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大学・研究所にある論文を検索できる 「Microenvironmental Impact on Tumour Cell Phenotype and Genotype in Adult and Paediatric Tumours」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Microenvironmental Impact on Tumour Cell Phenotype and Genotype in Adult and Paediatric Tumours

安井, 啓晃 名古屋大学

2021.06.29

概要

【緒言】
がんは日本での死因の第一位、スウェーデンでの第二位を占めており、治療成績の向上は大きな課題である。がん細胞が免疫細胞や、線維芽細胞とともに構築する腫瘍微小環境はがん細胞の表現系に影響し、一方で微小環境ががん細胞の遺伝学的進化と関わることが知られているが、不明な点も多い。論文1では卵巣癌、がん関連中皮細胞及び腹水で形成される腹腔内微小環境がどのように卵巣癌の腹膜転移に関わるか、論文2で高リスクのウィルムス腫瘍のコピー数の欠損として認められる16番染色体に位置する2つの蛋白質が腫瘍形成にどのように影響するか、論文3で化学療法によって誘導される微小環境下に治療抵抗性悪性ラブドイド腫瘍がどのような遺伝学的進化を遂げるか、論文4では同じく化学療法誘導性の微小環境下でいかに神経芽腫がん細胞が空間及び時系列を超えて遺伝的進化を遂げるか、これら4つのテーマを統合し最終的な学位論文の構成とした。

【対象及び方法】
論文1では卵巣癌細胞株とヒト由来の中皮細胞を用いて卵巣癌腹膜転移のモデルを作成し、細胞コミュニケーションの中で増強するケモカインを網羅解析し、またケモカインががん細胞の機能にいかに寄与するかシグナルメカニズムとともに検討した。論文2ではウィルムス腫瘍でのIroquois Homebox(IRX)ファミリー蛋白であるIRX3およびIRX5の発現を検討し、ウィルムス腫瘍細胞株からこれらの遺伝子をノックアウトした細胞を用いて、IRX3とIRX5が腫瘍形成に及ぼす役割を研究した。論文3では悪性ラブドイド腫瘍における原発巣と転移巣における解剖学的空間及び時相を超えた遺伝学的進化、また転移巣における解剖学的空間を超えた遺伝学的進化を全ゲノム領域のコピー数の網羅解析および、全エクソン解析を用いて検討した。ほぼ全ての腫瘍細胞が有している変異をclonalなイベント、あるクローンが有する変異をsubclonalなイベントと考え、さらに詳細なクローンサイズを計算するclonal deconvolutionを施行した。ここから得たデータからイベントありを1、イベントなしを0とする行列に変換し、最尤推定法を用いて最終的な系統図作成を行った。論文4では、論文3と同じく空間および時相を超えたがん細胞の遺伝学的進化を論文3と同様の手法を用い、系統図作成を行った。また神経芽腫モデルとして患者由来の腫瘍異種移植細胞および高リスク神経芽腫の細胞株を用いて、化学療法誘導性微小環境が上記系統図と同じ遺伝学的進化を誘導し得るのかどうか、実験を用いて再現を試みた。

