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大学・研究所にある論文を検索できる 「The advancement of alkenone paleothermometry : applications to coastal, lake, and subaerially exposed sediments」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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The advancement of alkenone paleothermometry : applications to coastal, lake, and subaerially exposed sediments

梶田, 展人 東京大学 DOI:10.15083/0002006682

2023.03.24

概要

論文審査の結果の要旨
氏名

梶田

展人

本論文は、海洋や一部の湖沼に存在する有機化合物アルケノンに関する研究であり、そ
れを古水温計として用いた古環境変動解析のみならず、これまで難しいと考えられてき
た陸上堆積岩や湖沼堆積物への適用を試みた研究である。アルケノンは、有光層に棲息す
る植物プランクトンであるハプト藻によって生合成され、その不飽和度(二重結合の相対
的な数)は棲息水温に支配される。そのため、アルケノンは、過去の表層水温を定量的に
復元できる古水温計として、主に海洋堆積物を用いた古気候・古環境研究に広く用いられ
てきた。梶田氏は、人類が繁栄した沿岸域における完新世の気候・環境変動を復元し、人
類史と環境変動の関係を解明することを目的として、沿岸海洋堆積物コアに保存された
アルケノンを高時間解像度で解析した。さらに、更新世の陸上堆積岩や、現代の湖沼堆積
物の一部に対しても、アルケノン古水温計が適用できることを示した。
本論文は全4章からなる。第 1 章は、全体のイントロダクションで、アルケノンの発
見から、海洋における応用研究、湖沼における萌芽的研究の歴史が、幅広くレビューされ
ている。
第 2 章は、完新世の気候・環境変動に関する研究で、第 2-A 章と第 2-B 章に分けられ
る。2-A 章は、中国揚子江沿岸の浅海から採取された堆積物コアの解析に関する内容であ
る。揚子江河口域では、完新世初期~中期にかけて、世界初の水稲稲作を基盤とする長江
文明が栄えた。長江文明は、約 4,200 年前に突如衰退したことが知られているが、考古学
的研究からはその原因が明らかにされていない。今回、過去 8,000 年間のアルケノン古
水温変動を復元した結果、紀元前 2200 年前後に 3~4℃という温度低下が複数回生じた
ことが明らかになり、大規模な寒冷化が長江文明を襲った可能性を強く支持する結果が
得られた。紀元前 2200 年前後には、偏西風帯の南下によって夏季アジアモンスーンが弱
化したことが、梶田氏の卒業研究ほか幾つかの先行研究で示されており、大規模な寒冷化
イベントの主要因であったことが示唆される。
第 2-B 章では、東京湾中部から採取された堆積物コアが解析された。精密な放射性炭
素年代測定によって、各層準の年代が数年~数十年の誤差で決定された。過去 4,400 年
間のアルケノン古水温変動には、紀元前 2200 年前の寒冷化が明瞭に記録されており、こ
の気候変動が東アジア全域に及んでいたことが確認された。さらに、歴史文書や人類の
DNA 解析に関する先行研究が示唆する紀元前 440 年、西暦 100 年、西暦 1050 年前後に
も比較的大きな寒冷期が生じたことが分かった。太陽活動低下や大規模な噴火、エルニー
ニョ現象が、これらの寒冷化の引き金になったのではないかと考察している。
第 3 章は、新たなアルケノン古水温計の適用対象を提示した研究で、第 3-A 章と第 31

B 章の 2 つの研究から構成される。第 3-A 章では、房総半島に露出する更新世の上総層
群にアルケノンが含まれることを初めて報告した。上総層群の模式地である養老川沿い
の露頭において、約 100 万年前に形成された大田代層から泥岩試料を連続的に採取し分
析した結果は、当時の氷期間氷期サイクルと一致するアルケノン古水温変動を示した。さ
らに、供給される堆積物の起源が異なる別の露頭の同層準に記録されたアルケノンも同
じ値を示すことが確認され、アルケノン古水温復元が陸上地層においても有効であるこ
とを明らかにした。アルケノン古水温の絶対値は、浮遊性有孔虫の Mg/Ca から求められ
る古水温によってクロスチェックがなされ、その信頼性が担保された。今後、上総層群の
幅広い層準に対し、アルケノン古水温が復元されることで、更新世の気候・環境変動の全
貌が、これまでにない高時間解像度で解明できることが期待される。
第 3-B 章では、現代の水環境でのアルケノンの生産が扱われ、青森県鷹架沼にアルケ
ノンが存在することを報告した。堆積物中にアルケノンが含まれる湖は世界的に珍しく、
この発見は生物学的にも古環境学的にも極めて重要である。本論文では、ハプト藻を対象
とした環境 DNA 解析を行うことが、その探索に有効であることを具体的なデータととも
に示した。環境 DNA 解析から、海洋とは異なる湖沼棲のハプト藻が棲息していることも
明らかにされた。そして、生産種を踏まえた換算式の選択によって、湖沼堆積物を用いた
アルケノン古水温復元が可能になることが示された。この手法は他の湖沼にも適用可能
であり、今後、陸域における古気候・古環境研究に大きな進展をもたらすと期待される。
以上のように、梶田氏は、既存のアルケノン古水温復元の研究を考古学・歴史学との学
際的な考察に結びつける応用研究と、アルケノン古水温復元の研究に新しい展開をもた
らす基礎研究の両面において大きな成果を挙げており、博士論文としてふさわしいもの
と判断した。
本論文には、共同研究による成果も含まれるが、論文提出者が主体となって研究を行っ
たものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。
したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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