるが、CFH遺伝子変異、抗CFH抗体の産生、そして今回扱ったCFH/CFHR gene clusterにおける融合遺伝子など原因として共通する点が報告されている。C3腎症においてはCFH遺伝子の5’側の変異や、CFHのN末端側に対する抗体が報告されているのに対し、aHUSにおいてはCFH遺伝子の3’側の変異や、CFHのC末端側に対する抗体、そして今回解析した症例のようにCFHのC末端側が欠損したようなパターンの融合遺伝子が報告されている。このことから、補体制御に関わるN末端側(遺伝子における5’側)が阻害されると主に液相(血漿中)における補体制御異常が起こりC3腎症を呈するのに対し、細胞表面への接着に関わるC末端側(遺伝子における3’側)が阻害されると主に細胞表面における補体制御異常が起こりaHUSを呈すると考えられている。
 CFH/CFHR gene cluster内では、相同性が高い領域が多く含まれるため現在においてもコピー数変異・構造変異が起こりやすく、融合遺伝子が発生しやすいと考えられる。このような組み換えのホットスポットはゲノム上に他にも多数存在するとされており、そういった部位においても融合遺伝子は生じやすいと考えられる。融合遺伝子の検索は補体関連疾患のみならず、様々な疾患において重要である可能性がある。
 通常のサンガー法や全エクソンシークエンスでは構造変異や融合遺伝子は見つからない場合が多く、その発見のためには構造変異解析を目的とした戦略をとることが必要となる。今回用いたMLPAのようなコピー数解析は構造変異解析の一助となり、また全ゲノムシークエンスデータを用いる場合には融合遺伝子を検出する方法論としてはRead-depth法、Read-pair法、Split-read法、De novo assemblyなどがあげられる。更には、ロングリードシークエンサーや擬似ロングリードが構造変異検出のためにより有力なツールとなる可能性がある。

5. 結語
 家族性C3腎症例、及びaHUS症例に対してMLPA法によるコピー数解析や全ゲノムシークエンスを用いた構造変異解析を行うことで、従来の遺伝子解析手法であるサンガー法や全エクソンシークエンスでは検出しえなかった新規パターンの融合遺伝子を検出しえた。
 C3腎症やaHUSといった補体関連疾患では融合遺伝子が原因として報告されており、遺伝子解析を行う際には融合遺伝子や構造変異の検索が必要と考えられる。さらに、こういった解析手段の発達とともに、今後より多くの疾患において融合遺伝子や構造変異が原因遺伝子として明らかになる可能性がある。

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