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大学・研究所にある論文を検索できる 「Study on the Dome-like Structures with Altered Microenvironment Induced by Basal Extrusion of RasV12-transformed Cells [an abstract of entire text]」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Study on the Dome-like Structures with Altered Microenvironment Induced by Basal Extrusion of RasV12-transformed Cells [an abstract of entire text]

白井, 孝信 北海道大学

2022.12.26

概要

がんは死因の上位を占めており、効果的ながん治療の確立が望まれている。正常組織に遺伝子変異を伴ったがん細胞が生じ、さらなる遺伝子変異を蓄積し、悪性化していくことでがん組織へ発展していく。これまでの多くのがん研究は悪性化したがん組織の性質の解明に着目していた。一方で、がん細胞が組織に発生したばかりの発がん超初期段階を対象とした研究はあまり行われてこなかった。近年、がん関連遺伝子変異を1つ起こした変異細胞を正常上皮細胞層に誘導することで発がん超初期段階を実験的に再現したところ、正常細胞に囲まれた変異細胞が細胞死や体外方向への逸脱を介して組織から排除されることが明らかになった。この現象は細胞競合と呼ばれ、変異細胞のみが存在するときには排除現象が起こらないことから、正常細胞と変異細胞の相互作用により生じる細胞非自律的な現象であると考えられている。以上より、細胞競合が抗腫瘍機構を担っていることが示唆されてきた。しかしながら、変異細胞の排除は常に生じるわけではなく、特定の条件下においては変異細胞の排除が起こりにくくなることが報告されている。一例として肥満や慢性炎症により変異細胞の排除が抑制されると、組織に変異細胞が残存しやすくなり、前がん病変を形成しやすくなることが知られている。変異細胞の発生から前がん病変を形成するまでの過程において変異細胞の挙動は未だに不明な点が多く、特に細胞競合による排除を逃れた変異細胞が前がん病変を形成するまでの過程において周囲の正常な上皮細胞や間質細胞の間でどのような相互作用が存在し得るのかはほとんど明らかにされていない。そこで本研究ではこの課題の解明を目的とし、がん原性変異を上皮組織にモザイク状に誘導できる細胞競合マウスを用いて組織に誘導された変異細胞の挙動を経時的に追跡した。

本研究では、様々な上皮組織に変異細胞を誘導するために次の細胞競合マウスモデルを用いた。Cytokeratin 19-CreERT2; loxP-STOP-loxP (LSL)-eYFPマウスをコントロールとして、Cytokeratin 19-CreERT2; LSL-RasV12-IRES-eGFPマウスを実験群として用いた。これらのマウスは、様々な組織の上皮細胞に特異的に発現しているCytokeratin 19 promoterの下流にCreERT2タンパク質の配列を組み込んでいる。CreERT2タンパク質はタモキシフェン存在下で特定のDNA配列の組換えを起こし、loxP配列に挟まれたSTOPコドンをDNAから切り出すことが報告されている。マウスにタモキシフェンを投与することで上皮細胞特異的にDNA配列の組換えを起こし、RasV12とeGFPを同時に発現することが出来る。投与するタモキシフェンを低濃度にすることでDNA配列の組換えが起こる確率を下げることが出来るため、様々な上皮組織の上皮細胞層にRasV12変異細胞をモザイク状に誘導することが出来る。

この細胞競合マウスモデルを用いて膵臓、乳腺、肺の上皮組織にRasV12変異をモザイク状に誘導した。そして誘導から3日後~1か月後に渡りRasV12変異細胞の挙動を追跡した。その結果、3つの上皮組織とも変異細胞が一定の割合で体外の方向である管腔側へ排除されることが明らかとなった。一方で、排除されずに組織に残存した変異細胞に着目すると、誘導から2週間後以降に、一部のRasV12変異細胞が基底膜側へ逸脱し、周囲の正常上皮細胞の隆起を伴うドーム様の異常構造を形成した。ドーム様構造を詳細に解析すると、ドーム様構造は膵臓や乳腺に比べて肺で頻繁に形成されること、周囲の正常上皮細胞は増殖が亢進しており、多層を形成していること、またドーム様構造内に活性化型線維芽細胞やマクロファージ等の間質細胞が集積していることが明らかになった。本研究は肺組織の中でも気管支と細気管支を解析対象とした。気管支と細気管支は様々な種類の上皮細胞により構成されていることが知られている。次にどの肺上皮細胞種にRasV12が発現した時にドーム様構造が形成されるかを調べるために、様々な種類の肺上皮細胞に特異的なマーカーを用いてRasV12の発現が誘導される細胞種を検討した。その結果、主にクラブ細胞に発現誘導が起きていることが明らかとなった。続いて、このクラブ細胞に特異的にRasV12変異を誘導できるScgb1s1promoterを用いた細胞競合マウスを新たに作成した。誘導から2週間後にドーム様構造の形成について検討したところ、Cytokeratin 19 promoterを用いた細胞競合マウスで観察されたドーム様構造と同様の構造が形成された。さらに、誘導から2週間後と3か月後にドーム様構造の大きさを比較したところ、3か月後ではサイズが大きくなっていた。このことから、ドーム様構造は前がん病変のポテンシャルを備えていることが分かった。ドーム様構造において基底膜側へ逸脱したRasV12変異細胞は約7割の細胞が上皮細胞のマーカーであるE-cadherinを失っていることに加え、間質細胞のマーカーであるvimentinを発現していた。一方で、別の上皮マーカーであるCytokeratin8はドーム様構造のRasV12変異細胞で発現が維持されていた。以上より、ドーム様構造のRasV12変異細胞はpartial epithelial-mesenchymal transition (EMT)を起こしていることが明らかになった。さらに、炎症メディエーターであるCOX-2がドーム様構造を形成するRasV12変異細胞に特異的に発現上昇していた。COX阻害剤であるibuprofenを投与したところ、ドーム様構造の形成ならびにドーム様構造への活性化型線維芽細胞の集積が抑制された。一方で、ibuprofenはドーム様構造へのマクロファージの集積には影響を与えなかった。以上の結果より、発がん初期段階において肺組織に残存したRasV12変異細胞の一部は基底膜側へ逸脱し、COX-2の発現上昇を介して活性化型線維芽細胞の集積とドーム様の微小環境の形成を引き起こすことが明らかとなった。これより、発がん初期段階において変異細胞と周囲の正常細胞の間に生じる相互作用が前がん病変の形成に関与している可能性が考えられた。

最後に、本研究は発がん過程の中期から後期に形成することが知られているがん微小環境が、1つの変異を起こした変異細胞が基底膜側へ逸脱することによって発がん初期段階にも形成されることを新たに示した。さらに、変異細胞が基底膜側へ逸脱することによって、partialEMTなどの様々な形質を新たに獲得することを明らかにした。