若年女性ランナーにおける月経周期と月経の有無が睡眠時代謝と総エネルギー消費量に及ぼす影響

概要

博士論文要約

令和 4 年度

博士論文

若年女性ランナーにおける月経周期と月経の有無が
睡眠時代謝と総エネルギー消費量に及ぼす影響

筑波大学大学院人間総合科学学術院
スポーツ医学学位プログラム

内沢

彰子

博士論文要約

長期間にわたり低い利用可能エネルギーを維持し、無月経が生じているアスリートは、安
静時代謝を抑制することで総エネルギー消費量をある一定のところで頭打ちとする“エネル
ギー代謝適応”が生じていると考えられる。しかし、月経機能に合わせて総エネルギー消費
量の抑制の有無を検討した報告はこれまで存在しないだけでなく、評価指標とされる安静
時代謝比率（測定値/推定値）の算出における測定誤差や推定誤差の影響により安静時代謝
の抑制に関する見解は結果が一致していない。ヒトは 1 日の約 1/3 を睡眠で過ごし、睡眠
時代謝は安静時代謝と高い相関があるだけでなく、安静時代謝より高い再現性と安定性を
有している。したがって、評価指標に睡眠時代謝を代用することで、測定誤差および推定誤
差を軽減したうえでエネルギー代謝適応の有無の検討が可能と考えられる。睡眠時代謝は、
睡眠の質と関連していることから、無月経に伴い安静時代謝および睡眠時代謝が抑制され
ている場合、睡眠の質は最も深い睡眠であり、エネルギー消費量が最低値を示す徐波睡眠を
増加させている可能性がある。また、安静時代謝と睡眠時代謝は、月経周期により変動する
可能性が示されていることから、本論文の目的を月経の有無および月経周期が睡眠時代謝
および睡眠の質に及ぼす影響を明らかにするとともに、無月経ランナーにおいて総エネル
ギー消費量とその構成要素からエネルギー代謝適応の有無を明らかにすることとした。
研究課題 1 では、月経の有無および月経周期が睡眠時代謝と睡眠の質に及ぼす影響を明
らかにするため、睡眠時代謝推定式の有効性を確認したうえで、若年女性ランナーの睡眠時
代謝の抑制の有無を検討した。全ての対象者において睡眠時代謝の抑制は認められないも
のの、安静時代謝と睡眠時代謝の差は身体活動量の増加に伴い抑制している可能性を示し
た。また、睡眠ステージおよび睡眠の質は全ての群で同程度を示すものの、徐波睡眠は、運
動習慣、月経の有無、そして月経周期により発現タイミングが異なることを示した。さらに
女性ランナーにおいて、月経周期は睡眠時代謝および徐波睡眠のエネルギー消費量に影響
を及ぼすものの、月経の有無は徐波睡眠の第 3 ピークの発現タイミングと睡眠中のエネル
ギー消費量にのみ影響を及ぼすことを明らかにした。研究課題 2 では、無月経を有する若
年女性ランナーにおけるエネルギー代謝適応の有無を二重標識水法、メタボリックチャン
バー法、加速度計法の組み合わせにより評価した。無月経ランナーの身体活動レベルは 2.06
± 0.29 であり、身体活動とエネルギー代謝は安静時代謝のみ走行距離と負の相関を示した。
また、総エネルギー消費量は身体活動によるエネルギー消費量と正の相関を示した。
。
本論文の対象となった無月経ランナーにおいて、睡眠時代謝および安静時代謝の抑制は確
認されず、総エネルギー消費量は身体活動に伴い加算的に増加したことから、エネルギー代
謝適応は生じていないと考えられた。しかし、月経の有無は睡眠中のエネルギー消費量の変
動と徐波睡眠の発現のタイミングに、月経周期は徐波睡眠のエネルギー消費量に影響を及
ぼしていることが明らかとなった。本研究は，若年女性ランナーにおける月経とエネルギー
代謝および睡眠関連因子の影響を示した基礎的知見であり、本研究成果は無月経アスリー
トの治療およびトレーニングに伴う月経異常の予防に向けた対応策を睡眠というヒトの生
活に必要不可欠な行動から検討するための糸口になると考えられる。 ...