【結果】
論文1ではがん関連中皮細胞から分泌されるケモカインのうち、C-CMotif Chemokine Ligand 2(CCL2)が最も高値であった。悪性腹水中のCCL2濃度は良性腹水に比べて有意に高く、したがってCCL2が腹膜微小環境内で重要な機能を果たしていることが示唆された。がん関連中皮細胞から分泌されるCCL2はMitogen-Activated Protein Kinase P38(P38-MAPK)を介してがん細胞の浸潤を促進した。さらにCCL2の主要な受容体であるC-CMotif Chemokine Receptor 2(CCR2)の卵巣癌組織の発現が高いほど予後不良であった。論文2ではIXR3、IRX5の発現はウィルムス腫瘍内で異なる傾向を認めた。IRX3をノックアウトした細胞株の異種移植腫瘍では野生型と比べ腫瘍の管腔形成は著名に低下しており、一方IRX5ノックアウト株では腫瘍形成を抑制した。シグナル解析でもIRX3ノックアウト株とIRX5ノックアウト株では異なる結果であった。論文3では、1人目の患者は3つのクローンが支配する腫瘍領域を変化させつつ、変異を蓄積しながら1つのクローンにおける腫瘍領域の増大を観測した。一方2人目の患者では異なる転移巣では全て異なるクローンが支配しており、原発腫瘍は壊死が強く、Deoxyribonucleic Acidが抽出できなかったため遺伝学的検索が不能だったものの、転移巣の解析結果からは原発巣を形成していた別々のゲノムを持ったsingle cellが肺にたどり着き、転移巣を形成したことが想定された。また双方において、転移巣では変異は蓄積しており及びシークエンスデータから推定される新規抗原も増加していた。Programmeddeath-ligand1(PD-L1)を発現しているがん細胞と、cluster of differentiation 8(CD8)陽性T細胞、programmed cell death1(PD-1)陽性T細胞は正の相関にあり、これらの免疫チェックポイント活性は局在性を認めた。論文4では治療抵抗性の患者群では同一クローンからの線形進化をたどり、治療反応群では同一先祖に当たるクローンは同定できず、傍枝系進化を辿った。また腫瘍異種移植細胞および細胞株を用いた実験系から線形進化および傍枝系進化の再現に成功した。

【考察】
論文1では、CCL2-CCR2を介した卵巣癌および腹膜中皮間の双方向的細胞クロストークが腹膜転移の形成において重要性を有することが確認できた。しかしながら、同一の患者でCCL2とCCR2双方の存在がどのように相関するのか、臨床検体を用いて確認することができず、今後の課題と考える。今後は腹水検体、パラフィンブロック双方を有するコホートで比較検討することが課題である。論文2ではIRX3とIRX5をノックアウトした細胞では腫瘍形成にあたり、異なる役割を有することが判明した。高リスクにおけるウィルムス腫瘍のコピー数の解析からはIRX3およびIRX5の低発現がウィルムス腫瘍の予後不良と相関していることが予想されるが、IRX3とIRX5双方をノックアウトした細胞株を作成することはできず、本研究の限界点と考えられた。論文3では悪性ラブドイド腫瘍では転移巣において遺伝子変異が蓄積し、結果増加した新規抗原を標的に、細胞障害性T細胞ががん細胞に反応したと考えられた。PD-1陽性T細胞およびCD8陽性T細胞と、PD-L1発現腫瘍細胞には正の相関が認められ、細胞障害性T細胞から逃れようとしているがん細胞の存在が予想された。チェックポイント活性には局在性を認めており、遺伝学的進化が早期に起きることがこの事象を誘導していると考えられた。悪性ラブドイド腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害剤の使用を検討する場合はこの遺伝学的進化の特徴と、免疫チェックポイント活性の局在性を考慮すべきであると考えられた。論文4では治療抵抗性神経芽腫では一つのクローンからの線形進化を認めており、先祖に当たるクローンを同定することに成功した。一方で治療反応群では傍枝系進化を認めたが、先祖に当たるクローンを同定することはできなかった。傍枝系進化では晩期に獲得したゲノム異常から、早期に獲得したゲノム異常へとクローンは遺伝学的に逆行する現象が示された。傍枝系では共通クローンは認められなかったかわりに、先祖のクローンが保持していたと考えられる遺伝子変異及びコピー数の変異は確認された。この傍枝系遺伝学的進化は神経芽腫の進化の主要経路であり、解剖学的空間、および異なる時相での遺伝学的検討は今後の新規治療を提唱する可能性があることが示唆された。

【結論】
腹膜中皮細胞由来のCCL2が卵巣癌の腹膜転移形成に関わることが判明した。CCL2および下流のシグナルを抑制することは、将来的な卵巣癌の治療対象となりえる。ウィルムス腫瘍においてIRX3が腫瘍細胞の分化、及びIRX5が腫瘍細胞の増殖に関与していることが明らかとなった。悪性ラブドイド腫瘍における腫瘍の遺伝学的進化はゲノム変異を蓄積しながらの多クローン性の線形変化であった。一方神経芽腫は臨床経過により異なり、遺伝学的進化は線形もしくは傍枝系の2系統であった。腫瘍微小環境が腫瘍の表現系および遺伝系に対し重要な役割を果たしていることが判明した。これらの見地が将来的な治療戦略につながることを期待したい。