風水害時の応援派遣に係る保健師のコンピテンシー:概念モデルの生成
概要
(書式18)
学
(
位 論 文 要 約
A b s t r a c t )
博士論文題目 Title of dissertation
風水害時の応援派遣に係る保健師のコンピテンシー:概念モデルの生成
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻
基礎・健康開発看護学講座
氏名 Name
公衆衛生看護学分野
岩本
萌
【背景】近年、世界中で集中豪雨、竜巻、台風をはじめとした風水害が頻発しており、この数十年で発生件
数が増加してきている。今後も多くの風水害が発生することが予測されており、災害時の保健活動の充実は
最も差し迫った課題の一つである。災害時は多くの保健師が被災地に派遣され、災害支援保健活動の中核を
担っている。しかしながら、応援派遣の保健師に焦点を当てた研究は少なく、そのコンピテンシーは明確に
説明されていない。
【目的】本研究の目的は、①日本における自然災害時の保健師のコンピテンシーの概念分析を行うことで概
念の定義を明確にすること、②半構造化インタビューを通して風水害時に被災地へ派遣された保健師が直面
した状況と求められたコンピテンシーを明らかにし、概念モデルを生成することである。
【方法】日本の自然災害時に保健師に求められるコンピテンシーの概念分析は 27 文献を対象とし、Rodgers
の手法を用いて分析した。「風水害時の応援派遣に係る保健師のコンピテンシー」の質的分析は、過去 5 年
以内の風水害において発災 2 ケ月以内に派遣された経験をもつ保健師 17 名を対象に半構造化インタビュー
を実施した。インタビュー後は逐語録を作成し、Kathy Charmaz の構成主義的グラウンデッド・セオリー・
アプローチの手法に基づいて次の手順で分析した。①派遣時に直面した状況と行動、コンピテンシーを軸に
データを意味内容から切片化して初期コード生成、②意味の近い初期コードを統合し整理する名前を付与し
て焦点化コードを生成、③焦点化コード間の特性や関係性、帰結等を示す名前を付与して理論カテゴリを生
成、④概念モデルを生成。
【倫理的配慮】研究協力者に対して研究概要と参加の任意性、匿名性保持、データ保管、公表について文書
と口頭で説明し、同意書に署名を得た。本研究は、東北大学大学院医学系研究科生命倫理審査委員会の承認
を得て実施した。
【結果】自然災害時に保健師に求められるコンピテンシーの概念分析の結果、属性 8 カテゴリ、先行要件 5
カテゴリ、帰結 6 カテゴリが抽出され、
「多様なニーズが災害フェーズにより変容する状況において、災害
対応体制を構築し、支援チームと連携し、健康ニーズに対し災害フェーズに応じた柔軟な PDCA サイクル
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マネジメントによるヘルスケアを遂行することのできる力」であると定義された。風水害時の応援派遣に係
る保健師のコンピテンシーは、9 理論カテゴリが生成され、派遣に行った時期に応じて求められるコンピテ
ンシーが異なっていた。また、風水害時の派遣保健師たちは全ての活動を通して被災地スタッフへの手厚い
配慮を常に意識していたことが明らかになった。
【考察】風水害時に派遣される保健師たちは「被災地スタッフへの手厚い配慮を意識する」というコンピテ
ンシーが全ての活動を通して求められており、これは応援派遣に特有なコンピテンシーであると考えられた。
加えて、派遣支援業務を円滑に遂行するコンピテンシーとして、「細かい指示がなくても活動できる」、「短
期間で企画・実施ができる」
、
「被災地の文化や慣習を尊重する」等が求められており、被災自治体の保健師
に求められるコンピテンシーや保健師の通常業務で求められるコンピテンシーとは大きく異なっていた。ま
た、保健所と保健センターの業務の違いや、業務分担制による経験不足が派遣支援のために必要なコンピテ
ンシーの獲得を阻害しており、積極的な人材交流や組織的な研修体制の構築が必要であることが示唆された。 ...