リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「In silico Statistical Mechanics of Protein Conformational Landscape」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

In silico Statistical Mechanics of Protein Conformational Landscape

Deguchi, Soichiro 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24009

2022.03.23

概要

本論文は、タンパク質のコンフォメーションダイナミクスやナノ構造金属材料との相互作用を、分子動力学(MD)シミュレーションや深層学習を始めとする新たな計算科学的手法・アルゴリズムを導入することで解析を行う研究をまとめたものであり、全 7 章から構成されている。

第 1 章は序論であり、タンパク質の生体内での機能はタンパク質固有のコンフォメーションにより規定され、その例として、接着性細胞が基板の機械的情報を読み取るためにはインテグリンを始めとする巨視的なタンパク質の構造変化が重要であることを概説している。巨視的タンパク質のダイナミクスの解析には従来 MD シミュレーションが主に使用されてきたが、MD シミュレーションの問題点として数マイクロ秒程度の計算が限界であり、金属-非金属間の電子相関を考慮することが難しいことを指摘している。MD シミュレーションの適用限界を克服するために、深層学習や強化学習を用いた新たな計算科学的手法や電子相関を組み込んだ MD シミュレーションの拡張手法について説明している。以下の章での取り組みを要約するとともに、基礎となる深層ニューラルネットワークや深層生成モデル、強化学習の理論的背景について概説している。

第 2 章では、ナノ構造材料と細胞外マトリクス(ECM)の相互作用を調べる研究として、ナノポーラス金上でのコラーゲンの吸着ダイナミクスの解析を行った。仮想電子モデルを導入した MD シミュレーションを実施したところ、ナノポーラス金と平滑金上でコラーゲンのグローバルな構造変化に大きな差はみられなかったものの、吸着エネルギーがナノポーラス金上の方が低くなる現象を確認した。コラーゲンとナノポーラス金の吸着親和性の低下は、ナノポーラス金表面に分布する格子ひずみがアミノ酸残基の吸着サイトを変形することで、コラーゲンの局所的な振動やねじれといった運動が誘導されることが原因であることを示した。

第 3 章では、インテグリン-ECM、ECM-金基板間の相互作用をそれぞれ MD シミュレーションと第一原理計算の複合手法により解析した。第一原計算では、ECM 中の RGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)接着モチーフとナノポーラス金間の強固な擬共有結合がRGD の構造を大きく湾曲させることを示した。MD シミュレーションでは、湾曲した RGD とインテグリンの結合不和により、インテグリン構造の活性化が抑制され、インテグリン活性化をトリガーとする多様な細胞シグナル伝達が阻害されることを示した。

第 4 章では、インテグリンのメカノセンシング機構を分析するために、周期引張力をインテグリンに印加するMDシミュレーションを実施した。αIドメインを有するインテグリンと有さないインテグリンの二種類のモデルを作成し、各々に引張力を印加した結果、α I ドメインを有するインテグリンのみがメカノセンシングに寄与し得るという新たな知見を見出した。α I ドメインを有するインテグリンに引張力を印加すると構造の活性化が促進された一方で、α I ドメインを有さないインテグリンに引張力を印加しても活性化は確認されなかった。

第 5 章では、巨視的なタンパク質の多様なコンフォメーションを探索する新たなアプローチとして深層生成モデル(DGM)を用いた手法を提案した。“ Training with exploration” と呼ばれる学習アルゴリズムを導入することで、小規模な訓練データセットのみから、高解像度のタンパク質結晶構造と広範な自由エネルギー地形を生成することに成功した。DGM をベースとした新たな構造補間アルゴリズムを提案し、従来の MD ベースの構造補間アルゴリズムに比べ、同計算環境下で約 5 倍速く最小エネルギー経路を特定できることを示した。

第 6 章では、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)と深層強化学習を連携した新たな拡張アンサンブル手法として、metadynamical Q-network (MetaQNet)を提案した。MetaQNet は分子計算科学における metadynamics と、強化学習における内部報酬のアナロジーに基づいて設計され、配位空間の過去の状態訪問履歴を記憶することで、様々な系(double-well モデル、アラニンジペプチド、BPTI)の準安定状態からの脱出を促進した。MetaQNet を用いることで、従来の MCMC に比べて、効率的に系の平衡分布を探索でき、準安定構造間の遅い構造遷移のようなレアイベントも積極的に発見できることを示した。

第 7 章は総括であり、本論文で得られた成果を要約している。